第32話 残滓
***
「なにやら奥の方が騒がしいな...。おい。」
「はっ。」
ダンブルは教団の一人に声をかけ、様子を見に行かせた。
***
「なにやら、痴漢騒ぎがあったようで...こちらの男が犯人だそうです。」
教団の男が、痴漢を働いたという男を連れてきた。
「被害者の女性たちは、『そんなやつどうでもいいです。早くさっきの続きをお願いします。』と言っています。」
「まあ、被害者がなにも言わんのなら放っておいてもいいのかもしれんな。だが、犯罪者を放置しておくのは、倫理的によくはないだろう。」
ダンブルは、自分のことは棚上げし、言い放った。
「この犯罪者を、警察に届けておけ。」
***
グレンたちは、痴漢が捕らえられ、教団の男に神殿に届けられるのを見届けていた。
これが囮で、この後作戦の本番(爆発テロ)を実行する可能性もある。仲間に聴衆を監視させ、グレンはレオの元へと向かった。
プニオの作戦を伝えに。
***
「レオ殿!」
「あ!グレンさん!お久しぶりですね。一週間くらいですか。」
なにも知らないレオは、のんきな顔で、グレンを迎え入れる。
「それどころじゃないんだ!聞いてくれ!」
・・・
「なるほど、政治家がこの教団の拡大を恐れて潰そうとしていると。そして、その作戦がいま起ころうとしている。そういうことですね。」
「ああ、その通りだ。どうする?」
(正直、教徒が離れるのは構わない。問題は裁判だ。無実の証明に時間がかかる。さらに最悪なのは、無実の罪で捕まり、筋トレの時間も場所も奪われることだ。それだけは、絶対に避けなければならない。)
「とりあえず、騒ぎは未然に防ぎたいですね。ダンブルにも伝えておきます。それより、グレンさんは大丈夫ですか?こんなこと僕に話して。結構大事な国の情報だと思いますが。」
一拍おいて、グレンが答える。
「正直、あまり大丈夫とは言えないな。実は、部下を人質に口止めされていて。」
本当はこんなことをレオに伝えるつもりはなかった。なんだか恩着せがましい気がして。
しかし、レオという絶対的な光を前にすると、頑なだった騎士の鎧が剥がれ落ちた。この人になら助けを求めてもいい。甘えたい。ただ、心配してほしい。そんな純粋な衝動に駆られてしまったのだ。
「ええ!?そんな目に合ってまでどうして...?いや、違いますね。そんな状況で、僕に伝えにきてくれたんですね。ありがとうございます。」
グレンはうれしそうに笑った。
「どういたしまして!」
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