第15話 僕には待望の実戦だった。壁は高いと思った

「……よしっ、手続き完了。敵は3体。場所は……」


 告げられた場所は2カ所だったが、そのうち近いのはここから一駅都心側に戻った駅の周辺だ。

 香月さんの判断で、僕らは真世界側を通ってそちらに向かうことになった。


 僕はSEDの側面ボタンを1、3、2と押し、最後にリリースボタンを長押しする。

 「ピピッ」と確認音が鳴り、魔法が常駐状態に移行する。


「準備良い?」

「大丈夫、『走行補助』も発動済み」

「じゃあ走るよ」


 走行補助魔法は、大体2~3割ぐらい速く走れ、同じぐらい持久力が上がると言われている。

 訓練で近場を走り回ったことはあるが、本格的に使用するのは初めてだ。


 先導する香月さんの後をついて走り出す。

 香月さんはほとんど魔法が使えない。そして走行補助も使えない。

 だが、彼女はS3に相当する戦士なので、真世界ではマラソンの世界記録を超える速さで走ることができる。


 比較的地形が平らなルートを選び、彼女と僕は真世界を走り続ける。


「いったんここで休憩。索敵お願い」

「どっちの?」

「当然魔法の方」

「了解」


 僕の持つSEDmk4には自動索敵機能がある。

 香月さんがいつもうらやましいと言っているそれは、M2魔法の『索敵』を簡易的に再現したものだ。

 精度は魔法の方に劣るので、彼女は「当然」と言うのも当然、だ。


 僕は走り続けてきて乱れた息をしゃがみ込んで整える。

 僕はSEDのボタンを2、3、2と押し、リリース長押しで常駐にする。

 すると、不意におでこの辺りが熱を持つように感じる。


「まだ先ですね」

「そうか……あの林の向こうみたいね」


 香月さんは手元の端末を見てそう判断する。


 索敵をどう感じるかは人によって違うらしい。

 僕は熱で強い反応を感じるが、光で感じる人も、匂いの人もいるそうだ。

 走った直後で体が火照っているけど、夕方の風が冷たくてすぐ冷えるので、間違いない。


「もう一人向かって来ている。IDは……やっぱり西川ね」

「知り合い?」

「まあ、顔見知りではあるわね。人格はともかく、腕はいい」

「……へえ」


 何だろう、怖い人なのかな?


「別に嫌な人間ってわけじゃないのよ。ただ……面倒」

「面倒?」

「……まあ、あなたには関係ないから気にしないで」


 なんだろう……気になるけど、僕に出来る事じゃ無いみたいだ。


 十分休めただろう、と香月さんが出発を宣言する。

 僕は先ほどと同じように後を続いて走り出す。


 遠回りしているのは視覚を遮られないためだろう。

 ただでさえ日が陰ってきて見えにくくなっているのでその判断は正しい。


 やがて、前方から何かの破裂音が聞こえてきた。


「あ、言い忘れてた。西川は銃を使うから注意して」

「え……そんなのあり?」


 前に香月さんにこぼしたことがある。魔法の狙いが付けにくい、と。

 そのとき、SEDが銃の形をしていればと言ったが、彼女は端的に無理、と返した。

 町中で拳銃型の物を持ち歩いていて、職務質問されたらどうするのか?


 それを聞いて僕は納得したのだが、まさか銃そのものを持っているリフターがいるとは思わなかった。


「あいつは警官よ。職質されても警察手帳があるわ」

「……なるほど」


 それなら納得だ。

 でも、警察の人がSORAで働いているのか……全然別系統のはずなんだけど。


 現場に着いてみると、人影が1つ走り回っていて、敵の方は2体が離れて立ち止まり、その人影に攻撃を加えていた。

 香月さんが声を張り上げる。


「Ally 2, 3-1 front, 1-2 back」

「おおっ、やった、メイン盾来た、これで勝つる!」


 人影から喜びの声が聞こえる。女の人だったのか。

 シルエットからは長いコートを着ているように見える。

 そして右手の拳銃を敵に放っているがけん制にしかなっていないようだ。


 僕たちは、その人影と合流するために走る。

 近づいてみると……あれ、僕たちより小さい?


