第9話 モフモフ猫との時間

 間髪を入れずに執事のカクチェスさんが部屋に来た。60代くらいの男性で、伯爵家に長年勤めているのか執事としての風格が滲み出ていた。


 金貨10枚を受け取って、何かあればとなりの部屋にメイドが控えているので、声をかけて欲しいと教えてくれた。


 カクチェスさんも去って寝るだけとなったけれど、今までにも経験したことのない1日ですぐには眠れそうになかった。


「まさか異世界へ来るとは思わなかったけれど、女神ヴェーニル様から与えられたこの状態を楽しみたい。ニルナミも一緒に楽しんでいこうね」


「にゃーん」


 そのつもりだとも言いたげに頷いてくれた。


「そういえばこの世界には精霊魔法と神聖魔法があって、少し試したら私にも精霊魔法が使えたよ。この世界にある精霊魔法と神聖魔法だけれど――」


 リベイラ様たちに教えてもらった内容をニルナミに説明した。やはり元が女神ヴェーニル様だから、ニルナミは私の言葉を理解しているようで頷いている。ニルナミもこの世界の魔法には興味があるようで、興味深そうに聞いてくれた。


「まだ水の精霊魔法のみだけれど、このあと残りの精霊魔法を試してみようかな」


「にゃーにゃん」


 ニルナミは精霊魔法を見たいようで窓付近へ移動した。窓を開けるように催促しているようで、外にいる精霊で試してほしいみたいね。


 ニルナミの期待に応えるように窓を開けると、ひとつだけ見える月が地面を照らしていた。風と土の精霊が近くにいると思われたので、それぞれの呪文を唱えるとどちらの魔法も成功できた。


「これからもよろしくね。風と土の精霊さん」


 私の声に反応して、多くの風と土の精霊が私の周囲を飛び回った。風の精霊はきれいな緑色の人族女性の姿で背中に羽があって、土の精霊は土を思わせる色の人族男性の姿で体格がよかった。どちらの精霊も水の精霊と同じくらいの大きさね。


「あとは火の精霊のみだけれど、近くには火がないから無理よね」


 部屋の中は明るいけれど、魔道具で明るくしているので火の精霊がいるとは考えにくい。窓の外にも明るい場所は見えなかったので近くにはいなそうよね。となりの部屋にメイドがいるみたいだけれど、わざわざ呼ぶのも申し訳なかった。


「にゃーご」


 私は無理だと判断したけれど、ニルナミを首を横に振っている。私になら火の精霊魔法もできると言われていると感じた。ニルナミが意味もなくできると判断しているとは考えにくい。


 もう一度周辺の状況や私自身を考えてみた。可能性があるとすれば、私の心にある火の精霊なのかな。


「ものは試しね。火の精霊よ、我に力を、スモール・ファイア」


 体の中を精霊が通り抜ける気配を感じながら、手をかざした右手に精霊が集まるのが分かった。手のひらから魔道具くらいの明るさがある炎が出現した。どうやら私自身も精霊として認識できるみたいね。


「これで何処でも精霊魔法が使えるからうれしい。火の精霊さんもよろしくね」


 周囲に火の精霊の姿は見えなかったけれど、挨拶が聞こえたのか窓の外から火の精霊が部屋に入ってきた。炎を思わせる体で、人族男性の姿をしていた。


「ニルナミもありがとう。ぶじに4大精霊に会うことができたよ」


「にゃー」


 どういたしましてと言っているようで、やっぱりニルナミは女神ヴェーニル様と同じくらいすごいのかもしれない。


 しばらくの時間は精霊たちの姿を楽しんで、夜も遅くなってきたのでベッドで横になった。近くにはニルナミもいて、体を撫でてやるとやさしい表情をみせた。グレーブルーの毛並みのモフモフ感は、私をいやしてくれる存在でもあった。


「ねえ、ニルナミ。精霊とも仲よくなれたから、精霊の祝福が使えればうれしい」


「にゃー」


 目を細めて気持ちよさそうな表情で応えてくれた。


「元の世界では装備や魔道具を造っていたけれど、魔物がいない世界だから宝石やジュエリーを作って、精霊の祝福を付与するのも面白そう。この世界での私らしい目的ができて、完成した宝石やジュエリーが楽しみよね」


 過去に出会った宝石やジュエリーを浮かべながら、ニルナミへ語りかける。


「にゃー」


 ニルナミも楽しみにしてくれるみたい。


 普段ならこのくらいで疲れることはないけれど、ニルナミと話しているうちに、まぶたが重くなってきた。生まれ変わったばかりの体だからか、見知らぬ世界だからかは不明だけれど疲れているみたい。


 それでもニルナミを撫でる癒しの時間をもう少し味わっていたかった。


「ニルナミがいて、この世界でのこれからが楽しくなりそう」


「にゃー」


「私は宝石やジュエリー作りから試したいと思うけれど、ニルナミも何かしたいことがあれば言ってね」


「にゃー」


 ニルナミの返事は、私に任せるような雰囲気に聞こえた。この世界で自由に楽しんで構わないと言われたようにも思えた。


「ありがとう、ニルナミ」


「ふにゃー」


 私がずっと撫でているからか、喉を鳴らして私へ甘えだした。


 可愛らしいニルナミの顔が、まぶたが降りてきて見えなくなった。本当に今日は疲れているみたい。新しい世界での1日が終わろうとしていて、無事に過ごせてよかった。女神ヴェーニル様に心の中で感謝を述べて眠りについた。

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