第8話
夕飯の準備を終え、私はカレーとごはんが盛られた平皿を二枚持つ。
盛り付けは姉に任せたのだが、「佐那ちゃんは成長期だから!いっぱい食べるべき!」と言ってきかなかった。
そのため白い私の平皿にはかなりの量が盛られ、左手にある母のそれと比べてとても重たい。
腕が攣りそうになりながらも、私は二枚の平皿をテーブルに慎重に着地させる。
それに追加の平皿とサラダの小皿を並べてから、私は机にしまわれていた椅子を引っ張り出し座った。
少し遅れてから母と姉も合流し、三人で手を合わせて「いただきます」を言う。
スプーンを持って白い米と茶色い液体を一緒に持ち上げ、口に運ぶと程よい苦味と辛みが口の中に広がる。
「う~ん!おいしい!佐那ちゃんまた腕を上げたね~」
「そうね~もう料理に関しては任せて大丈夫ね」
「作ってるのはカレーだけだから。それ以外については調べながらじゃないとできないし」
私は母と姉の賞賛を受け取りながらも、軽く否定しておく。
実際、私が手伝っているのはカレーを作る時のみであり、それ以外の料理の時は手助けほどにおさまっている。
なので料理全般を任せられるかと言われれば、それは少し言い過ぎであると思う。
「確かに今はカレーの時だけかもしれないけど、佐那ちゃんにご飯を作りたいと思える人が出来たらその時は手伝いをしたいと思うわよ」
「...そういうものかな」
「そういうものよ。案外動機は単純なものだったりするの」
「え、佐那ちゃん好きな人できたの!?」
「できたらって話。いないから」
私が姉の話を否定すると、「ちぇー」と面白くなさそうな声を出してカレーを食べている。
その後は学校の話であったり、最近流行りのドラマであったり、そんな他愛もない話をしながら夕飯を食べ進めていく。
空になった皿が三つ出来上がった頃に、全員で「ごちそうさま」といい、私は平皿三枚を重ねてシンクへと運ぶ。
持ってきた頃と比べ軽くなった皿はとても運びやすく、あまり労力を掛けずに運びきることが出来た。
シンク内に置かれた平皿の汚れを水で洗い流し、洗剤で洗って水切りかごに並べる。
春先になって気候も温かくなり、水場作業をしていても苦痛ではなくなってきた。
これは我が家の洗い物担当である私にとっては、とても嬉しいことである。
サラダ皿とスプーンも洗い水切りかごに立てかけてから、私は冷蔵庫の冷凍室を開けて棒アイスを一本取り出す。
すると私が冷凍室の扉を開ける音を聞き、ソファで座る姉が「私も一本」と言うため、私は追加でもう一本取り出す。
「はい、アイス」
「お~ありがとう佐那ちゃん!」
私はソファにいる姉に棒アイスを手渡してから自分のアイスを開けて咥える。
バニラのクリームがチョコレートでコーティングされているこのアイスは、母が好物な物であり良く買ってくるものだ。
母が好きな物という事でよく買ってくるのだが、私と姉も好きなアイスであるため、必然的に我が家公認のアイスへと成りあがったのである。
口の中で溶けだしたアイスはとても甘く、苦味と少しの辛味で満たされていた口内にはちょうどいい位だ。
私はアイスを口にくわえたまま、もう一度ダイニングテーブルに座って携帯を取り出す。
画面を開くと、ロック画面には志保からの連絡が来ており、私は彼女の返信を返す。
「...そういえば皐月の連絡知らないな」
私は連絡アプリの友達一覧を見て、皐月の名前がそこに無いことに気がつく。
ここ最近、放課後は当然のように彼女の家を訪れていた。
しかしこれから高校も忙しくなり、彼女の家へ時間的に行けないことも増えるだろう。
だとしたら来るのか来ないのか位は、皐月も分かった方がいい。
今度家行った時に連絡先を聞こう。
私はそう決心し、携帯を伏せて机に置き先程まで付いていたバニラとチョコレートのアイスが無くなった木の棒をゴミ箱へ投げた。
* * *
「さて、明日の服どうしようか」
部屋のクローゼットをフルオープンし、パッと見で数の分からない服達を睨む。
季節は春であるため、ハンガーには薄手のカーディガンが多くかかっている。
私はその中から桜色のカーディガンを手に取り、体に合わせて鏡を見る。
明日は皐月と桜を見に行く
提案元は言わずもがな私だ。
と言うか皐月が率先して外に出る事なんてしない。
それはもう心配になるほど出ない。
昔の出来事で不登校になっているとは言え、それでも全く直射日光を受けないのは健康にもよろしくない。
だからこそ拒否権の無い提案を皐月にし、無理やり彼女が外に出る口実を作った。
彼女と一緒に外出をしてみたいと思っていたので、今回のは良い機会だろう。
私は合わせていた桜色のカーディガンをクローゼットへ戻し、ワンピースを取り出す。
優しい茶色のロングワンピースにはワンポイントで花の刺繍がなされている。
桜色のカーディガンと合わせて私のお気に入りの服のひとつである。
それからあれでもないこれでもないと悩み、およそ20分ほどが経った。
最終的私の手に残ったのは、桜色のカーディガンと黒色のスカートであった。
せっかくの桜見なのだからもっとそれっぽい服を着るべきだが、生憎私はそこまでファッションに対して興味が深いわけではない。
それでも少ない興味を引っ張り出し選んだ服であるので、おかしい点は無いはずだ。
「...一応お姉ちゃんに見てもらうか」
念には念をという事で、私は桜色のカーディガンと黒色スカートを手に、部屋から飛び出し階段を降りる。
リビングに向かおうとしている最中で、ちょうど自室へ向かおうと階段の前に居る姉を見つけた。
「お姉ちゃん、この服装おかしくない?」
「う〜ん、とても可愛い!なに?デートでもあるの?」
「いや、友達と明日桜見行くの」
「な〜んだデートじゃないのか〜。デートだったらどんな奴かつけて確認してやろうと思ったのに」
姉はなんとも物騒な事を言う。
そもそも恋人という存在は居ないので心配する必要は無い。
それでもいつか出来た時には、姉のチェックは無視出来ないだろう。
私は姉に「ありがとう」と告げ、褒めた服を持ちもう一度階段を登って自室の扉を開ける。
私のセンスがおかしくなかった事が姉により証明され、私は手に持った服とかばんを一緒にハンガーに掛けた。
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