PANIC発作
HiNA
第1話"異変"
私がパニック障害になり、これはその体験記です。
3ヶ月ほど前でしょうか、満員電車に乗っていたら、目の前に少し汚いおっさんが座っていまして、少し汚いおっさんが座っているなぁ。少し異臭を放っていてるなぁ。非常に気分が悪いなぁ。退席せぇ。と思いながら私は背後から私の背中に圧をかけてくる別の茶色いおっさんの気配を感じ取りましたので、瞬時に背中を亀のように丸めまして、足に踏ん張りを効かせ、吊り革を強く握り締め、丸めた背中に力を入れて、鉄壁の背中を作り上げ、圧をかけてくるおっさんに圧をかけ返し、これ以上圧を掛けられないよう対策に努めておりました。茶色いおっさんは、私のこのような嫌がらせに瞬時に気づき、負けじと茶色い肌に汗水垂らし、テカった頭煮卵の如し、グイグイ体を擦り付けてきておりました。
息、鼻息、細い鼻糞、大量の鼻毛、半開きの口からこぼれ見える茶色い歯、歯茎、歯石、涎、唾、微生物、重そうな瞼、まるで鼻糞の様な鼻の下のデキモノ、腐った眼球、彼はそれら全てを私の鉄壁の背中に、決して負けない、負けてたまるものか、ワシはこの陣地を確実に取るんや、この餓鬼に負けたくない、ワシは押し勝ちたい、という卑小な圧で圧迫攻撃を仕掛けてくるので、
普段からイライラしやすい私は、普段通りにイライラしていました。
そこで私が瞬時に編み出した技というのが、”くの字腰”であります。
腰を力一杯、くの字にいきなり折り曲げ、おっさんを反対側の座席の方まで吹き飛ばし、振り返りもせず車窓に流れる秋のTOKYOの景色をスカッとした気持ちで眺め、表情は崩す事なく真顔で流し目。という技であります。
しかしながらこの”くの字腰’’、完璧に決めるには少し手間があるのです。
先ほど申し上げました通り、’’いきなり’’やる必要性があります。
タイミングが大事になってくるのであります。
素人の場合、腹立つと思った瞬間に、くの字腰をやりがちですが、私の様な元来、人をイラつかせる行為に長けている稚拙な人間だと違います。
くの字腰をする相手の、時空をずらす、空間を曲げるという意識、感覚が必要になってきます。
お互いが交互に圧迫攻撃をしている今回の様な場合、おっさん側の攻撃が始まる時、即ち、私側が受け身になっている時に受け身のフリして攻撃意識を胸の内にしまいこみ、おっさんがワシの番やと攻撃を開始し始めた瞬間、くの字腰を繰り出すのです。
虚を突かれたおっさんは案の定ひっくり返って終わりです。
さあ、ではではではではやったりましょかい。と意気込み、おっさんの圧迫攻撃第三波を待ち構えていた時でした。
異臭を放ち先程まで虚な目で座っていた臭いおっさんがいきなりブルブル震え出し膝の上に乗せていた革鞄を落とし、中身の財布やイヤフォン、ボールペン、その他諸々をボロボロと地面にばら撒き、一瞬フリーズした後、顔面から心臓のある胸まで張り裂け、顔面の皮が弛んで頭部が消失し、避けた胸から背骨飛び出んのと違うか。というくらい反り返って、黒目が見えなくなる程、上を見上げ、失神しました。
私はそれを一部始終黙って見ていました。
初めて人が痙攣して反り返り白目を剥いて倒れる所を目撃しました。
私はその場に体感で言う所の、5分。実際は数秒立ち尽くしていただけなのですが、
その間、鮮明にその光景が私の眼球から脳みそを支配。トラウマとして前頭葉やら扁桃体に刻み込まれ、
グシャリ。グワングワングワングワン。
と不快な音が脳内で反響していました。
ふぁっと気がついて「大丈夫ですか??」と一応声をかけてみましたが、心中では、死んだやろうな。と思っていました。
