浮世はおしなべて表裏一体
実際、《聖女》という肩書は私にとっては便利なもので、この肩書のおかげで変人扱いを回避できていると言っても良い。
中身が日本人なので気を付けていても時々、こちらの世界観では奇妙なことを言ってしまう事がある。
あるいは変に聡いとか、そういう年齢にそぐわない発言もNGだね。
そういうピンチの時は《聖女》という肩書で乗り切ることが出来るわけだ。
責任を女神アリスに押し付ける、と言っても良いだろう。
そんな風に《聖女》の効能が実感できたからこそ、私は「靴を脱いで生活する」という変革に挑戦できたと言っても過言ではない。
――ただ、光あるところに影がある。
と、「サスケ」のOPを引っ張り出すまでもなく《聖女》という立場を使えば、それに連れて周囲から期待の眼差しというものが増えてくるわけで。
「やぁ、ジョー。おかげさまで今年も小麦は良い感じだよ」
と、礼拝堂からの帰り道、オットーおじさんにそんな風に声を掛けられてしまう。一緒に帰ってきていたフランちゃんのお父さんなので、会うのは必然――というか避けようがない。
「あ、あの、
そんなわけで私はまた同じ言い訳を繰り返す。
あ、ちなみに私は基本的に「ですます口調」で喋ることにしている。
理由はいろいろあるが《聖女》のパブリックイメージには適いそうな気がして。
……そんな小細工をしているのに、本当に《聖女》とは具体的に何をすれば良いのかよくわかっていない。
強いて言うなら、オットーさんの畑の周りで遊んでいた事だろうか?
それもフランちゃんたちと遊んでいるからそうなってしまっただけで、やっぱりそれらしいことは何もしてない。
「ジョーは近くにいてくれるだけで良いんだと思うよ。《聖女》ってそれだけで有難いものだから」
幸いと言い切ってしまうのもどうかと思うが、幸いにしてハラー村のみんなも《聖女》についてよくわかっていない。
洗礼を仕切っていたハンナおばさんが、まずよくわかってないみたいなのは驚いたけど。
けれどだからと言って、何もしないというのも問題だろう。
何しろ私は《聖女》の肩書を利用しているのだから。
「……それじゃ、他の小麦畑にも行った方が良いんですか?」
そんなわけで、今回は少しばかり積極的に提案してみる。子供の足では、あちこちの畑を訪ねるのもなかなか大変なのだ。
主に坂道の多さで。
……出不精なのは私の前世に問題があるのかもしれないけど。
そんな私の申し出を聞いて、青々とした麦畑の中でオットーおじさんは腕を組んだ。
太陽の下で仕事をしているだけあって、日に焼けた顔が深刻そうな表情を作る。
元々、深いしわが刻まれたオットーおしさんの顔だ。何だか緊張感が――
いよいよ《聖女》について何かを思い出したのかもしれない。
――もしかして私が積極的な提案をすることがフラグだった?
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