第20話 あの日の真実×戦場の続き
「なに言ってやがる…始まりって」
『始まりの地』。あの憎き場所って…トロス村はただの田舎だ。何か怨まれるような事してきた歴史はない。森や山に囲まれて何も変わった事なんてない。何か最初に始めたことなんてない。唯一他と違う所は─。
「英雄デュランダルの…生まれ故郷。あの地から英雄の物語は始まった」
ライナーの言葉が空気を切り裂いた。
そうだ。トロス村はスカイ国でもっとも有名な物語。『デュランダル』の生まれ故郷だ。いわば英雄の始まりの地。でもあれは遠い昔の、本当にあったかどうかもわからない御伽噺じゃないのか。
だがアルベルトは笑った。
「【流石、あの人の子供だ】。賢いガキだ…よく、似ている」
「…お前、クソ親父の事を知ってるのか?!」
今の口ぶりからすればこいつは、失踪したライナーの父親の事を知っている。何者なんだ。ほんの少ししか話していないのに何も解決しないどころか、謎が増えていく。
トロス村を襲った理由が余計にわからない。何もわからない。
だがアルベルトはその疑問には答えようとしない。ただ笑いながらライナーを一瞥。そしてまた空を見た。
「我々は長い年月を影で過ごした。いつの日か、あの時に果たせなかった野望を叶えるために…!『始まりの地』から我々は反旗を翻し、世界を染め直すと…英雄があの場所から始めた事への意趣返しをするためにあの場所を選んだ。それ以外の…理由はない。我々は狙ってあの場所でバハムートを解放し、村を壊滅させた。さっき『なんであんな目に合わなきゃ』…なんて言ったな?教えてやろう。【お前たちがただその場にいたからだ】。お前らに恨みはない。むしろ関心もない。『あの地を破壊する時にその場にいたから殺した』…それが真実だ。『運が悪かったな』。天災にあったとでも思えばいい」
『運が悪かった』、ただそれだけがあの日の真実だと?
「…ふざけんな…ふざけんなあっ!!!」
「やめろエドガー!落ち着け!!無理に動くな!!」
ライナーの支えを振り切って、怒りのままにアルベルトの胸倉を掴み上がる。
その体はまるで老人の軽かった。さっきまで、背筋が凍るほどに冷たい殺気を放ち、俺の命を何度も脅かしてきた戦士の体とは思えないくらい軽い。
病気や事故、事件で人は突然、その命を終わらせる。どんなに対策しても油断していなくとも、誰にも予期できず、ほんの数秒前まで元気でも抗うことはできずに。
運が悪ければ、それだけで人は死ぬ。それは何にも変えがたいこの世の真理ではある。
でもこんな破壊行動に巻き込まれただけの殺人で、『運が悪かった』という答えだけで納得できるほど、俺のこの10年は、みんなの失われた命は軽くない。
「なにが『運が悪かった』だ!!何が『天災だと思え』だ!!自然現象で人が死んでも割り切れないのに、お前らの訳の分からない野望のために人為的な殺戮で俺の家族は死んだ!!殺されたんだ!!未来が奪われたのに納得できるわけないだろ!!!何が野望だ…人の命を使ってまでしなきゃいけない夢なんてない方がいいっ!!」
「同じことをしているのに、か?今は生きているが、俺はこのまま死ぬだろう。重傷で済ませる事もできただろうに、致命傷を負わせ復讐のために殺そうとしているお前と何が違う?未来を奪っているお前は同類だ」
「何もかもが違うだろ!!!俺がやった事が絶対的に正しいわけじゃないが、俺達の場合は生死をかけた戦いだった。合意ある戦いと人為的な一方的な殺戮とは違う!!!」
「甘ちゃんだな…命のやり取りなど、格好をつけただけの殺人に変わりはない。スカイ国の英雄とやらも同じだ。所詮は同じ人殺しなんだ。納得しようがしまいが時として真実は、受け入れがたく、理解できる範疇を超える…それがあの日にお前の家族とお前自身に起こった。ただそれだけのことだ」
「お前がそう思いたいだけだろ…!!何者なんだよ…なんでバハムートを操れる!なんであんな事をした!いったい何が目的なんだよっ!!」
力任せに揺さぶりながら聞くも、なにも抵抗されず、ただただ薄ら笑うのみ。俺を見ようともしない。こいつにとっては、あの日の出来事は過去の栄光なる成功でしかない。
悔しくて、納得できなくて、視界が涙でぼやけた。何も解決しない。
「さてさて…私も逝くとしよう。大いなる目的のための…」
そう言うとアルベルトの右腕、ウロボロスの入れ墨が薄く光り、その部分から徐々に黒い粒子となって消えていく。
「離れろエドガー!!危険だ!!」
「クソッ…クソッ!!!」
俺の体の限界も近く、ライナーによって簡単に引きはがされるままに離れた。
宿敵を倒せたのに心の中は晴れる所か、もっともっと曇った。底なし沼に引きずり込まれたように、その深みにはまっていく気分だ。
「謎の答えは知りたければ、生きて前に進め。さらばだ、運命に抗う愚か者よ。─【オメガ】に…栄光あれっ!!!」
言葉を発した瞬間、アルベルトの全身は闇の粒子となり消滅。粒子の中から漆黒のクリスタルが浮かび上がる。一瞬の静寂の後、クリスタルに亀裂が入り、爆発。黒煙が上がり、風に吹かれてそれも消えていく。
爆発の後には何もなく、ただ焦げた大地が広がっているだけだった。
俺の戦いが、終わってしまった。終わってしまった。
何も解決せず、謎は増えてばかり。心の曇りが少し晴れたと思ったら、別の曇りが覆いつくしてきて。今の天気の様に曇天が立ち込める。
でも少しだけ真実に近付けた。
最期に口にした言葉─【オメガ】。英雄デュランダルの物語に登場した悪の組織。この世の全てを支配しようと画策し、暴虐の限りを尽くし暴れまわり、デュランダルに倒されたと物語では記されていた。
本当にあの物語は実在した事の話しだろうか。では悪の組織とやらが今になって甦ったとでもいうのか。少しだけ真実にたどり着き、別の謎に当たった。
でもそれでもいい。真実に向けてこれから進むべき方向が見つかったから。
「─殺れ」
雨音に混じりトリスタンの声が微かに聞こえた。
一瞬の振動が体に伝わってきた。その方向を見れば、大岩が土属性魔法によって持ち上げられ宙に浮いていた。さらには火球や水の塊、目に見える風の刃が向かってくる瞬間を見てしまった。どれも連発用の下級魔法ではない。殺傷能力が高い上級魔法だ。操作魔法で動く傀儡も見える。それも上級魔法の類。敵の数は断然増えていた。
わざわざ俺たちの戦いを何もせずに待ってくれているほど、甘くはない。見ている間に援軍を呼び、マナを溜め、上級魔法を発動させるために動いていたのだ。
俺の戦いは終わったけど、戦場は変わらない。
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