光魔法はザコザコ魔法 ~タスケテ、美少女AIと人造人間が人類を滅ぼそうとして来ます~
苺味初芽
第1話 タスケテ、美少女がうん〇を食べさせようとしてくる
ステンドグラスでくみ上げたカテドラルの尖塔の天井のそれを割って、降り注ぐガラスの破片とともに、二人の少女がその衣装をあられもなくはためかせながら降り立つ。
一人は黒いショートボブの六~七歳の’少女、もう一人は亜麻色の長い髪をした十四~五歳ほどの少女だった。
剣と盾で武装した周囲の兵士たちの視線がが少女たちのそのはしたない姿に釘付けになっている間に、小さい方の少女が袋からその兵士たちへ金属で出来ている光る玉を投げつける。
「侵入者だ! 取り押さえろ!」
兵士の一人が我に返って声を上げたが、その緩い放物線を描いて飛んできた玉が触れると、彼は小さく声を出して昏倒した。
その室内の中央に十歳くらいの少年を押さえつけている男がいた。
今まさにナイフを少年に突き立てようとしたまま固まっていた男に、もう一人の亜麻色の長い髪の少女が引き金のついた射出装置から同じ球で無力化する。
二人の使う玉は当たった相手に張り付くと、破裂音と電撃で次々と昏倒させていく。
腕をつかんでナイフを振り上げていた男が倒れ、急に静かになったことに戸惑う少年に向かって二人の少女が椅子取りゲームのように押し合い圧し合いながら走り寄る。
「えっと、あの」
少年の言葉を無視してひどく派手な登場の割には少し眠そうにすら見える表情で亜麻色の髪の乙女が彼の前に立ち、片脚で立って両手でハートをかたどっていった。
「わたしは、9HSSR-0029380239203984002789037423874。親しみを込めて9HSSR-0029380239203984002789037423874ちゃん、ってよんでねっ」
言葉の意味はわからなかったが、亜麻色の長い髪の少女の間近に迫った緑色の目と、そのあまりにも整った顔立ちに、少年はドキリとした。
小さい方の少女が相手を押しのけるようにして答える。
「その情報はまだ開示条件が整っていないぞ! スキャンするからそこをどけ!」
小さい方の少女も、その年の程では見たことが無い程整った顔立ちをしていた。その小さな顔がどんどん近づいてきた。
彼が首を傾けると、その少女も同じ方向に傾ける。年上の方の少女が羽交い絞めにしなかったら唇と唇が触れていたかもしれない。
「あの、助けてもらって、ありがとうございます」
小さい方の少女がバンザイをして羽交い絞めからスルリと抜けると、ショートボブの黒髪を乱したまま礼を言う彼の顔を両手で挟み込んで命令口調で言った。
「瞬きをやめろ!」
少年は驚きに固まりながらも、その小さな手に挟まれたままリクエストにこ応じようとできるだけ目を見開いて見せた。
その少女の大きな黒いひとみに小さな光点が明滅するのを目にした。
「虹彩イメージ取得」
そう言うと彼の口に自分の口をつけて、彼の口内を彼女の舌が届く範囲を余すところなく嘗め回した
「サンプル照合開始・・・・・・。遺伝子合致率、99.9%、ホモサピエンス・サピエンスである可能性が非常に高い」
少年の頭に疑問が走ったが、彼女の熱烈な行動に冷静な思考がかき消されていた。
そう小さい方の少女が触れるほどの近さのままで断言すると、突如後ろの年上の少女が片脚で立ってでバレエのようなポーズのまま、ゆっくり一回転する。察するに、喜びを表現しているように見えた。
亜麻色の髪が風にたなびき、明るい緑色の瞳が床に散らばったガラスのせいか、やけに輝いて見えた。こういった状況でなければ、少年はそれを美しいと思ったであろう。
「あの、どういうことですか?」
彼がそう言ったのに合わせたかのように地に伏せていた男の一人がうめき声をあげる。年上の少女がランチャーから光玉弾をその男に当てると小さい方の少女が言った。
「撤収!」
「めいれいしないで」
ダルそうにすら聞こえる口調に反するスピードで、亜麻色の髪少女が彼をお姫様抱っこで持ち上げると小さい方の少女が彼女の背中におぶさった。
少女が走り出すとその髪が後ろへ靡いた。進行方向に現れた人影に、おぶさったショートボブの少女が玉を投げていく。渡り廊下のような通路を全速で走ると、通り過ぎる時に右手の階段から剣と盾で武装した集団が上がって来るのが見えた。
