洗礼というよりも七五三

「はっ!」


 っていう感じに声を出せれば良いんだけど。……いや良くはないか。

 何しろ私、今の年齢は三歳だから。いきなりそんな声を上げたら、きっと「おかしな子」扱いになるだろうから。


 それで何とか声を抑えて、心の中で現状を確認する。


 ここは女神アリスの礼拝堂。そんなに大きな建物ではないな。それなりに整理されているけど、大きいとは言い難い大きさ。

 でも、私が暮らすハラー村の建物の中では一番大きい。


 つまりこの建物が「あまり大きくない」って考えるのは、私の記憶――つまり令和の時代の日本を知っているから。

 それを思い出したから。


 同時に現在の名前「ジョセフィン・メーリアン」が見てきた世界についても、急速に整理されてゆく。

 

 今まで、三歳児の知覚で処理してきた周りの人たちの言葉も整理されてゆくけど、その検証は後に回そう。


 何しろ私――ジョセフィンは女神アリスによる「洗礼」を受けに来たのだから。

 ちなみに「洗礼」というのは私の意訳でしかなくて、村人の証言を総合すると「お参り」みたいな感じらしい。


 例えるなら七五三とかそういう感じ。

 ただ建物の中に据えられた女神像と「礼拝堂」という言葉はそのままみたいなので、やっぱりここは「教会」に思えるわけで。


 そうなると「洗礼」が相応しいのかなぁ、と。


「ジョセフィン、さぁ、こちらにいらっしゃい」


 と、声を掛けてくれたのは、の感覚では修道尼シスターであるところのハンナおばさん。

 とはいっても、彼女は私が知っているシスターのような服装ではなく、白いレースを首周りに羽織っているだけだ。


 シスターという職業だと思ったのはジョセフィンの知識があったから。


 そのハンナおばさんのとりなしで、女神アリスに一人でお参りする。この「お参りは」そういう段取りのようだ。

 私は無意識のままに……あるいは「ジョセフィン」の感情がそうさせたのか、振り返ってしまう。


 背後にいるのはクリーム色の髪に焦げ茶色の瞳の女性。

 ジョセフィンの母親である「メラ・メリーアン」だった。


 慈しむような笑顔で私を見守ってくれている。

 うん、お母さんの期待に応えなければ、と私は決意を新たにしてハンナおばさんのあとについて、女神像の前に跪いた。


 改めて女神像を見上げてみると、ギリシャ風のひだがたくさんあるドレス姿。さらに背中にまで届いているだろう、ウェーブがかかった長い髪。

 フチなし帽子を被っているが、全体としては質素な感じだ。


 大理石製みたいなので、当然着色はされておらず、ワンフェスで売っているフィギュアのような印象。


 ――そんなことを考えていたのがばれてしまったのか。


 私の身体が、突然発光を始めた。


「え? 何?」


 今度はこらえきれずに声が出てしまった。

 傍らのハンナおばさんも驚いているし、これぐらいは許されるだろう。これはこの世界でも珍しい現象のようだ。


 だから、


 私、変じゃないよ!


 と、主張すべきか考えていると――


「まぁまぁ、ジョー! あなた《聖女》様に選ばれたのよ!」


 …………はい?


 これはもしかして、ヤクい!?

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