第36話 聖女コラボ始めたんだが、治療ミッションで及び腰? まさか治せない??
「まあ……せっかくですもの。
ギルドでの初仕事、皆さんにご覧いただきましょうか」
完璧な笑顔のまま、イリスは小さく息を整える。
そして、すっとこちらを向いた。
「ただし――コラボ中は、私の配信映像をあなたのチャンネルに流してもらうわ。
照明も角度も、こちらで指定します」
「え?」
「照明の角度も、カメラの高さも、ライティングも合わせたいの。
あなたのドローンは1台だし、反射が強すぎるのよ。光が死ぬ」
(光が死ぬって何……?)
「それに、私の側の回線と同期しないと、エフェクトがずれるの。
コラボ映像は私のアカウントで配信。編集と管理はこちらでやるから」
言いながら、彼女は自分のRankLive端末を軽く傾けてみせた。
その手つきが流れるようで、慣れている。
(……プロだ)
(極端だけど……でもめちゃ真剣にやってんだな)
「……了解です。じゃ、設定合わせます」
「よろしい。――では、始めましょうか」
イリスが合図をすると、ドローンのレンズが自動で光を調整した。
彼女の笑顔が、完璧な角度で映り込む。
【コメント】
「凡神、完全にスタッフ扱いで草」
「光の支配者きた」
「聖女ってこんなキャラだったの?」
「プロ意識嫌いじゃない」
(……まあ、プロだし。尊重しよう)
(地味でも、ちゃんと映ってれば、それでいいか)
***
【翌朝/RankLive配信画面】
視聴者:2,400人、コメント欄:#聖女呼び出し事件 #凡神処刑待機
[カメラ:ギルド共有/常時配信ON・聖女チャンネルと同期配信中]
冒険者ギルドのホールは、昼前のざわめきで満ちていた。
受付の奥、ひげ面のおっさんが帳簿をめくりながら、古びた端末を叩いている。
かすかに漂うインクの匂いと、外の街の光。
そんな中、俺はイリスと並んで立っていた。
「今日の依頼は……魔導炉の点検、魔物退治。
それから──ラシェ村の病気治療だな」
おっさんが俺たちを見やる。
「子どもと老人が多いらしい。熱と咳が止まらねえ。
医療班が行っても原因がわからん」
「病気って……回復魔法とかで治らないんだ」
「治らねえな。外傷ならヒールでどうにかなるが、病は内側だからな」
(そうなんだ)
(色々違うんだな)
「回復……?」
イリスの声が、少しだけ揺れた。
その横顔は、普段の「聖女」らしい微笑の下に、かすかな影を落としている。
「イリスさん……これ、ちょうどよくないです?」
俺は静かに尋ねる。
「……」
イリスは答えず、ただ視線を落とした。
机の端で指先がかすかに震えているのが見える。
(何だろう、気が進まなそう?)
俺は一瞬だけ考え、それから言った。
「ほら、病人を治すって奇跡っぽいし。
この辺の推奨レベルなら、俺でも護衛できるし」
冗談めかして言ったつもりだった。
けれどイリスのまなざしは、ほんの一瞬だけ沈んだ。
何かを噛みしめるように、唇がかすかに動く。
「……わかったわ。そうしましょう」
小さく息をついて、イリスは端末のサイン欄に指を滑らせた。
画面の光が彼女の睫毛を照らし、白衣の裾がわずかに揺れる。
受付のおっさんが書類を受け取りながら、ぼそっと呟いた。
「二人で行くのか? 護衛もつけずに」
「いや、俺が護衛だから」
俺は肩をすくめる。
おっさんは眉をひそめ、しばらく黙ってから煙たそうに息を吐いた。
「……無茶すんなよ。奇跡も命あってのもんだ」
外の扉が開く。
「心得てます」
うなずいたその瞬間――
空気が変わった。
イリスが顔を上げた。
腰の魔導装置がかすかに音を立てる。
白衣の裾が光を拾い、床下の送風魔導がふっと作動した。
風が流れ、光粒が舞い、天井の水晶灯が反射して空気の温度が変わる。
彼女は一歩前に出て、ゆるやかに手を掲げた。
「──ラシェ村の皆様、お待ちになっていて。
わたくし、聖女イリスが皆様を治して差し上げますわ」
その瞬間、背後に淡い光陣が浮かび上がり、
輪が広がるようにギルド全体を照らす。
受付のおっさんがぽかんと口を開け、俺は小声で呟いた。
(……エフェクト出してる)
風が止み、光が消える。
ほんの数秒の演出だったのに、ホールの空気が変わっていた。
イリスは何事もなかったように振り返り、
いつもの落ち着いた声で言った。
「──では、出発の準備を」
【コメント】
「風、起こしたぞw」
「プロの演出すげぇ」
「聖女、現場持ち込みライト使ってる説」
(……ほんとにやってる。自分で演出してるんだ)
俺は半ばあきれながらも、目を離せなかった。
その一瞬だけ、ギルドのざわめきが、神殿のように静まった。
(……始まった)
(俺と聖女の、最初のミッションだ)
どうなるかなんて、まるで予想もつかない。
ただひとつ確かなのは――
この旅路に、もう「平凡」という言葉は通じない気がした。
***
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転生したら【平凡】スキルで、女神に雑に送り出されたけど、気づいたら異世界トレンド2位になりました(本作)
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