2人分の1つのケーキ
でーかざん
第1話足らないケーキ
目の前にあるのは苺のショートケーキ。スポンジの間に苺と生クリームが入っていて、上にはたっぷりの生クリームと大きな苺が丸々ひとつ。ごく一般的な形をした品物だ。
それがテーブルの上にひとつ。
そのテーブルを挟んで座っているのが二人。
俺の目の前には仏頂面でこちらをまっすぐみる少女が一人。
名前は伊達亜紀。
亜紀は17歳の俺と同じ高校に通う同い年の女の子。出身小学校、中学校も同じ。家は徒歩五分の近さ。
つまり、亜紀は俺にとっての幼馴染みになる。
お互い一人っ子で両親は共働き。母親同士の仕事場が同じ、知り合いで子供が家に一人でいる時間は同じ。
その結果母親二人の間でできた取り決めが、放課後の子供達はどちらかの家にいてもらう。
小学校低学年の間だけの取り決めだったがなんとなくそれが高校まで続いてしまっている。
今日もいつも通り二人で伊達家(つまりは亜紀の家)にいた。
亜紀母はよくおやつをおいてくれている。今日はショートケーキだった。俺も亜紀も大好物だ。
問題はその数だ。一個しかないのだ。
こうなった理由を説明するには少し前に戻る必要がある。
もらっている合い鍵を使って亜紀の家に入ってリビングにいくときちんと椅子に座ってスマホを真剣そうにいじっている亜紀がいた。普段だとソファに寝そべってスマホをいじっているか、自室にいる、またはおやつを食べていることが多いのだが。
「ただいま」
声をかけると驚いたようにこちらをみた。家に入ったことに全く気がつかなかったらしい。
「……おかえり」
返事が返ってくる。一瞬の間があった気がした。
「なんかあった?」
「いきなり何よ」
「いや、なんか様子が変だなって」
「別に、……何も変わんないわよ」
「……そうか」
そんなこともないと思うが。帰ってきてから全く目を合わせようとしない。そしていつものやかましさが欠片もみえない。
まあいいか。様子のおかしい亜紀はほっておいて台所に向かう。手を洗い、冷蔵庫を開ける。今日のおやつはなんだろうか。
皿にのったショートケーキがひとつ。
(お、今日はショートケーキか)
いつもに比べて豪華なおやつだった。なにか祝い事やめでたことでもあっただろうか。一瞬考えるが特に思いつかない。まあ、おやつが豪華で困ることなんてないからいいだろう。
ショートケーキがひとつしかないということは、亜紀はもう食べ終えたらしい。
ショートケーキとフォークをとってリビングにいき、ケーキをテーブルに置きながら椅子に座る。
「ちょっと」
いきなり横から声を掛けられる。顔を向けると亜紀が立っていた。顔はいつになく固いようにみえる。
「どうした?」
「私も、まだ食べてない」
「え?」
「私もまだ、ケーキ食べてない」
一瞬、考える。
「いや、だって、冷蔵庫のなかに一個しかないけど」
亜紀が向かいの席にゆっくりと座る。
「私が帰ってきたときから一個しかなかった」
「……」
沈黙が流れる。
そうして、幼馴染みの少女と一つのショートケーキをはさんで座る構図ができあがったのだった。
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