第34話 決着──双獅の終焉
黒と金――
二色の光が激突し、
轟音が森を貫いた。
大地は裂け、
古代遺跡の柱が砕け散る。
視界が白く塗り潰され、
鼓膜が破れんばかりの咆哮が響き渡る。
――ルガロス
――ライオネイル
互いの名前を呼ぶかのような魂の声が
空間に染み渡っていく。
どちらも後には引けない。
誓い合った王と王。
魂を賭けた戦い。
◆
「行け、ライオネイル!」
レオが叫ぶ。
白銀の獅子はさらに輝きを増し、
すべてを貫く光となって黒獣王へ突進する。
「――吼えろ、ルガロス!」
レンの声に応じ、
黒獣王は漆黒の咆哮を解き放つ。
白と黒の衝突。
それは光でも闇でもない――
魂そのもの。
押し合うように、
空間がビリビリと震える。
リヴィアが叫ぶ。
「レン、危ない!!」
黒い噴煙の中、
レオがレンへと迫る。
黄金の刃が――
弧を描き、レンの首を狙う。
(速い――!)
反射で身をそらし、黒刃で受ける。
衝撃が腕を痺れさせる。
「っ……!」
「集中しろ、レン!」
ルガロスの声が響いた。
獣王の咆哮に意識が引き戻される。
レンは黒刃を握り直す。
冥府で見た魂──
帰らなかった人々の想い。
(負けられない)
(まだ……終われないんだ)
足を踏み込む。
地面がひび割れる。
◆
「はあああああああッ!!」
レンの渾身の斬撃。
黒い弧がレオへと殺到する。
「甘い!」
レオは黄金の防壁で受け止めた。
だが――衝撃で吹き飛ばされる。
バキィッ!
地面に叩きつけられ、
土煙が舞う。
「くっ……!」
レオが立ち上がるも、
その鎧はひび割れ、
血が滲む。
レンの瞳が細まる。
「王国は……魂を喰ってるんだろ」
レオの動きが止まった。
「冥府の者から、聞いた」
リヴィアが続ける。
「魂を加工して……
騎士や魔術師に力を与えている。
……そうなんでしょ」
沈黙。
重い沈黙。
その沈黙が、
真実を肯定していた。
レオは剣を握り直す。
「――それは、必要なことだ」
「……必要?」
「王国を守る力は、どこからか得ねばならない。
我らは……生き延びるために……
魂を鎖としたのだ」
その声は震えていた。
誇り高い騎士の声ではない。
迷いを抱えた、一人の男の声。
「本心は……違うんだな」
レンの言葉に、
レオの肩が揺れた。
だが、次の瞬間――
レオは表情を殺し、剣を振り上げる。
「それでも――
退けぬ!」
黄金のオーラが爆ぜる。
レオはライオネイルと魂を繋ぐ。
その力が、肉体を蝕んでいく。
(これ以上は……まずい)
レオ自身が崩れてしまう――
その直感が走った。
◆
白銀の獅子が最後の咆哮を放つ。
その牙が、黒獣王へ突き刺さる――
「――許さん」
ルガロスの両眼が漆黒に染まる。
【獣王解放──深黒】(アビスロード)
黒霧が噴出し、
空間そのものを飲み込む。
「ぬぅ……ッ!」
ライオネイルが押し返される。
白い輝きが、黒に侵されていく。
(ルガロス……お前、そこまで……!)
レンの叫びが届かない。
黒獣王は魂の底へ降りていく。
魂が燃え、
魂が叫び、
魂が喰らう。
――闇に堕ちるな。
冥王の声が
レンの魂に響いた。
(やめろ……!
それ以上は――)
レンは走り出す。
黒と白の境界へ。
「ルガロス!!」
魂喰いの黒刃を突き立てる。
黒い渦が裂け、
獣王の咆哮が止む。
ルガロスは、
かすかにレンを見た。
「……主よ」
その声は、
深い安堵を含んでいた。
黒い霧が消え、
ルガロスは白を弾き返し――
闇の中に、王として佇んだ。
◆
残ったのは――
膝をつくレオと、
光を失い倒れゆくライオネイル。
「……俺の負けだ」
レオは呟き、
剣を地に落とす。
その手は震えている。
痛みではなく、
魂が――泣いていた。
「ライオネイル……すまない……
俺は……王国を救えたのか……?」
白獅は静かに目を閉じる。
その身体は光となり、
空へ dissolving していく。
儚い光の粒が
レオの掌をすり抜けていった。
「……あぁ……」
レオは泣いた。
騎士としてではなく、
魂と契約した、一人の人間として。
◆
「……終わった、の?」
リヴィアが呟く。
「いや――まだだ」
レンは前を見据える。
レオが静かに問う。
「王国へ……来るのか」
「行く。
俺は最後まで、あの歪みと向き合う」
レオは、目を閉じて頷いた。
「……なら、俺は止めない。
だが――辿り着いた先にあるのは、絶望だ」
「それでもいい。
俺は……もう逃げない」
レンは黒刃を握りしめ、
ルガロスとリヴィアの名を呼んだ。
「行こう。
俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ」
ルガロスが静かに頷き、
リヴィアが涙を拭って笑う。
三人は、傷だらけの森を抜け――
王国へと向かう。
闇に潜む、
真の敵を討つために。
――魂の道は
まだ、終わらない。
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