第4話 三本の短剣

 改めてテーブルの上に置かれた物は三つ。

 そのすべてが短剣であった。


「ここに三本の短剣がある。勘違いしないでもらいたいが、これはまたお前を試すために用意されたわけではなく、すべて我が家の血縁に関わる物だ」


 事前説明にあったのはあくまで「短剣」という情報のみ。

 チッチはまさか複数あるとは考えていなかったため、またしても騙されたような気持ちとなり、フェリスの顔を想像しながら苦々しく感じていた。「あの女であれば本数についても知っていたのでは?」そう思わずにいられなかったからである。


 しかしここは大隊長の執務室であり、本人の目の前。

 チッチは気を取り直して、順番に短剣へと語り掛けていく。


 一本目から伝わってきたのは、刻印を刻む者の感情。

 ヤバイことに関わらされているという恐れが大部分を占め、残りは報酬がよかったのか僅かばかりの希望。そんなところだった。

 よってチッチは偽物と判断を下し、その短剣をテーブルの上へと戻す。


 二本目からは、これを手にした者による感情。

母を失い沈んでいた青年が遺品の中でこの短剣を見つけ戸惑う感情から始まり、そこから悪意を持つ流れがチッチへと伝わっていた。

 多くはそういった感情に飲み込まれ上書きされているが、僅かに残る意思からはこの短剣を渡した者と受け取った相手の女性の関係が窺い知れた。この男性と女性が前グルーツ当主と青年の母親ということなのだろう。


 ということでこれは本物とチッチは判断を下す。


 ただ気になる点もある。

 それは渡した時の男性の感情に、子供が出来たという喜びが含まれていないこと。ここには純粋に相手の女性を想う気持ちしか残っていない。

 そして柄尻辺りに刻まれた女性の名前を二人して確認している場面の想いも伝わってきたのだが、目の前の短剣にそれは残っていない。


 本物なのだが、おかしい点がある。

 チッチにわかるのはここまで。

 この情報を伝えた後、どう判断するかはグルーツ家が決めること。

 自分には関係ない。

 そう思い込みチッチは二本目もゆっくりとテーブルへ戻す。


 三本目は、深い憎しみの感情。しかもそれが二つ混在している。

 勝手に身体に入り込んできて、支配しようとしているようにさえ感じるほどの負の感情。そのため一度手を放そうとしたチッチ。

 しかしその瞬間、短剣はチッチへ語り掛ける。

『オマエサエイナケレバ』と。


 過去にもチッチは意思やイメージではなく、直接頭へ語り掛けてくる物に振れたことがある。その時の相手は、もっと流暢だった。

 しかしこれは違う。潰れた喉から発せられるような、ざらついたおかしな感覚。

 二つの意思の共通する部分『オマエサエイナケレバ』が混在し同化した様な単純でいて複雑な揺らぎ。


 改めて集中し意識を強く保つよう気合を入れたチッチは、送られてくる感情を読み解いていく。


 室内。二つのベッド。

 悪意を持ち短剣を構える男。

 そして刺される男が相手の顔を見た時の驚きと憎しみ。

 その瞬間の室内の様子。


 チッチは最後となる三本目からの意思を受け止めきると、丁寧にテーブルへ戻し顔を上げる。もちろん見つめる先には、グルーツ大隊長がいる。


「では一本目から――」


 チッチはゆっくりと語り始める。


「これは偽物でしょう。他と比べ質も低いということもありますが、刻印自体が偽造です。上手く彫られてるとは思います」


 その言葉を受けグルーツ大隊長は一つ頷き、続けざまに顎先で次に行くようにとチッチへと促す。


「では二本目。こちらは本物かと思います」


『本物』


 チッチの口から出た言葉により、執務室内はにわかに騒がしくなる。

 目の前の大隊長も顔を歪ませて短剣を睨みつけていた。


「ただ――」


 瞬間。全員の視線は再びチッチへと向けられた。


「おかしな点があります」

「なんだ? 言ってみろ」


 急かすように大隊長はチッチへと言葉をかける。


「はい。おそらく先代様が若かりし頃女性に渡した物というのは間違いないと思います。ですが子供が出来たことによっての贈り物というわけではなさそうなのです。先代様と女性の関係はあったが、その間に子供がいたかどうかはわかりませんでした。なので本物でありますが、血縁については……」

「そうか……。そうか!」


 なんとも煮え切らないチッチが語ったこの短剣についての話。

 だというのにグルーツ大隊長は喜んでいるようにチッチからは見えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る