24時間、頭の中でダンス
会社を辞めるにしても、三年は我慢しなさい――なんてことを言われたものだけれど、そういう空気はもうずいぶんと薄くなっていた日本が私の記憶。
その代わり、というのも変な言い方だけど「ジョブホッパー」という言葉も聞くようになっていた。
退職代行業とかもあったなぁ。
いや、礼儀作法教室は別に勤めているわけでは無いし。
何なら心づけ、みたいな形で当然お礼を出させて貰ってはいるんだけど。このホール使うのだってただじゃないんだろうから。
色々、理屈を並べてみましたが、私まだ礼儀作法教室を止めることは出来ていません。
辞める理由も思いついてない状態。
今はホールでダンスの足運びを教えてもらっている最中だったりする。
吊るされて歩く――つまり体幹を意識した動きが出来て初めて、リーン女史は私にこのレッスンを始める教育方針であったようだ。
リーン女史は、何だかパーツパーツごとに分けて教える方針であるみたい。
その方針に文句を言えるほど、私は物を知らないので、これにも従うしかない。
……何となくだけど、体幹を意識している状態はあんまりよくない気はするんだけど。
かといって、そこを指摘して「無意識になるまで歩くように」とか言われると、ちょっと面倒なことになる。
いや、やめるつもりなんだからその方が良いのか。
私。確実に、迷走してるな。
というわけで私と手を繋ぐのを露骨に嫌がる、この子の名前がわかりません。
個別認識してしまうと、嫌がらせを具体的に覚えてしまいそうで。
相手がいなくなった私は、仕方がないのでそのまま壁際の椅子に腰かけることにした。
リーン女史の許可は無いけれど、本格的なダンスのレッスンだというのに、相手がいないのなら仕方ない。
……これが理由になるな。
と、思ったらレルが近付いてきて私に手を伸ばして来た。
「早くお立ちなさいな。まだ休憩の時間ではありませんよ」
レルが熱心なんだよなぁ。
だから私が辞めたいと言っても、どうせ反対される、と思ってしまって、それが辞めると言い出せない理由でもある。
もしかしたら、私が辞めたがっているのを察しているのかもしれない。
だからこそ、こうやって熱心に私に声を掛けてくるのかもしれない。
ただそれでも……
レルの手を取って、そのままダンスの為の足運びを行ってみる。
案の定上手く行かない。
それでもレルは諦めることなく、このダンスレッスンに付き合ってくれる。
この状態ではやっぱり言い出せないよなぁ、と思いながらも足を動かしていると、ここ最近の私の悩みが頭の中でダンスを始めた。
24時間、頭の中でダンス、したいわけではないんだけど~
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