女子高生が桃太郎に転生したら、お供がエセ海賊と人外美少女とモンスターおじさんだったんだけど!?
今江彰人
1:何なのこいつ!?
一体どうしてこんなことに。
だだっ広い草原に立ち尽くしながら、私はぽつりと呟いた。
「……何これ。モモタロウじゃん、私」
どこか持て余し気味な艶やかな衣装に、背中に背負った巨大な白旗。腰布に括りつけられた小型の袋に、反対側にはなんと刀までついている。
目が覚めたらいきなりこの格好で放置されていたのだ。はっきり言って訳がわからない。
「ジンバオリ……っていうんだっけ、この服」
そういえば高校の友人のノアが、いつか着てみたいと言っていた気がする。まさかこの事態は彼女の仕業だろうか。夢ということもないだろうし。
(……でも、あれ?)
しかし、ここに来た経緯は一切思い出せない。ノアは最後に会った時、何を言っていたっけ。
立ち上がって周囲を見回すと、奥の方に川が見えた。他に手がかりも無いので歩み寄ると、それは思ったよりも近かった。
水面を覗き込み、自分が自分であることを確認する。とりあえず思考を整理しようと、川に背を向けて伸びをしたその時。
「おい、そこの小娘!」
「は? えっ、誰? どこ!?」
「ここだ、ここ! 川を見ろ!」
訴えるような声に促されるまま振り向くと、何と不衛生なことか。
そこには、野晒しなせいか所々が黒ずんだ巨大な桃が……
「……えっと、誰もいないみたいだから行くね」
「待て待て待て! 見なかったことにするな、早く引き上げてくれっ! この川、思ったよりも流れが強い!」
私は混乱の最中にいた。腰に付いた袋にも団子が入っていそうだし、これは多分そういうことなのだろう。
かと思えば目の前には腐りかけの桃があって、中からはおおよそモモタロウに似つかわしくない粗暴な声が聞こえてくる。
そもそも誰だ、こいつ。主人公は私じゃないのか?
心底関わりたくなかったが、話が進まなそうなので、私はとりあえず桃に刀を突き立てた。
「いってぇ! 何しやがる!」
「あ、ごめん。でも触りたくないから……」
適当に謝りながら桃を川岸に引き上げる。私が十歩ほど退くと、桃はひとりでに割れた。というか腐り落ちた。
「ふぃー! ありがとよ、助かったぜ……おい、何でそんな遠くにいんだよ」
「……意外とイケメンだ」
中から出てきた男は、私よりはるかに高身長で、そして思っていたよりもずっと若かった。狭い場所で固まってしまった首をさする姿は、中々様になっている。
……が、問題はこいつの格好だ。金髪であること以外は全身黒ずくめ。私と同じように腰から武器を下げているが、全体的にボロボロである。一方腕や指には謎の光物が巻き付けてあり、貧乏なのか金持ちなのかよくわからない。額にも大きな傷があり、総じて悪い意味でただ者じゃないのは見て取れた。
「一応聞くけど、あんた、何であんな状況になってたの?」
「ん? あー、乗ってた船が壊れてちまってよ。近くの民家に寄ったら、じいさんとばあさんが気味悪い巨大桃を拾ったっつうから、船代わりに借りたわけ。すると、乗る時に斬ったはずの断面が何故か塞がって閉じ込められちまったんだよな。いやー、参ったわ」
聞かなきゃ良かったかもしれない……
「……じゃあさ、この世界の出口的なのってわかる? その、私道に迷────じゃなくて、念のため確認だけしておきたいなって」
「世界の出口? はははははっ、お前何言ってやがる! オカヤマにそんな素敵なもんがあるわけないだろ! あれか? そういうのを夢見るお年頃ってわけか」
こいつ、殺してやろうかな。抜刀したいのをぐっとこらえ、私はため息交じりに踵を返す。
まあ一応、ここがモモタロウ発祥の地オカヤマであるという情報は得られた。そうとわかればこんな変人に構っている暇は……