「なんだ沙耶ちゃんじゃないか。そっちは新人かな?」

「沙耶ちゃんはやめてください。敵は、あれは竜人型ドラゴンタイプ?」

「そう。火の玉吐いちゃって……まあ、避けやすいだけましかな」


 竜人型――というのは遠距離攻撃可能な戦士タイプの敵の総称だ。

 近接が弱いとは限らないため、油断できない。


「ということで、回避盾お願い。新人くんはけん制。そちらはコンビネーション出来てるよね?」


 香月さんと僕は目を合わせてうなずき、女性に返答する。


「問題無いです」「はい」

「よし、じゃあ行くぞ」


 女性の言葉を合図に、まず香月さんが左の個体に向かう。

 ――ガアッ

 短い叫び声が聞こえ、その敵の頭部から燃える火の玉が草地を照らしながら香月さんの方に飛ぶ。


 だが、そんな事は事前に予想済みとばかりに、方向転換で彼女は簡単にかわす。

 ――射線、クリア

 僕は、SEDのボタンを2、1、1と押しながらその敵の方に向ける。


 暗闇の中、『熱光線』の光が敵の胸に飛び、その様子を闇に浮かび上がらせる。

 驚いたことに竜人、という言葉通りにその敵の頭部は、は虫類の特徴を残した偉業の姿だった。


「右から来るぞっ」


 右手の銃で射撃を続ける女性から注意が飛ぶ。

 僕はそちらの方を見ると、今まさに火の玉が僕の方に発射されるのが見えた。


(避ける? 障壁?)


 僕は迷って、結局その場に伏せることにした。

 草の匂いが鼻をつく。

 頭上を火の玉が熱気をまき散らしながら通過した。


「止まるな、すぐに立ち上がれ」


 女性の声は遠ざかりながら僕に届く。

 慌てて、膝を突き、立ち上がって状況を見る。


 香月さんは、すでに敵の胸にSVAを突き刺している。

 あれは振ればスタンガンだが、とどめを刺すときは槍になる。

 そりゃそうだ。スタンガンで侵略者にとどめを刺せるわけがない。

 刀身の光に照らされ、敵の体が粒子にほどけ、天に昇っていくのが見える。


 ならば、女性――西川さんが向かった右の敵に視線を移す。

 すると、強い光が目を灼く。

 伸びた光線が敵の体の大部分を消し飛ばしたのが、光にくらんだ僕の目にも見えた。


「お疲れー、報告は出しとくよ」

「はい、ありがとうございます」


 一気に静寂になった草原で、どこからか何かの焦げた匂いが風に乗って漂ってくる。


「で、この新人の子、まだちょっと不安なんだけど……」

「まだ1ヶ月ぐらいなんで」

「そうか、それじゃしょうがないか……おい、少年、名前は?」

「はい、立原壮真です」

「立原?」


 やはりそこに引っかかりを覚えるのか……


「えーと、無関係じゃないけど実質関係ない、って感じです。西川さん」

「ふーん、まあ後で調べとくか……私は西川朱里。リフターのまねごとはたまにしかしない。基本的には偉いさんだ。敬うように」

「はい、よろしくお願いします」


 偉いのか……

 若そうだから、ついでに身長も香月さんより低いから、交番のお巡りさんかと思ったけど違うらしい。


「で、立原……壮真くんだっけ。何が悪かったかわかるか?」

「えっと、片方に集中しすぎて攻撃に気づかなかったこと、ですか?」

「そう、それもある。基本的に後衛は前衛にカバーさせちゃいけないんだ。後ろを気にかけていたら隙ができる。完全に敵に集中できる状況じゃないと前衛を危険にさらす――」


 そうかもしれない。

 自分ではもっと上手くやれると思っていた。速く実戦に出たいとすら思っていた。

 だけど、それが香月さんの身を危険にさらしていた、という指摘は僕の心に深く刺さった。


「――それに、判断も問題だ。火の玉を吐いてくる敵なんだから火や熱に耐性があるのは予想がついていい。実際に、あの『熱光線』はそれほど有効では無かったぞ」

「……はい」

「まあ、経験が浅いから仕方ないが、今回の反省を次に生かすことだな」


 ぐうの音も出ない。

 ここまで、僕は状況に流されるまま、あれよあれよとこの世界に足を踏み入れ、実戦まで来てしまった。

 あまりに順調に来ていたので調子に乗っていた面もあったかもしれない。


 だけど、そんなに甘い物じゃない。

 スポーツだって勉強だって、みんな挫折して、それを乗り越えた者が成功する。

 真世界の戦いもきっとそうなんだろう。


「私残り時間が無いから出るけど、二人はどうする?」

「ご一緒します」


 西川さんが開けたゲートを通り、全員が表層世界に戻ってくる。

 そこは、見覚えの無い公園の草むらの中だった。

 どこかから物が焦げる匂いとなんか変な薬品の匂いが漂ってくる。


「やっぱり火事になっていたな……警察に情報を共有しないと……」


 西川さんがつぶやく。

 この間の敵が街灯やガードレールを破損させたのと同様に、今回の敵は表層世界には不審火という影響を与えていたらしい。

 なるほど、急いで倒す必要があったわけだ。


「ところで……」

「え……またですか? 私も最近のことはよく知りませんよ。ごめん、立原くん。先に帰っていて。私はちょっと西川さんと話があるから」

「あ、うん。お疲れさま」

「お疲れさま」


 何だろう?

 面倒、って言っていたけど個人的なつながりがあるのかな。

 でも、僕には関係無い話だろう。


 僕は、駅までの道をスマホで調べながら、一人帰途についた。

 ポケットの中のSEDがやけに重く感じた。

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