色々な可能性を吟味する

 ゲルトおじさんに案内してもらう前に、パウルおじさんの牧場でも「仕事」を済ませておく。ローテーション的な順番ではなかったけど“ついで”というものがある。

 何しろこれぐらいでは疲れようも無いし。


 そのために「仕事をした」という実感もないまま、何となく祈りを済ませて、いよいよ吹き溜まりに向かう事になった。


 それでゲルトおじさんが案内してくれれば済むと思ったんだけど、アーベル兄さんも同行することになってしまっていた。

 修行の一環なのかもしれない。ちゃんと弓矢を用意してるしね。


 けれど……アーベル兄さんか。

 明るい茶色の髪に、こげ茶の瞳。整っているけれど、特徴を説明しにくい。


 厳しいことを言ってしまうとモブっぽいデザインなんだよなぁ。

 ここから「乙女ゲーム」が本領を発揮するというのは想像しにくい。


 思い出していた昼寝大好き聖女の漫画だと、あれはきっぱりと百合っぽかったし。現段階では、この世界では百合っぽさもないんだけど。


「ここから少し急になるぞ。気を付けろ」


 私がうわの空で歩いていることを察したのだろう。

 ゲルトおじさんが厳しい声を出した。


 有難い話だ。その声に答える形で、私はおじさんに尋ねてみる。


「その吹き溜まりまで、馬車で行くのは難しいですか?」

「馬車でか? 今は道が無いが……」

「まっすぐ行くんじゃなくて、坂を斜めに降りる感じなら、多分大丈夫だ」


 アーベル兄さんが、太鼓判を押してしまった。

 ゲルトおじさんもその意見には同意のようで、特にアーベル兄さんの声を止める様子も無かったし多分大丈夫なのだろう。


 しかし、少しばかり低い場所にあるのか。

 これまた都合が良いのかもしれない。この先には確か家は無かったはず――


「何だ? そんなに何度も行くつもりなのか?」

「はい。そうなれば良いなと思ってます」

「だがよぅ。あそこは何にもないぞ。あそこからしばらく進めば崖だし」


 何も無くても、これから「ある」事にする予定。

 しかし本当にうってつけだな。上手くすれば花の香りが崖の向こうに……それは関係ないか。


「じゃあ獣たちはどうして吹き溜まりに?」

「それは簡単だ。風向きによっては風が入り込まないんだよ。それが目当てなんだろうさ。もしかしたら自分の匂いを消すためかもしれないが」


 手負いの獣が潜り込む可能性もあるって事なんだろうな。


 そんな風に知識が増えたところで目当ての「吹き溜まり」が見えてきた。

 もっとも「吹き溜まり」が見えたというよりは、最初に見えたのは灰色の山肌がそそり立っている風景だけ。


 つまり、この場所はそもそも崖が多い場所という事なのだろう。

 そして「吹き溜まり」はその切れ目の向こうに存在していた。

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