背中の少女が袋を逆さにして空になるまで光る玉を床に転がせる。
背後で男たちのうめき声を聞きながら、通路の行き止まりを見て少年が覚悟を決めていると、ショートボブの少女が亜麻色の少女の腰のホルスターからランチャーを抜き取って玉を打ち込む。
衝突と共に砕けた窓へ向かって少年を抱えたまま亜麻色の髪の少女が飛び、下へ落ちる。
「ヒャッ!」
少年が小さく悲鳴をあげる。三人が地に叩きつけられるべきところが布製のひさしに着地し、破れながらも落下の勢いが相殺される。
その下につなげられていた馬の一頭に少年を騎乗させると、亜麻色の髪の少女が後ろから飛び乗りそのカテドラルかを後にする。
背後から迫った他の馬へ少年が目を向けると、ショートボブの少女がランチャーで馬上の男たちを狙撃していく。
追手がいなくなり、10分ほど馬を走らせたあと、少女は手綱を引いて道の傍らの雑木林へと馬を向けた。
彼女は先に降りると、その背からショートボブの少女が飛び降り、亜麻色の髪の少女の手が少年のわきの下から支えて馬から降りるのを手助けした。
「はやく、こっちに」
そこには雑木林の木の枝でカモフラージュされた車両があった。その車両は平面を組み合わせたような変わった形をしていたが、砂漠迷彩という少年が見慣れた要素を持っていた。
「えっ? 軍用車両?」
少年の言葉に二人の少女がくるりと頭を回らせて彼の目を無言でのぞき込むように見てきた。
「え、あれ? 何か問題発言ありました?」
固まった三人の中で我に先に返ったのはショートボブの少女だった。
「それは後だ。まずカリアティードに戻ろう」
「うん」
亜麻色の少女が同意に頷くと、少年を開いたドアから押し込んでから乗って来た。
ステアリングが無いその車両はボブの少女が逆側のドアから乗ると、勝手にダッシュボードが点灯してモータの唸りが車両を押し出した。
舗装されていない泥道を場違いな軍用車両が疾走する。後ろを見るガラスを守るために設けられたルーバーの間から景色が見える。
「どうする?」
彼が後ろを見ている間に何かあったのか、亜麻色の少女がショートボブの少女に聞いていた。前に向き直ると景色は木がまばらな荒れ地に変わり、その先の先に見える砂漠に砂煙が上がっているのが見えた。
「戻る選択肢はないな」
少年は申し訳なさそうに二人の間の会話に口を挟んだ。
「あの、助けてもらってあり難いんですが、何処へ向かってるんですか?」
年上に見える方の少女に問いかけたが、彼女は何も言わずに少年の頬を撫でて来るだけだった。ショートボブの少女が言う。
「法により現時点では明かせないことになっている。目的地に到着したら正式な検査を行えるので、それにあなたが合格した際には全てお話することが出来ます」
もし合格しなかったら? 少年はその疑問を飲み込んだ。いずれにしても今、まさに亡き者にされようとした所を助けてもらったのだ、悪いことは無いと信じたかった。
信じる者は救われる。そう言ったのは誰だったか。悪いことが起きた。予想と方向性とは違ったが。
車両がひっくり返り、彼らは砂嵐の真っただ中にいた。少年は頭の痛みに手をやると、ぬるりとした感触に気づき、手を拭う物の見当たらない場所で触れてしまったことを後悔した。
年貢の納め時、という古い言い回しがあったな、とふと頭によぎった時、彼は視界が暗くなり、意識が遠のくのを感じていた。
***
彼が朦朧とながら意識を取り戻した時、自分の視覚がひどくぼやけていることに最初に気が付いた。彼はガラスのチューブのようなものの中に立たされていたようだった。
目の前に二人の人影が、見える。それがあの二人の少女だと判別できる程度には意識がはっきりしだした時、液体が排水される音が聞こえてその水位が首まで下がった時、自分が液体を呼吸していたという事実に気が付いた。
視界がクリアになると、思考能力も少し戻って来るのを感じた。二人の少女がしゃがんで彼の股間を真剣に見つめていることから、ようやく自分が液体の中で全裸であったことに気が付く程度には。
「ちょっと! やめてください!」
苦情を言っても聞こえないのか、少年が両手で押さえた股間を何とか別の確度から見えないかとその二人の少女は首を傾げて食い入るように見入っていた。
「まったく!」
「良い物を見せてもらった」