すでに1人の若年サラリーマン男性が介抱しており、私はただおっさんと若年サラリーマン男性の周りを円を描く様にステップして、ただアタフタしながら、心中では、確実に死んだやろうな。あぁ。怖い。怖かった。見たくなかった。あぁ、怖い。怖い。と呟きながら、「ひ、非常停止ボタン」と独り言を周りの人に聴こえるように少しボリュームをいつもより3上げた感じで発声致しました。
とにかく非常停止ボタンを押さないとっ。
と心中でもう一度呟き、
ボタンを探しに行こうと振り返り、一部始終を見てたであろう周囲の人間達の顔、動き、行動を眼球で察知した私は、
驚きと共に、
苛立ち、火照り、絶望感、復讐心、嫌悪感、喉の痛み、腰の辛み、頭痛、吐き気、肌の乾燥、ヘルペス婦人の出産、ニキビの芯構築プロジェクト施工完了という雑菌現場監督堤下大介の号令の幻聴、などの様々な症状が、一気に襲ってくるイメージを僅か十数秒の間に脳内で受け止め、そのイメージから抽出された、ストレスの真っ赤な塊が、右脳を横切り、左脳を無視して、喉仏を通過、その後、食道を通り過ぎ、身体中に散乱し、消失するというイメージが頭の片隅に流れたのをハッキリと記憶している次第で奉り候。
私が振り返り、見た光景は、
数分前まで私と圧迫試合を繰り広げていた茶色いおっさんは、失神したおっさんを避けた他の乗客達の間に隙間を見つけ、
”おっさんが
失神したけど
わしゃ知らん”と、顔に川柳を貼り付け、主に、アルミニウム、ステンレススチール、チタニウム、ガラスで作られた、シルバーの平べったいストレス製造機から映し出される非現実の世界に、歯と歯の間に挟まった鶏胸肉の醤油漬けの一部分のように魂ごと吸い込まれていたし、
他の乗客は、身体をモゾモゾさせながら、こちらを見たり、シルバーの平べったいストレス製造機を見てみたり、横目でこちらの様子をもう一度見てみたり、瞬きしたり、首を捻ったりしていた。
その光景は、
まるで、鳩のような動きを首から上だけで行うという現代アートを、
あまり仲の良くない純文学好きの自称天才ラッパー、毎晩のように自分の楽曲を褒め称えてくれる仲間達だけを集め、連れのBARで自分語りを白熱させ、物語がピークに差し掛かったところで、激烈な尿意、膀胱の破裂の予感を感じとり、”ちょっと、トイレ”と呟き、酒の酔いと微量のアドレナリンを脳内で察知し気持ちが良くなっていく状態でトイレに到着。放尿。
黄色い尿を流す際、不意に心の中に紫のオーラを放つ東南アジア系のオールバックで、鼻の大きい、色黒のおっさんが現れ”昨年度からチミが溜め込んでいる住民税の支払い通知の封筒が、黄色から赤に変色していたじょ”と言って紫のオーラと共に消えていき、突発的な鬱に苛まれ、連れから貰った大麻を吸ってみたけど不安は取れない。
この様な人物に勧められ鑑賞し、ふと隣をみてみると、その男が首が千切れるほど激しく、縦に頷いていた時くらいの不快感を感じました。
要するに、皆、関わり合いになりたくないし、面倒が嫌なので首から上を鳩にしているのです。
そのうち、駅に到着しました。
恐らく一部始終を見てたであろう老婆がホームに降りて、
係員呼び出しボタンを押していて、駅員が2名きて失神してるおっさんをホームまで運び声かけをしていました。その時まで私は、確実に死んでるやろ。と思っていました。が、おっさんは徐々に我に帰り、
自分がてんかん持ちだということを説明しました。
私は少し安心して、乗り換え乗車を済ませ、仕事に向かいました。
その頃から異変が始まった気がします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます