鼻にダメージを受けながら鼻歌を

 ♪~~


(いや、セーヌ川なんてないから。流れないから)


 ♪~~


(花じゃないんだよなぁ。配ってるもの比べたら高低差ありすぎて耳キーンとなるわ!)


 と、鼻歌に心の中でツッコみつつ、荷馬車をゆっくりと走らせている私。

 背も伸びて荷馬車も自分で動かせるようになりました。


 糞を《聖女》の力で過剰に発酵させ堆肥を作ることを思い付いてから三年ほど経過しております。

 これが困ったことにまた成功してしまいまして。


 ハッハッハ


 笑いが止まりませんよ。


 《聖女》の力を注ぎ込んだ堆肥はもの凄く勢いよく発酵しましてですね。

 それを小麦畑に留まらず、あらゆる農作物に使用した結果、収穫量が跳ね上がりまして。現在もまだ上昇中なので、二倍ぐらいには届くんじゃないかな?


 これでとにかく《聖女》としての面子は完全に保たれたと言っても過言では無いでしょう。


 当然、レルも参考にすべくやって来たわけですが。

 私も最初の気付きはレルの言葉だったので、惜しむことなく披露しましたもの。


 ……残念ながら、レルは発酵堆肥については採用を見送った。


 理由は簡単。

 臭いから。


 コーポ村の環境が許さなかったのか、レルの乙女心が拒否してしまったのかは定かではないが、ハラー村のみんなも何となく私を避けつつある。


 いや、ちゃんとお風呂に入ってるし清潔さは維持している。

 この辺りはお母さんも保証してくれるだろうけど……堆肥の臭いを一度知ってしまうとね。仕方ないね。


 村のみんなも、私のやってることが村のためになっていることは頭で理解している。だが、思わず構えてしまうのは仕方ないだろう。

 むしろ、多少距離をおいても変わらず交流してくれるフランちゃんとレナちゃんには感謝しかない。


 ……まぁ、いいタイミングで学校に通う年齢は終わったんだけどね。


 と、そんなわけで私は二律背反を打ち破って、


 ――《聖女》としての役目を果たしながら忌避される。


 という立場を手に入れたという事になる。

 ここまで上手く行くとはなぁ。


 今は、ちゃんと村のみんなの協力の元、ある程度はシステマティックになった堆肥運搬を受け持っているところだ。

 

 今は春先であり、最も需要が高く、だからこそ一番避けられる頃だね。


 こういった仕事は村のみんなで受け持つという話は当然出たけれど、私がやった方が「被害」は少ないと主張して私が受け持つことになった。

 その代わりに小さめの樽を作ってもらって、積み下ろしにもスロープを使えるように荷馬車を改造してもらった。


 こういう状況になったのは、言ってみれば私のわがままだから、それでも協力してくれる村のみんなにはやっぱり感謝しかない。


 それでも、あと何か協力してもらうなら荷馬車に幌を装備してもらう事かな?


 少しでも臭いが拡散しない可能性が高い方が良いだろうし。


 その時には「ラ・セーヌの星」では無くて「風雲ライオン丸」を鼻歌で奏でることになるだろう。


 ……覚えてるママの歌詞を歌うとこの世界でどうなるのか、どう聞こえるのか、わかんないんだよね=。ヤクいぜ!

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