苦情を言う少年にショートボブの少女が悪びれることもなく言う。
亜麻色の少女はしゃがんだまま、彼が着せられた病院のガウンのような衣装の裾に息をフーフーと吹きかけていた。
少年は裾がめくれないように手でまとめながら、二人に礼を言った。
「あの、僕はアムといいます。あの、助けてくれてありがとうございました」
小さい方の少女が彼を左前方に促すと、どういう技術か、その何もなかった床からテーブルと椅子がせり上がって来た。
「私は、カリアティード」
椅子を進めて自分も座りながら、黒いショートボブの少女が自己紹介をする。
亜麻色の髪の少女はテーブルの向こうに立ったまま言った。
「わたしは、9HSSR-0029380239203984002789037423874。親しみを込めて9HSSR-0029380239203984002789037423874ちゃんってよんでね」
片脚で立ち、両手で胸の前にハートを作っていた。
「……すみません、覚えられません」
得意そうだった少女の顔が急に虚無に襲われたそれになる。
ショートボブの少女が構わずに続ける。
「あなたは、はホモサピエンス・サピエンスであることが100%確定した。その時よりこの都市、カリアティードとその全ての遺産の主ということになる」
「カリアティードって君の事だよね?」
少年は今知ったばかりの名前が変な用いられ方をしたのを聞き逃さなかった。
「そう、私はカリアティード。この都市を運営するAIだ。この都市と私は一心同体。そして、君の望みは私への命令だ。何でも申しつけてくれたまえ」
亜麻色の髪の少女がグラスに入った水と皿に乗ったフルーティーな香りのするお菓子的な何かを彼の前に置いた。それはソーセージを輪切りにしたような形をしていて、明るい杏子色の半透明な濡れた質感をしていた。
「ああ、食べていいの? ありがとう」
フォークを手に取った彼の手首をショートボブの少女が信じられないほどの力でつかんで止める。
「9HSSR-0029380239203984002789037423874、プロメテウス揺り籠法(人類保護法)第567条22項を言ってみろ」
亜麻色の髪の少女はくるりと顔をそむけた。ショートボブの少女、カリアティードが続ける。
「この栄養バーはその源泉を明らかにせずにホモサピエンス・サピエンスに与えてはならない」
少年、アムはぎょっとして聞いた。
「え? これって毒なの」
ショートボブの少女は彼の手首をつかんだまま答えた。
「毒ではない。むしろこれだけ食べていれば健康になる」
「じゃあ……」
「この栄養バーの出所が分かってから食べるのであれば私には止める権限はない」
「え? どこから持ってきたの?」
亜麻色の髪の少女、9HSSR-0029380239203984002789037423874は他所を向いたまま黙秘を決め込んでいる。
カリアティードと名乗った少女が答える。
「これは、9HSSR-0029380239203984002789037423874の排泄物だ」
少年の手からフォークが落ちる。
「9HSSR-0029380239203984002789037423874はガラテア、いわゆる人造人間だ。ホモサピエンス・サピエンスが緊急事態に追い込まれた時、自らの排泄物から水と栄養を提供することが出来る」
「えっ、水も!?」
彼は飲もうとしてたグラスから手を離した。危うくこぼしそうになる。
「水は心配ない。完全なH2Oだ」
カリアティードにはこのH2Oと別のH2Oの違いが分からないようだった。
「親しみを込めて、9HSSR-0029380239203984002789037423874ちゃんって、よんでね、てへっ」
文面の割にフラットな声で言う彼女にアムは少し思案してからかえした。
「ごめん、僕記憶できる自信がないから、最初の数字から取って、ココって呼んで良い?」
出会ってからずっと眠そうだった瞳が見開かれる。彼女はまた片脚で立ち、ゆっくりと回りながら胸元に両手でハートを形作っていった。
「親しみを込めて、ココちゃん、ってよんでね」
アムは自信なさげな、ひいき目には笑顔に見えるかも知れない微妙な表情を彼女に返した。
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