2.Jリーグ元年世代
1年前のこととなる。野球のレギュラーシーズンが始まろうとしていた春先。
2年付き合った彼『
リビングの応接ソファーで両親と向き合う。スーツを着た彼と、キレイめワンピを着込んだ娘。よくある結婚ご挨拶の光景だった。
まずは彼が『瀬戸内シオカゼーズで野球をしています。現在は二軍で……』と、頭を下げながら自己紹介、をするやいなや――。
「二軍選手だぁ!?」
いえ、彼、たまに一軍にあがってバッターボックスに立つ姿、野球中継で映ってるよ。美蘭はそう伝えようとしたのに、間髪入れずに父が叫んだ。
「ダメだ! ホームラン王にでもなってから出直してこい!」
とんでもない無理難題を繰り出したのは、ここで威厳を示しておかないと、娘が見下され雑に扱われる。そんな親心も含まれていると美蘭もわかっている。もちろん彼だって――。だからこそ、ここからは娘が助け舟を出すターン。
「二軍にいても、育成ではなくて支配下登録の選手だから、一軍の試合にも出場できるの!」
「支配下だか何だか知らん。二軍じゃダメだ。将来性がない!」
父は筋金入りのサッカーファンだ。娘の名付けも、イタリアの名門クラブ『ACミラン』からとって『美蘭』になったほどである。
Jリーグ元年の熱狂をリアルタイムで味わった世代でもあり、サッカーへの思い入れは人一倍強い。日本では野球が盤石の人気を誇っているため、父は常に対抗心を燃やしていた。
それほどのサッカーファンなのに。娘が望んだ結婚相手が野球選手ときたので、なおさら頭に血が上ったのが娘としてわかりすぎるから余計に辛い。
そんな美蘭の口惜しい横顔を見てしまったからなのか。
黒いスーツをきちんと着込んできてくれた彼が、テーブルに額をひっつけそうなほどに頭を下げ、ハキハキとした声で大きく叫んだ。
「わかりました。精進いたします。ホームラン王になってから、改めてご挨拶に参ります!」
彼も受け入れてしまった! 美蘭は茫然とし、彼を擁護する言葉を失っていた。
そのうちにスーツ姿の彼が『失礼いたします』と頭を下げ、すっとソファーから立ち上がる。
そんな青年の落ち着きを見上げた父も、『おう、帰れ帰れ!』と居丈上に叫んで、彼を追い返した。
母が『お父さん、いい加減にしてください』と窘めていたが、綺麗な一礼をして去って行く宇汰に気がつき、美蘭も我に返って追いかける。
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