かつて敵対していた軍人達は異世界で共闘し無双する

社不

第1話「終戦からの開戦」

 自衛隊創設以来初の防衛出動が発令された。

 自衛官である俺は、必死に戦って、殺して、殺して、殺して、ふと気づいた時、俺の手は赤く染まっていて、その血はもう洗い流せないほど染み込んでしまっていた。

 殺し合いに疲れ果てた時、砲弾が足元に落ちてきて、俺の下半身を吹っ飛ばした。

 大量の血が流れ出すにつれて、身体中の力が抜けていく。

 薄れ行く意識の中、周囲の騒音が鼓膜を揺らした。銃声、爆発音、敵味方の悲鳴が、だんだん遠くなるにつれて視界が暗くなっていった。

 ああ、俺はこんな所で死ぬんだな。

 ここまでよく頑張ったものだ。こんな人殺しでも、頑張って生きたんだ。誰か褒めてくれ。


「疲れた…眠い…」


 こうして、俺の戦争は終戦を迎えた。



 戦死した俺を待っていたのは、真っ白な無限に広がる空間と、そこに立つ黒スーツの男だった。男は生気のない声色で、一方的に説明を始める。


「ある世界で不愉快な輩が暴れ回っている。お前達にそれの駆除を任せたい」

「は?」


 困惑する様子を見せても男は、構わずさらに続ける。


「お前達は駒だ。駒として役目を果たせ」


 戦死した俺にさらに戦えだなんて酷い話だ。

 来世は平和な国の片田舎でのんびり暮らしたい思っていたのに、死んでまで戦わされるなんて理不尽すぎて納得できない。

文句の一つでも言おうとしたが、そんな暇はなかった。

 男は、指を弾いて甲高い音を響かせる。すると視界が真っ暗になり、意識が消えて次に目を覚ましたのは見知らぬ新たな戦場だった。

 

 *

 

 見渡す限り広葉樹林が広がっていて、人口物は全く見当たらない。

さっきまでのは夢だったのだろうか?だとしたらここは◻︎◻︎島?突然の出来事に混乱しながらも装備を点検する。

 小銃、銃剣、鉄帽、装具、背嚢は損傷なく無傷、背嚢の中身は防水バッグ、着替え、飲料水、レーション、最低限の日用品がつめこまれている。

生前、戦場にに持ち込んだ装備がそのまま揃っていた。

 ただ一つ奇妙だったのは弾倉の中身だ。

 弾倉の中には、弾どころかバネ等のパーツが入っていない。その代わりに暗闇があった。ライトで照らして、覗き込んでもその暗闇の底は見えず、無限に広がっている。ダメ元で小銃に装填してみるとしっかりと弾が込められた。

 試しに槓桿を引いて、何度か排弾してみると、引くたび弾が飛び出て来る。まるで無限に弾が入っているようだ。

 不気味に感じるが、撃てるならなんでもいい。

 地面に広げた装備をまとめようと手を伸ばしたその時、足音がした。咄嗟に振り返ろうとしたがもう遅く、何者かに背後を取られてしまった。


「動くな!両手を上げろ!」


 迂闊だった。

こちらは装備を地面に広げて置いてしまっている。ただですら背後を取られていると言うのに丸腰では抵抗一つできやしないだろう。

 下手に抵抗すれば一瞬で殺される。だからと言ってこのまま従えば、拘束されて捕虜にされてしまうだろう。

国際法では、捕虜は人道的に扱うべきだと明記されているが、実際はその通りには行かない。捕虜になった多くが悲惨な末路を辿っている。俺はそうはなりたくはない。

 ここはどうにかして交渉を試みよう。


「協力しないか?」

「は?」


 これは、考えなしの提案ではない。

 相手が一人なのは、足音で分かっていたし、声色から女性なのも分かった。何より、殺さずにわざわざ生け取りにしようとしているのが引っかかる。もし、俺が相手の立場だったら迷わず引き金を引いているだろう。だが、そうしないと言うことは、一人ではどうにもできない何かがあると推察できる。そこに付け入る隙があるのだ。


