学園のなんでも屋は部室が欲しい!
りょ
第1話 略してボ部
私立大平川学園。有名大学への多数進学を誇る、全校生徒約950人のマンモス校。
そんな学園内のとある教室にて。
******************
「柳、俺たちに足りないものはなんだと思う?」
唐突に、
話しかけられた
彼女はまとめられた綺麗な黒髪が、揺れるか揺れないかくらいの加減で首を振り、二人しかいない教室を確認する。
「…他の部員ですか?」
「それもそうだが違う。こたえは部室だ!」
木村と柳は、同じ学園ボランティア部に所属している。が、公認ではない。部を自称し勝手に活動しているに過ぎない異常な二人組である。
この学園において部活動として認められるための要件は大きく三つある。部員が4名以上であること。活動内容が明確であること。顧問を請け負ってくれる教師がいること。この上記三つ、彼らは掠りもしない。
故にこの木村という男、必死である。部活動として認めてもらうべく、教師、生徒、学園からの雑用と呼んでも差し支えない依頼を請け負う。いつしか彼らは、学園のなんでも屋と呼ばれるようになった。
「部室が欲しい!」
「そんなに欲しいんですか? 半年経ちますが、不便はないですよ?」
柳はそう言って紅茶を木村に手渡す。
「良いか柳、もし部活動として認められ、部室が出来れば紅茶一式をわざわざ持ち歩かなくても良くなる」
「はっ、なるほど」
柳は目を丸くし、自身の手に持つ紅茶に視線を向ける。
この柳、実家が古くから続く名家である。それ故に若干、いや大幅にズレている。
柳燈河。彼女は幼少期から複数の習い事をこなし、成績優秀。これで運動も出来れば文武両道、完全無欠であったが、天はそれを許さず。
しかし才色兼備ではある。彼女は大和撫子を行くものであり、メイクやアクセサリーなどで派手に飾る事なく、控えめで洗練された美しい容姿を持ち、名家を名家たらしめる教養からか、所作は上品かつ優雅。なぜボランティア部に所属しているのか。木村という男に騙されているからなのかもしれない。
「部室、確かに必要ですね」
木村は1年B組、柳は1年A組であるため、放課後、彼らはどちらかの教室にこうして集まっている。
「そうだろう? それに、どちらかの教室に集まるよりも部室に集まった方がより効率的だ」
机を並べ、椅子に座り活動と称してお喋りをしている。たまに来る依頼を請け、それを実績とし、部活動への昇格を目指す。彼らの活動にとって部室を得る事の何が効率的なのか。考えるだけ無駄なのかもしれない。
「しかし、どのようにして部室を?」
「やはり依頼を受け、名を広める事だろう」
「…つまり、いつも通りと」
木村は頷く。
この男ノープランであった。ただ部室が欲しいという願望を述べただけであった。
木村蒼生。大平川学園へは特待生として入学するほどに勉強はできる。勉強はできるが、頭が良いわけではない。やりたい事、楽しい事に対しては凄まじい熱量を持つが、興味関心のない事となると、まるで別人のように力を失う。
「カァッ、カァッ!」
「ひゃあっ、びっくりした…!」
突然窓の外からカラスの鳴き声が鳴り響き、木村は情けない声をあげる。一人であったのならば驚きだけで済むのだが、目の前には柳という女子がいる。
「ふふ、相変わらず可愛らしい叫び声ですね」
「うるさいっ。最近カラスが増えたな。冬だから番を探しているのかね」
窓の外を見ると、カラスが数羽飛んでいくところだった。それを見送ると、何やら教室の外から人の気配がする。
「あ、今日B組か〜」
「なに奴!?」
「いや、武士かよ」
教室の引き戸から顔を覗かせたのは
ショートボブの髪は良く手入れされており、パーカーを制服の中に着込み、ポケットに手を突っ込んでいる。元々ダウナーな女子である大野だが、今日は表情も相まって、一段とテンションが低い。
「琴音さん! どうぞお座りください」
柳は嬉しそうに立ち上がると、大野用の椅子を用意してそこに座るよう促す。
大野はため息を吐きつつ、慣れた様子で椅子に座った。流れるように持参したポットからお湯を注ぎ、紅茶を淹れる柳。もはや誰もその様子には突っ込まない。
「水曜なのに珍しいな。部活は?」
「今日は人数集まらないから休み。んで、さっさと帰ろ〜って思ったら自転車の鍵落としたみたいで無いんだよね〜」
「お。って事は?」
「そっ。自転車の鍵を一緒に探してくださいってなんでも屋にお願いしに来た」
「琴音さん、なんでも屋じゃなくてボランティア部です」
「そうだ。略してボ部」
「略し過ぎてない?」
「Hi, I'm Bob」
「木村、それアメリカ人の自己紹介。じゃなくて、お願いは聞いてくれんの?」
大野は何度も何度も聞いてきた木村の雑なボケに、これまた使い古したツッコミを入れる。
木村と柳は顔を見合わせる。特段何か意味があるわけではない。強いて言えば依頼を受ける前の最終確認のようなものが、半ば二人のルーティンのようになっただけだ。
そうして、二人は同時に口を開く。
「「YES」」
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