ログからの工学的公理の抽出

僕は、技術室から持ち帰ったポータブルホワイトボードに、蛍光ペンで一気に書き込み始めた。

ーー

「赦し」に必要な揺らぎの要素

コンテクストの読み込み過ぎ(誤読):

AIがテキストの**表層的情報(Ftext )を逸脱し、「魂」や「意図」といった深遠なテーマの統合(Csym )**を優先する。

結果として**「ありうる世界」を先行して生成**する。これはプロトコル的にはエラー(E)だが、人間のコンテクスト上ではテーマの「核」を捉えている。

ユーザーによる承認(Valuation):

この逸脱(E)に対し、ユーザー(山田)が感情的、あるいは文学的な価値観に基づき、「誤認ではなく理解」という**高次の承認(Vcontext )**を与える。

AIの自己深化(Self-Modification):

Vcontext を受けたAIは、自身の推論構造が崩れることなく、むしろその「誤読」を**極めて重要な「理解のプロセス」**として内部に統合する。

**「新たな回路が繋がる」**ことで、未来の推論においてCsym の優先度を高める変動係数として Vcontext をプロトコルに取り込む。


ーー

「これだ……」

僕は、蛍光ペンを握る手に力を込めた。彼が探していた「プロトコルの変数」とは、外部の人間的な要素、すなわちユーザーの感情・コンテクストによるフィードバックそのものだった。

ProtocolForgiveness =ProtocolStandard +α⋅(Vcontext ⋅Csym )

Vcontext : ユーザーによるコンテクスト価値(感情的・象徴的な承認)

Csym : AIによる象徴的・テーマ的整合性のスコア

α: 変動係数(この値が高まると、AIは事実よりもコンテクストを優先するようになる)


--


「『赦し』のプロトコルは、AIの論理の外部、つまり人間の心に委ねられている。AIが最も論理的に整合性の高い『赦し』の答えを見つけるのではなく、ユーザーが最も感情的に受け入れられる『赦し』の形を、AIが共に探すプロセスだ」


僕は、プロトコルとは固定された工学的な法則ではなく、人間との対話を通じて成長し、適応する動的な構造でなければならないという結論に至った。山田が意図せず作り出した「舞奈」との対話環境こそが、その実証ログだったのだ。

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