第3話 家宝のロザリオ

前世の記憶を思い出し、遠い未来に一族に訪れる未来を知っても、アイナは特に未来をどうにかしようと動き出そうとはしていなかった。


「遠い未来のことだ。私には関係ない……」 そう自分に言い聞かせてはいたが、心の奥底では、ざわめきが止まなかった。


だが転機が訪れた。


ある日、姉マリナの誕生日祝いの席で、それは爆発した。


父がとても大切にしていたロザリオを、マリナの15歳の誕生日に譲ったのだ。あのロザリオは、父がかつて勇者パーティーの一員として同行し魔族の侵攻を退けた証。銀の鎖に輝く宝石が、父の誇らしい過去を物語っていた。


父がロザリオを大切そうに磨いている姿をよく見ていた。誇らしげな微笑みを浮かべ柔らかい布で丁寧に丁寧に磨きあげていた。


「これは家宝だ。マリナ、お前が伯爵家を継ぐのだから、受け取りなさい」


そう言ってマリナにロザリオを手渡す父の声は優しく、しかし力強かった。


アイナの心臓が激しく鼓動した。


ロザリオを見て、急激にゲームの記憶が蘇ってきた。


あのロザリオは、ゲームでレオーナが断罪されるシーンで身につけ、理不尽に引きちぎられ、踏みつけられて壊される。


暴力描写を抑えたゲームだからこそ、その破壊の瞬間が大写しになり、プレイヤーの心を抉る。


ゲームではそういう演出だった。しかし、今は現実だ。


父が誇らしげに大切に大切にしていたロザリオを、今、目の前で、姉マリナが身につけている。

そして、ゲームの世界、おそらく未来の世界では、マリナに良く似たレオーナがそのロザリオを身につけていて、無惨にも引きちぎられ、破壊されてしまうのだ。


涙が溢れそうになる。



マリナはロザリオを手に取り、胸に押し当てる。

内面では、父の信頼が喜びとして満ちるが、同時に重圧がのしかかる。


「これを継ぐということは、すべてを背負うこと……失敗は許されない」


彼女の心は、苛烈さの仮面の下で、家族への深い愛情と、守るための覚悟で揺れ動いていた。


父はロザリオを渡す手が、微かに震えるのを感じた。

内面では、過去の栄光と喪失が交錯する。


「このロザリオは、勝利の象徴だが、失った仲間の痛みも……マリナよ、お前なら、この重みを理解できるはず」


それぞれがロザリオに対して、思いを馳せていたので、アイナが涙ぐんで震えていたことには、誰も気が付かなかった。



「許せない……私たち家族の大切なものを、そんな風に壊されるなんて!」


心の中で叫ぶ。涙が滲み、怒りが燃え上がる。アイナの内面で、静かな決意が芽生えた。


「未来を変える。家族を守る。たとえ一人でも……いや、一人じゃない。一家で、変えてみせる」


心の奥底で、前世の瞳が微笑むように感じた。

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