「おい、どこ行くんだよ」
私が去ろうとすると、背後から一段低い声で呼び止められる。
「まだ話は終わってないだろ」
「話すことなんて別に無いけど。あ、その桃ちゃんと返しておいてあげてね」
「ああ、今度な。それよりほら」
男はおもむろに手を差し出す。私は眉を潜め、その手と男の顔を交互に見た。
「何?」
「まだもらうもんもらってねぇだろ? 俺はそういうのはきっちりしたいんだ」
「ああ、そういうこと。気持ちは嬉しいけど、別にお礼とかは────」
私が言い終えるよりも早く、風の切られる鋭い音がした。男が剣を抜いたのだと認識できた時には、私の眼前には青い刃が迫っていた。
「なっ……!?」
驚愕して声を上げるも、男はその場から動いていなかった。距離は十メートルは離れている。きっとこれは、奴が放った衝撃波みたいなものだ。
私が慌ててしゃがみ込むと、青い斬撃は頭上を悠々と通過していった。
「ほお……今のを避けるか」
「え、だ、だってめっちゃ遅かったし……」
「…………」
男が傷ついたような顔をしたが、今はそんなことどうでも良い。
「ちょっと、どういうつもり? 私を攻撃したよね、今」
「はっ、いちいち言わないとわからねえか? 身ぐるみ全部置いて行けって」
「……その格好といい、傷といい、あんたまさか」
私はごくりと唾を飲む。男は一転得意げな顔になり、ぐんと胸を張った。
「海ぞ────」
「そうとも、我が名は
何だか嫌な臭いがした。色々な要因で悪くなった桃の異臭がここまで漂ってきているのだ。
そんな臭いに意識を吸い寄せられるくらいには、私の彼への関心は冷めきっていた。
「……川賊? 海賊じゃなくて?」
「あ? 川で活動してんだから川賊に決まってんだろ」
「いや、横文字と並べるとダサすぎっていうか……せめてリバー・パイレーツとか、江賊とかそういうのに……」
「川賊じゃないと海賊と掛けられないだろ!」
ダメだこいつ、多分本当にアホなんだ。しかも大して掛かってないし。
「さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ! 俺に出会ったやつはみんな身ぐるみ剥がれる! それがこの世界の常識だ!」
「! も、もしかして桃を借りたおじいさんとおばあさんも……!」
「勝ってたらこんな傷つかねえだろ!」
「負けたの!? 老夫婦に!? 嘘でしょ!?」
額の傷のまさかの秘密に愕然とするが、男は徐々にヒートアップしていた。
先ほどの斬撃は遅かったが、運動部でもない私が大の男と斬り合って勝てるかは怪しい。ここはやはり逃げるべきか……
「逃がすか……! 俺はもう負けるわけにはいかねぇ! せめて小娘くらいには勝たなきゃ、川賊は廃業だ!」
「くっ、や、やるしかないの……?」
ジリジリと迫ってくる川賊。一触即発の最中、彼は瞳を燃え滾らせながら叫んだ。
「この地の全てを奪い尽くして、俺は大海原に旅立つ! 俺の目には既に、広大な外界が映っているのさ!」
「……ん? 待って、オカヤマって確か、陸で塞がれたセトの海に面し────」
「黙れ、そして喰らえ! 水神剣スプラッシュ・ゴッド・ソードっ!」
「だっさ!! ああ、もうっ!」
こんな色々と終わっている奴に負けるわけにはいかない。飛び掛かってくる男に対し、私は瞬時に刀を抜き、虚空に向けて叫んだ。
「こんな奴のところに連れてきて……あんたの仕業だったら恨むからね、ノア!」
─────────────────────────
少し短めの新作を始めてみました! 気軽に読める青春コメディとなっております。
評価や感想等、お待ちしております!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます