第19話 赤い夕日は友情の証
じーーーー………………
じじじーーーー………………
じんじろじーーー………………………
「えへへ……」
みちるは困り眉を浮かべながら、少し照れたように笑った。
いつも通りのセーラー服姿。
その隣には綾子。二人並んで歩く姿は、誰が見ても麗しき女学生同士である。
だが、そんな二人の周りを纏わりつく妙な影が二つ。
賢治と徹だ。
朝から暁の家に押しかけ、みちるを迎えに来たのだ。
ついでに暁も、仕方なくその後ろを歩いている。
「ちょっと!鬱陶しいんだけど?!もう少し離れて歩きなさいよ!」
綾子はみちるの腕を引き寄せる。
「いやぁ〜、どうにも信じきれなくてよぉ……」
徹は、横から上から下から、あらゆる角度でみちるを眺め回す。
「本当にな……こんなマブい男が存在するなんて、夢オチなんじゃねぇかと自分の脳を疑ったぜ」
賢治も眉をひそめながらみちるを凝視していた。
「で? あきらはいつから知ってたんだ?」
賢治の問いに、暁は前を向いたまま石ころを足で転がして、ぼそりと答えた。
「初日だけど?」
ピタリ…
二人の動きが止まる
『なんで早く言わねぇんだよ!!』
賢治と徹が同時に詰め寄る。
「お前らが、言う隙を与えなかったんだろうが!」
暁は眉間にシワを寄せ、チラリとみちるを見やる。
「それに、ただでさえ男が怖いのに、お前らなんぞに近づかれたら死活問題だろうが!」
「っかぁ〜〜〜、言うよね〜」
徹は額に手を当て、嘆息した。
「なに、自分だけはまともみたいな事言ってんだよ!そう言う奴が一番ヤベェんだからな!!」
賢治は暁の腕をつねった。
「いでででででっ!」
「はぁ〜〜〜……」
綾子は、呆れ顔でため息をついた。
だが、その隣でみちるを見ると、彼は目を細め、柔らかな笑みを浮かべながら三人を見つめていた。
「みちるちゃん」
綾子はそっとみちるの背中に手を添えた。
「ふふ……」
みちるも小さく頷き、前へと歩き出す。
男子三人の前に立つと、風が彼の髪を揺らした。
「みんな……女の子みたいなぼくは、嫌? こんなみちるは嫌い?」
みちるは、柔らかな声で問いかけ、小首を傾げ、ふわりと笑って見せた。
…………………………
…………………………
『とんでもございません!!』
賢治と徹が同時に土下座した。
「男だろうと女だろうと、みちるは可愛いぜ!」
賢治は片膝をつき、みちるの手を取った。
「みちるちゃんは女子よりも女子!!おお、我が姫君よ!」
徹も続けて跪き、うっとりと見上げる。
『綾子の方が女子ってこと、忘れちまいそうだぜ!』
あははははははははははっ!!
次の瞬間
パシィィィィンッ!!
閃光が走った。
道には、少年二人の亡骸が残った。
学校の授業は、滞りなく進み、
教室では、男子たちに囲まれながらも楽しそうに笑うみちるの姿があった。
その様子に、暁はようやく胸を撫で下ろした。
(もう、大丈夫だ)
放課後、暁はみちるの席に駆け寄った。
「みちる! 一緒に来いよ!」
「え? どこに?」
「俺たちの“縄張り”さ」
沈みかけた夕陽が、町をオレンジ色に染めていた。
銭湯の煙突。そこが、夕焼け電撃隊の“秘密基地”である。
既に暁、賢治、徹の三人は、てっぺんに到達していた。
下では、梯子を登るみちると綾子の姿がある。
「みちるちゃん、あたしが下で見てるから大丈夫よ。上だけ見て登って」
「う……うん……」
みちるの足は震えていた。
それでも、一段一段、懸命に踏みしめて上を目指す。
「みちる! もう少しだ! 手を伸ばせ!」
暁が身を乗り出し、手を差し伸べた。
「……あきらくん」
みちるは、最後の力を振り絞り、指先を伸ばす。
そして、指と指が触れた瞬間、暁はその手をぐっと掴み、引き上げた。
「登れた!」
「よし! 頑張ったな、みちる!」
暁は笑いながら、煙突の縁に座らせた。
続けて綾子の腕を掴み、上へと引き上げる。
風が、五人の頬を撫でた。
煙突の上から眺める景色は、まるで別世界だった。
空は茜色から紫に変わり、遠くの工場群から伸びる白い煙が、龍のように空へ溶けていく。
初めて見る光景に、みちるは思わず息を呑んだ。
「わぁ……」
「綺麗だろ? 俺たちの特等席さ!」
賢治が眩しそうに目の上に手をかざす。
「今日も夕日が目に染みるぜぇ〜」
徹も、やけに詩的に呟いた。
「うん……とっても綺麗……」
みちるは風に髪をなびかせ、そっと目を閉じる。
遠くでムクドリが群れを描き、町はゆっくりと夜を迎えつつあった。
「みちるちゃん、来て良かった?」
綾子の問いに、みちるは微笑みながら答える。
「うん……嬉しい……ありがとう、みんな。……あきらくん」
「うん……へへへ」
暁は照れ隠しに、鼻の下を擦って笑った。
その時
下の方から、甲高い女性の叫び声が響いた。
「きゃああっ!」
「なんだ?!」
暁が煙突の縁から身を乗り出して覗き込むと、スーツ姿の男が逃げるように走っている。
「事件か?!」
賢治が叫んだ。
「待って! ちょっと!」
悲鳴の主は、ハイヒールのまま懸命に男を追いかけていた。
「月子先生だわ!」
綾子が身を乗り出して叫んだ。
暁が腕を振り上げる。
「降りるぞ!夕焼け電撃隊、出動!!」
『おーーーっ!!』
勇ましく声を上げ、全員が一斉に梯子へ飛びついた。
……が。
「……あれ? 徹は?」
賢治が辺りを見回すと、すでに徹の姿は見えなかった。
地上では、月子先生の後ろを、猪のような勢いで追いかける徹の姿があった。
「どったのぉ〜〜??ちゅきこてんてぇ〜〜〜〜〜♪」
ガクッ
煙突の上の四人は、同時に膝から崩れ落ちた。
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