第11話 宝飾店とジュエリー

 セレーヌさんが扉を開けて中に入ったので、そのあとに続いた。


「いらっしゃいませ」


 長身の細身な男性が近くへ寄ってくる。その顔はこちらを伺うような、するどい目つきにもみえた。


「伯爵家の知り合いを連れてきたけれど、店内を見させても平気?」


「おとなしい猫も一緒だけれど、中へ入れても大丈夫?」


「にゃー」


 ニルナミが可愛い声で鳴いて、おとなしくしているとでも言いたいみたい。


「さようでございますか。きちんと抱いて頂ければ平気です。どうぞ、ごゆっくりご見学ください」


 一瞬考えたようだけれど、目つきが緩やかになって言葉使いも柔らかく感じた。私ひとりで来たのなら、もしかしたら追い出されたかも知れないから、セレーヌさんと一緒に来られてよかった。


 ニルナミはおとなしくしているから、このままの状態で平気そうね。


 入口から右回りに展示してあるジュエリーを堪能していく。王道のルビーとサファイアから、きらめきがあざやかなスフェーンまであって宝石の種類は多かった。ジュエリーたちの心を感じ取ると、大切に扱われているようで安心できるお店ね。


 入口から1番遠くの奥に、厳重に管理されているティアラが置いてあった。


「中央のダイヤモンドはひときわ大きくて、脇のダイヤモンドを含めてどれも内包物が少ないからきれいよね。地金はプラチナかな?」


 価格は表示されていないけれど、ほかのジュエリーは金貨10枚以上でも安いほうだったから、このティアラは金貨100枚を余裕で超えそうね。


「その通りです。プラチナは加工がむずかしい金属ですが、金色の雫では優秀な加工職人を揃えていますので、プラチナジュエリーも豊富にあります。とくにこのティアラは国内最高峰の仕上がりとなっています」


 先ほどの男性が誇らしげに説明してくれた。


 作りもていねいで、ジュエリーとしては申し分なかった。ただデザインがシンプルに思えて宝石の留め方も王道のみだったので、元の世界にあるジュエリーのほうが圧倒的に技術力は高そう。


 ジュエリーを作るのなら、元の世界は参考にするのがよさそう。


「みごとな宝石とていねいな作りで、ジュエリーもきっと喜んでいるみたい」


「ほかにも自信作がありますので、ごゆっくり過ごしてください」


 説明が終わると男性は少し後ろへ下がった。


 残りのジュエリーを見て、不明点を男性に質問するとていねいに答えてくれた。私自身は庶民の恰好をしているけれど、伯爵家の知り合いなので対応がよかった。


 一通りのジュエリーを見て、お礼を言って宝飾店をあとにした。


「宝石とジュエリーはどうだった? 私にはとても高価で買えないけれど、見るだけでもしあわせになるわよね」


 お店から出ると、セレーヌさんが声をかけてくる。


「お店の対応もよくて、宝石やジュエリー作りの参考にもなったよ」


「にゃー」


 ニルナミも宝石やジュエリーを堪能できたみたい。


「それならよかった。次は工房よね」


 私がうなずくとセレーヌさんが移動を開始した。


 セレーヌさんに続いて歩いて、領都の中心から外れた場所まで来るとセレーヌさんが足を止めた。看板の絵から、ここが工房みたい。セレーヌさんが扉を開けて中に入ったので、そのあとに続いて進んだ。


「ペンタさん、見学しても平気?」


 奥にいる男性に向かって、セレーヌさんが声を張り上げた。初老くらいと思われる男性は、手を止めて椅子から腰を上げた。背丈は成人男性くらいで、白髪はあるけれど筋肉質な体格をしていた。


「セレーヌか。伯爵様に頼まれているジュエリーの納期はだいぶ先のはずだぞ。それとも急に仕様が変更になったのか」


 最初は男性に視線が移動したけれど、すぐにテーブルに乗せてある鉱物へ興味が移った。遠くにあるので何の鉱物かは不明だけれど、鉱物が私に訴えかけてきて、原石のままで彫ってカメオになりたいみたい。


「その件とは別よ。じつはジュエリーに興味のある女性がいて、見学させてもらえないかと思ってきたのよ」


 私が鉱物の心を感じていると、男性が近くまで移動してきたので、意識を鉱物から男性へと移した。


「宝飾店へ行けばよいはずだぞ」


 私を見たあとに視線をセレーヌさんへ移動させた。


「完成品ではなくて、ジュエリー作りを見たいらしいのよ」


 セレーヌさんが私のほうへ顔をむけたので、私に答えてもらいたいみたいね。


「旅をしていて、最近この領都へ来たルチェリよ。宝石やジュエリー作りに興味があって、セレーヌさんにこの工房を紹介してもらった感じね」


「にゃー」


 ニルナミも私の腕の中であいさつした。


「この子はニルナミよ、おとなしいから一緒に見ても構わない?」


「危険なことをしなければ、猫を抱いていても構わない。ただ嬢ちゃんはジュエリーを買うのではなくて、ジュエリーを作りたいのか」


 半信半疑の表情で私を見ている。


「原石を入手する目処が立ったから、宝石とジュエリーを作ってみたい。騎士の装備や魔道具を作った経験があるから、細かい作業や金属の扱いには慣れているよ」


 同じモノづくりでも、装備品と魔道具では重要となる部分が異なった。同様に宝石とジュエリーは、また異なる重要部分があるので実際に見て確かめたかった。


「唐突に来て見たいと言われても、もしかして伯爵様の関連者か」


「シェリアお嬢様や私たちの命の恩人だから、見学だけでもお願い」


 セレーヌさんが助け船を出してくれた。


 シェリア様たちが襲われたのは私が原因でもあるから、助けたことについて大げさにはしたくなかった。でも見学ができるのならあえて否定はしたくない。


「仕方ない。このような小さなカメオ工房の技術を盗んだとしても、たかが知れている。わしはペンタだ、好きなだけ見学していってくれ」


「ありがとう。それと、ひとつお願いがあるのよ」


 見学する前に、どうしても叶えたいことがあったので聞いた。たぶん、私にしか叶えられないことなので、結果が駄目であっても確認だけはしたかった。

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