創作の言葉集 ―物語を綴る人たちのための小さな辞書―

lilylibrary

第四の壁(Fourth Wall)

## 🧱 第四の壁(Fourth Wall)


### 概要


観客や読者と、作品内の登場人物たちを隔てる目に見えない境界線。

登場人物がこの壁を意識したり破ることで、作品と現実の関係が強調される。


---


### 由来・背景


18世紀の演劇理論に由来。

当時の舞台は三方を壁に囲まれており、観客側の開かれた空間を「第四の壁」と見なした。

この概念は、観客の存在を無視して演じる「自然主義的演技」を支える理論だった。

やがて映像作品や文学でも「虚構の境界」を指す比喩として広く使われるようになった。


---


### 提唱者・関連人物


フランスの哲学者・作家 **ドゥニ・ディドロ(Denis Diderot)**。

著書『俳優についての逆説』(1773)で、観客を意識しない演技の重要性を説いた。


---


### 重要性・効果


「第四の壁」は、観客の没入と距離感を制御する装置。

壁を保つことでリアリズムや感情移入を維持でき、逆に破ることで観客に衝撃や笑い、批評的視点を与えられる。

コメディやメタフィクション作品では、壁を破ることが自己言及的な演出として機能する。


---


### 具体例


* 映画『デッドプール』:主人公がカメラに向かって語りかける。

* 漫画『銀魂』:登場人物が作品の放送事情をネタにする。

* ゲーム『UNDERTALE』:プレイヤーの選択をキャラが意識する。


いずれも「物語を物語る」構造を可視化し、作品世界の境界を遊ぶ試みである。


---


### 典型失敗(アンチパターン)


* **没入破壊型**:シリアスな場面で唐突に壁を破り、感情が冷める。

* **自己満足型**:作者の自己主張やネタに終始し、物語の必然性が薄い。

* **反復疲労型**:何度も観客に話しかけて効果が薄まる。


---


### 応用・バリエーション


* **限定破壊型**:特定のキャラだけが壁を認識している(例:デッドプール、バグズ・バニー)。

* **観客巻き込み型**:舞台や映画で観客に選択を委ねる形式。

* **自己反省型**:語り手が「自分の語り」を疑う、文学的な内省としての壁破り。


---


### 関連語


メタフィクション/信頼できない語り手/ショウ・ドント・テル


---


### 参考文献


* Denis Diderot, *Le Paradoxe sur le Comédien*(1773)

* John Yorke, *Into the Woods: How Stories Work and Why We Tell Them*(2013)


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る