7 素敵だと思います


 ミライは綺麗な街に見惚れていて、危うく先を行く加古川に置いて行かれそうになった。


 ゴールデンウィーク六日目、フランス、パリ。

 ミライと加古川は男に教えてもらった情報を基に、この街に来ていた。

 得た情報は、会場の場所を知っているという人物の住所。それがパリのとある一軒家ということだった。

 観光もそこそこに、二人はその家へと向かった。



 家は郊外の自然に囲まれた場所にあり、そこら中で鳥のさえずりが聞こえて、ミライは優雅な気分になった。

 二階建ての赤い屋根の家の前に立ち、二人は顔を見合わせて頷き合った。そして、加古川がインターホンを押した。

 ピンポーン、と音が聞こえ、すぐに「どなたでしょうか?」という声が聞こえた。


「加古川と申します。少しお話があるのですがよろしいでしょうか」と彼が言うと、少しの沈黙を挟んで「ええ、お入りください」と声が聞こえた。



 その人物は、とても優し気な雰囲気で、見たところ三十代くらいの女性だった。   

 ミライと加古川は居間に通された。女性は二人に紅茶を運んできた。


「これはどうも」

「ありがとうございます」


 ミライがそれを飲むと、豊かな風味が口の中に広がった。

「おいしいっ」


 ミライの感動する様子を見て、加古川も飲み、「確かにおいしいな」と言った。


「それはどうも。あ、私アレアといいます。あなた方は、ええと」


「私は先ほど申し上げた通り、加古川といいます。日本で俳優業をやっております。そしてこちらが」

「今村ミライです。日本で中学生をしています」


 二人の話にアレアは驚いている様子だった。

「日本からわざわざこちらに……? 一体なぜなんですか?」


 加古川が話を切り出した。

「実は、あなたが会場の場所を知っているという情報を得まして、こちらに伺ったわけなんです。ごめんなさい、突然で」


 アレアは、ああ、と合点を得たようだった。

「私がアカシックレコード当選者であることをご存知なのですね」


「ええ、そうです。それにしても、てっきりもっと大きな家に住まわれているのかと……。ああ、失礼しました。当選者は皆豪邸に住んでいるものと思っていたので」


 アレアはそれを聞いて微笑んだ。

「そうですよね。大概の当選者はお金を得るための検索をしますからね。私はお金には興味が無くて……。変わっていますよね、自分でも変だと思うんですけど」


「変じゃないです! 私、素敵だと思います」

 ミライがそう言うと、アレアはまた微笑んだ。慈愛に溢れた笑顔だった。


「今回の会場の場所を検索したっていうのは本当なんですか?」


 加古川が聞くと、アレアは頷いた。


「ええ、本当です」


「失礼かもしれないですが、これまたなんで会場の場所なんかを調べたんですか?」


 加古川の問いに、アレアは戸惑いの表情を見せた。


「ええと、それを説明するのはちょっと大変なんです。実際に見せた方が早いと思います。場所を変えましょうか」


「場所を……?」

 ミライは紅茶に入れた砂糖をスプーンで混ぜながら、不思議そうに言った。

 その瞬間、手に力が入らなくなり、スプーンが床に落下してカツーンと音を立てた。それを拾おうとしたが、次は全身に力が入らなくなり、視界がぼやけ、ついにはバタリと倒れてしまった。


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