これが私の家族?
「ん……ん?」
「リディ! 目を覚ましたのかい⁉」
「……お父さま……?」
薄暗い部屋の中目を覚ますと、どうやら私は豪華な天蓋付きのベッドに寝かされているようだった。
ぼんやりとした視界の中に入ってきたのは私の手を握り、悲痛な面持ちで私を見つめる男性の姿だった……。
まだ記憶が混在しているけど、私の今の幼女の身体に刻まれている記憶が目の前の男性を『お父様』と認識し、気づいたら声をだしていた。
まだ前世の私が納得していないので思わず疑問形になってしまったけど……。
ゲームには悪役令嬢の母の方がよく登場し、父親のほうはモブキャラだった気がするけど、目の前の人物はなんともイケオジだ。
なんとなく状況を把握した私は、周りを見渡そうと身体を起こそうとするけど、
「リディアさん、もうすこしその、寝ていたほうが……」
と、私のことをやんわりと制する声がし、声がした方へ目を向けるとそこにはお人形さんのように可憐な女性が……。
この人はたしか義母のマリー様だ……ゲームでよく見た顔だ……!
ゲームの中の朧げな記憶では、このマリー様と悪役令嬢のリディアの仲は最悪だった気がする。
リディアの実の母は病気で亡くなっており、父の後妻であるこの母と呼ぶには若すぎるマリー様は商人の家系の出で、作中ではたしかたまたまゲームの舞台である学園に来た夫人と主人公が意気投合し、庶民の主人公に貴族のマナーなどを教えてくれたり、攻略対象の好感度を教えてくれたりするお助けキャラのような人だったような……。
そして庶民の主人公が、悪役令嬢リディアにされた意地悪などをこの義母のマリー様に相談し、
「私の娘がごめんなさい……実は私もあの子と仲良くなくて……きっと私が貴族でなく商人の出の後妻だからですわね……きっとあの子も本当の母の死をまだ受け入れられてないから私を受け入れてくれないのかもしれませんわ」
などと言って、ヒロインの姉的ポジションに居た気がする。
ゲームでは攻略対象の好感度も教えてくれるしランダムに発生するイベントでこの人に会えればステータスが上がる一方、悪役令嬢であるリディアが処刑や断罪されるエンドでは、
「いや! やめて! あの子は私の娘なの! 本当は優しい子なの!」
と、泣き叫んでいて
「え? でも国に自分の娘の悪行をチクったのはマリー様では?」
とユーザーを困惑させ、二次創作では「注意:うちのマリー様は腹黒です」「※マリー様が天然なので許せる方向け」など書かれたり本心がわからないとされていた。ちなみにお相手がマリー様の夢小説があるくらい何故か熱狂的ファンの方々も居る。
心が広すぎる天使か、はたまたそれを全て計算でやっている悪女なのかよくわからないキャラだった、あのマリー様が私の目の前に……。
私には昨日までの悪役令嬢(幼女の姿)の記憶もぼんやりあり、この義母を幼女ながらに無視したり、お母様とは決して呼ばずに「マリーさん」と他人行儀に接していた覚えもあるので今正直めっちゃ気まずい……。
義母は義母で心配そうな顔をしながらも、まだ私とどう接したらいいか測りかねているように感じるし……その顔は『娘を心配するフリをしている腹黒マリー様』と『どんなに娘に嫌われようとも娘を労わる聖母のマリー様』の一体どちらなの⁉
「リディアさん、心配したのよ……? 具合は大丈夫ですか? お医者様は貧血とストレスだろうと仰っていたけど、どこか痛かったり苦しいところはありますか?」
「大丈夫です……お母さま……」
私がそう口にした瞬間、マリー様が目をクワッと見開き口元を手で押さえる。
「い、いまお母さまって……!」
あ、ヤバい。
混乱して思わず『お母さま』って呼んでしまったけど、これって二次創作でよく見た感動シーンであってよく考えたら原作には無い行動だった!
マリー様は私の言葉に目を見開くと、その大きな目に涙をためて手で顔を覆う。
お父様もマリー様の肩に手を添え支えていて「初めてお母様って呼んでくれたね……!」とめっちゃ感動してしまった。
「えぇ、えぇ! 私は貴女のお母様です! 辛い時は母が傍におりますとも! 母の私に甘えてくださいね……!」
「今までマリーをお母様って呼ばなかったのも、リディなりに思いつめてのことなんだね……ひょっとしたらそのストレスで倒れちゃったのかもしれないから、ゆっくり休むんだよ? それで、ゆっくりリディのペースでいいから僕たちで新しい家族になっていこうね?」
と、感動したよう私の手を取る両親。
まずい……なんか凄く勘違いさせてしまったし、この『新しい家族』というキーワードはこのゲームにおいてけっこう頻繁にで来るキーワードだったような……。
たしかゲームの主人公は両親を早くに失くし孤児として生活してたところ魔法の才能が開花しゲームである魔法学校の入学が認められる。そしてそこで出会った攻略対象と出会って結婚する。
主人公はまさに『幸せな新しい家族』を築く一方、恋敵である悪役令嬢は新しい家族を受け入れずどんどん孤立していくキャラだったような……。
「目が本当によかった覚めてよかった。お腹は空いていないかい? どこか痛いところや辛いところは?」
「大丈夫です……お父さま」
心配そうな顔で私を見つめるお父様。
ゲームでは悪役令嬢リディアの父は出てこなかったけど、お父様イケメンすぎない⁉
イケメンというよりイケオジという感じでハンサムだし、これが2次元の力?
もほやこの人こそ乙女ゲームの攻略対象に相応しいのでは? と思ってしまうけど、さすがにどんな美形も「悪役令嬢の実の父」だったら攻略しずらいか……。
「まだ少しボーっとしているね。今日はこのままゆっくりお休み?」
「そうよ、リディアさん。それとも眠れないなら母が傍に居ましょうか?」
「……大丈夫です。おやすみなさい」
「あぁ私の愛しのリディ。私たちは親なんだからそんなに気を使わなくていいんだよ? ……ここに僕らが居ると今日はゆっくりできなそうだから退出するけど、何かあったら呼ぶんだよ」
「はい……」
「リディ、あたたかくして寝るんだよ?」
悪役令嬢……恵まれすぎでしょ……。
ついこの間までの婚活で荒んだ心が浄化されていく……私もこんな素敵な家庭を築けたらいいのに……。
何よりお父様は目の保養すぎる。
ゲームではあまり描かれていないけど、もっと殺伐とした家庭を想像していたから、優しいご両親で本当に良かった。
こんななに優しくてカッコいいお父様と、美人で優しいお母様に裏がある訳ない。
両親が部屋から退出した後に、天井を見ながらこのゲームの世界に思いを馳せる。
タイトルはたしか……なんだったけ……ダメだ頭が重い……。
乙女ゲームで……攻略対象はたしか王子に騎士に他には執事みたいな人もいたような……。
そう、思いながら私は重くなる瞼に抗えず、また意識を手放したのだった。
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