「女一人じゃ心細いだろ?」

「……背中を任せろって?」

「その通りだ」

「……」


 しばらく沈黙が続き、緊張で冷や汗が流れる。重い空気が漂い、時間が過ぎていく。たった数十秒も満たない時間が果てしなく長く感じた。

 このままじゃダメだ。そう思った俺はもう一つの賭けに出る事にした。


「あんたも黒服の男にあったんじゃないか?そんで『お前達は駒だ』と言われた。違うか?」

「お前もなのか?」


 乗って来た。正直ダメ元で言ったのだが、うまくいってよかった。あとは畳み掛けるだけだ。


「俺のマガジンを見ろ!」

 そう言って背後に弾倉を投げる。

「これは?!」

「おかしいだろ?この世のものじゃない!あんたの装備にも同じ異常性があるはずだ!」

「…なるほどね」


 どうやら、納得してくれたようだ。


「動いていいよ」

「ありがとう。たすかる」


 ようやく振り返って見ることが出来た彼女はやはり俺と同じく軍人だった。

 人民解放軍採用のデジタル迷彩服で身を包み、ギリーフードを目深に被っている。その手にはスナイパーライフルが握られていた。

 装備をみるに彼女は狙撃手のようだ。単独で行動していたのも納得できる。


「俺の名は、島田 幸聖。君の名は?」

「夢華 雪梅(モンファ シュエメイ)だ。よろしく」

 

 *

 

 ここら一帯の地図を持っていると言う夢華の先導の元、俺達は草木をかけわけながら歩き続けた。

 やたら慣れた様子で淡々と進む夢華の地図は、古臭く、近代の軍が採用しているものに比べて情報量の少ないものだった。

なぜわざわざこんな地図を使っているのかは疑問だが、あるだけマシと言える。問題なのはその地図がどう見ても◻︎◻︎島のものではない事だった。

 ◻︎◻︎島は、それほど広くないはずなのに、夢華が持つ地図では広大な土地が広がっていた。本当に使える地図なのか?と疑問に感じたが、地図上の地形に目の前の地形が重なっているため間違いないようだ。

 俺はいつのまにこんな大陸に転移されたのだろうか?あの黒服の男の仕業なのか?一体なにが目的でこんなことを?そんなことを考えていると、夢華が突然立ち止まり拳を上げた。

 これは止まれの合図だ。

 こくりと頷いてその場に膝をつく。

 夢華は前方に何かを発見したようで、ライフルのスコープを覗いている。

「熊でも見つけたのか?」

「熊より厄介な奴らだよ。」

 日本の生態系で最も危険なのは熊だと言う認識だったが、ここでは違うらしい。海外でも熊はかなり警戒されている危険生物であるはずなのだが、それを超えるとなるとゾウやカバだろうか?

 自分で確認しようと双眼鏡を覗き込む。そして俺は絶句した。

 双眼鏡のレンズに写ったのは熊でもゾウでもなく、二足歩行の巨大な豚だった。

「俺は、夢でも見てんのか?」

 目を擦り、頬をつねってもう一度見てみたがやはりそこには、二足歩行の巨大な豚がいる。

 豚は、その容姿に似つかわしくない毛皮を身にまとい、棍棒を携えた文明的な格好をしていた。明らかに俺の知っている豚じゃない。

 困惑していると夢華が説明してくれた。

「奴らはオーク。魔物の一種だよ」

 魔物とは確か漫画やアニメで出てくる怪物の事だったはずだ。オークもなんかの漫画で見た事がある。問題はなぜその空想上の生物が実在しているのかだ。明らかにおかしいだろ?

「私も最初はおどろいたよ。でもすぐ慣れた。君もすぐ慣れるよ」

 そう言うと夢華は、深く息を吐いて、ライフルの引き金を引いた。

 銃口から放たれた弾丸は、見事オークの胸のど真ん中に命中。オークはたまらずその場に倒れ込んだ。

「行くよ。獲物を回収する」


 

 

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