第34話 決着──双獅の終焉

黒と金――

二色の光が激突し、

轟音が森を貫いた。


大地は裂け、

古代遺跡の柱が砕け散る。


視界が白く塗り潰され、

鼓膜が破れんばかりの咆哮が響き渡る。


――ルガロス

――ライオネイル


互いの名前を呼ぶかのような魂の声が

空間に染み渡っていく。


どちらも後には引けない。

誓い合った王と王。

魂を賭けた戦い。



「行け、ライオネイル!」


レオが叫ぶ。

白銀の獅子はさらに輝きを増し、

すべてを貫く光となって黒獣王へ突進する。


「――吼えろ、ルガロス!」


レンの声に応じ、

黒獣王は漆黒の咆哮を解き放つ。


白と黒の衝突。

それは光でも闇でもない――

魂そのもの。


押し合うように、

空間がビリビリと震える。


リヴィアが叫ぶ。


「レン、危ない!!」


黒い噴煙の中、

レオがレンへと迫る。


黄金の刃が――

弧を描き、レンの首を狙う。


(速い――!)


反射で身をそらし、黒刃で受ける。

衝撃が腕を痺れさせる。


「っ……!」


「集中しろ、レン!」


ルガロスの声が響いた。

獣王の咆哮に意識が引き戻される。


レンは黒刃を握り直す。

冥府で見た魂──

帰らなかった人々の想い。


(負けられない)


(まだ……終われないんだ)


足を踏み込む。

地面がひび割れる。



「はあああああああッ!!」


レンの渾身の斬撃。

黒い弧がレオへと殺到する。


「甘い!」


レオは黄金の防壁で受け止めた。

だが――衝撃で吹き飛ばされる。


バキィッ!


地面に叩きつけられ、

土煙が舞う。


「くっ……!」


レオが立ち上がるも、

その鎧はひび割れ、

血が滲む。


レンの瞳が細まる。


「王国は……魂を喰ってるんだろ」


レオの動きが止まった。


「冥府の者から、聞いた」


リヴィアが続ける。


「魂を加工して……

 騎士や魔術師に力を与えている。

 ……そうなんでしょ」


沈黙。

重い沈黙。


その沈黙が、

真実を肯定していた。


レオは剣を握り直す。


「――それは、必要なことだ」


「……必要?」


「王国を守る力は、どこからか得ねばならない。

 我らは……生き延びるために……

 魂を鎖としたのだ」


その声は震えていた。

誇り高い騎士の声ではない。

迷いを抱えた、一人の男の声。


「本心は……違うんだな」


レンの言葉に、

レオの肩が揺れた。


だが、次の瞬間――

レオは表情を殺し、剣を振り上げる。


「それでも――

 退けぬ!」


黄金のオーラが爆ぜる。


レオはライオネイルと魂を繋ぐ。

その力が、肉体を蝕んでいく。


(これ以上は……まずい)


レオ自身が崩れてしまう――

その直感が走った。



白銀の獅子が最後の咆哮を放つ。

その牙が、黒獣王へ突き刺さる――


「――許さん」


ルガロスの両眼が漆黒に染まる。


【獣王解放──深黒】(アビスロード)


黒霧が噴出し、

空間そのものを飲み込む。


「ぬぅ……ッ!」


ライオネイルが押し返される。

白い輝きが、黒に侵されていく。


(ルガロス……お前、そこまで……!)


レンの叫びが届かない。

黒獣王は魂の底へ降りていく。


魂が燃え、

魂が叫び、

魂が喰らう。


――闇に堕ちるな。


冥王の声が

レンの魂に響いた。


(やめろ……!

 それ以上は――)


レンは走り出す。

黒と白の境界へ。


「ルガロス!!」


魂喰いの黒刃を突き立てる。

黒い渦が裂け、

獣王の咆哮が止む。


ルガロスは、

かすかにレンを見た。


「……主よ」


その声は、

深い安堵を含んでいた。


黒い霧が消え、

ルガロスは白を弾き返し――

闇の中に、王として佇んだ。



残ったのは――

膝をつくレオと、

光を失い倒れゆくライオネイル。


「……俺の負けだ」


レオは呟き、

剣を地に落とす。


その手は震えている。

痛みではなく、

魂が――泣いていた。


「ライオネイル……すまない……

 俺は……王国を救えたのか……?」


白獅は静かに目を閉じる。

その身体は光となり、

空へ dissolving していく。


儚い光の粒が

レオの掌をすり抜けていった。


「……あぁ……」


レオは泣いた。


騎士としてではなく、

魂と契約した、一人の人間として。



「……終わった、の?」


リヴィアが呟く。


「いや――まだだ」


レンは前を見据える。


レオが静かに問う。


「王国へ……来るのか」


「行く。

 俺は最後まで、あの歪みと向き合う」


レオは、目を閉じて頷いた。


「……なら、俺は止めない。

 だが――辿り着いた先にあるのは、絶望だ」


「それでもいい。

 俺は……もう逃げない」


レンは黒刃を握りしめ、

ルガロスとリヴィアの名を呼んだ。


「行こう。

 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ」


ルガロスが静かに頷き、

リヴィアが涙を拭って笑う。


三人は、傷だらけの森を抜け――

王国へと向かう。


闇に潜む、

真の敵を討つために。


――魂の道は

まだ、終わらない。

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