卒業枠30名の実力至上主義の学園に、異物が混ざり込む
璃々宮志郎
第1話
暗い部屋に俺は居る。
その場所はとある機関の会議室。
そこで俺は、目の前にいる父とは言い難いが血縁関係のある男から鋭い視線を向けられていた。
「.....はぁ」
短い静寂の後に聞こえてくるのはため息。
部屋が暗いため、はっきりとした表情は分からないが
ため息をする時は『気苦労や失望などから』と辞書で読んだことがある。
目の前の男から感じれ取れるのは一種の失望だろう。
そしてその失望した原因を作ったのは俺だ。
「お前は自分の立場が分かっているんだろうな」
俺は言葉を返さず、返すのは沈黙のみ。
「厄介な所に逃げ込んでくれたものだ」
男が机に広げたのはとある学園のパンフレット。
そして俺はその学園の筆記試験、面接など全てを終え、今に至る。
その学園で行われてた試験での合否を知り、俺を呼び出したのだろう。
「誰からこの学園の事を教わった」
「......」
「あぁ、答えなくていい。こちらですでに把握しているからな。ちなみにだが、そいつらはもうここには居ない」
そいつらとは俺が物心がついた時から傍に居たこの機関で働く者の事を指している。
「ここには居ない」というのはこの場所、この機関。
それともあるいは...
「拓斗。お前の身勝手な行動で2人が消えた」
「あんたが消したの間違いだろう」
「いや違うな。そいつらの言うことなど無視すればよかった。そして聞こえていたとしてもこの機関に残るという選択をしていたらこんなことにはなっていない」
そういいながら無造作に二枚の写真を投げてくる。
「見ろ。そいつらには家族がいた。だが今頃はお前のせいで使わない箸が増えていることだろう。その日々使われていた箸や食器を見つめ家族の者達は何を思うだろうな」
落ちた写真を見る。
母親、父親、子供一人が映っており、その写真からは家族構成が分かる。
機関の中で俺に対し向けていた顔とは違い、家族にしか見せない種類の顔を写真からは伺える。
「何を言おうが、あの学園に合格してしまった時点で学園の生徒になった。生徒になった以上こちらから圧力をかけようが意味はないだろうな」
そう。
意味がない。
俺が入学した学園。
そこは政府が新たな目論見で設立した学園。
生徒となった者は、様々な縛りを受けるが、どの様な家庭、出生だろうと入学費用の免除。
そして様々な最新の施設を取り入れている整った環境があり、その中で退学にならず、成績を修めた生徒の卒業後は望んだ将来が約束される。
「入ってしまったのは仕方がない。拓斗、自主退学しろ」
「俺がその言葉に対する返答は何か分かっているはずだ」
「ああ、分かっているがこれは最後のチャンスともいえる。俺はこの後、お前をそそのかした馬鹿共の家族の後処理をしないといけない。が、お前が自主退学をするならその後処理はしなくてすむ。俺は忙しいんだ、時間を取らせるな拓斗」
少し考える素振りを見せる。
が、俺の好奇心はもう止まらない。
生まれてから今の今まで出ることのできなかった外の世界。
学園では何を学び、プログラム、強制されていない中での同年代、あるいは年上との会話。
決められていない時間の過ごし方や一般常識。
外の世界では何を学べるのだろうか。
「単なる思春期での暴走...では収まらないぞ」
その言葉から察するに今後、自主退学しなければ俺の身に何かが起こるのだろう。
この男がしてくることを凌ぐのはかなりの労力を使うことになる。
「『ここじゃ学べない事が外にはある』そう俺は言われた。そして俺はそれを学びたいと感じた。ただそれだけだ」
そう言い、俺は会議室を後にする。
会議室に潜む三つの内、二つの気配が消える。
一つはあの男。
もう二つは...
背後から飛来する暗器を俺はその場から離脱することで避ける。
「殺せば学園からの探りが入るぞ」
でまかせを言ってみたが相手の動きは止まらない。
暗器が立て続けに向かってくるがそれを避ける。
気配を断ち、右に展開していた者からは氷の手裏剣が飛ばされる。
流石は機関創設者、父である
ただ、俺は同業者でもなく、この機関で学びを終えた生徒だ。
単なるコンビネーションや暗殺術では俺を殺せない。
そして会議室に入る前に仕掛けておいた魔法が発動する。
罠にかかった暗殺者の片足が落ち、地面に転がった暗殺者目掛け俺は、学園に持っていくはずだったシャープペンシルを飛ばす。
が、それはもう一人の暗殺者によって止められてしまう。
「ッ...」
スタイルからして女であろう暗殺者は数ある選択肢の内
選んではいけない選択をしたことをその場で知る。
各方面の壁にはすでに魔法陣が展開されており、拓斗が魔法陣を起動させれば死ぬ。
「敗因は、最近雇われたようだから俺の事は言葉だけで聞かされ、その実力を確認する前に交戦することになった。そして、俺との実力差を上手く測ることができなかった」
一歩、また一歩と暗殺者に近づく。
本来近付いていいものではないだろう。
至近距離まで近付いた後、捨て身覚悟で暗器を飛ばされれば避けれることは難しい。
だが、俺はこの女性がそうしないことを確信しているため近付く。
ポケットに入れていた糸を女性の足元に落とす。
「すぐに止血しないと間に合わなくなるぞ」
女性は、俺から視線を動かさない。
「俺が離れるべきか」
俺は後ろを見ることもなく長く広い廊下から外に出る。
幸い、学園に着くまで新たな刺客に襲われることはなかった。
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