髪クシャでほどけた ふたりのこころ
都内某所某ビル某編集部のデスクにて、パソコンを前にして、ため息と共にうすら笑いを浮かべる男、その名は庄司。
庄司は愛する修道との禁断の愛の道に踏み込もうとした夜のことを思い出し、忘れよう、そのことばかり考えているのだ。
「庄司、大丈夫か」
明らかに様子がおかしい庄司に声をかけたのは同僚の羽毛田だった。
「羽毛田くん、別に大丈夫だけど、ありがとう」
「ほんとか?」
羽毛田は庄司の肩に手を乗せて、覗き込んできた。
身長185センチはあろうかという大男の影が庄司に覆い被さった。羽毛田はこのようなスキンシップがいつも多い。
このスキンシップの多さ、まるで修道先生のようだ・・
嗚呼また修道を思い出してしまった。
でも先生は肩どころではない、僕の顔を撫でて、耳元で・・ああ
「しっかりしろよ なんかあったら言えよ」
庄司の頭をポンと叩き、羽毛田は自席に戻っていった。
頭ポン・・先生にも…BL・・はっ
庄司は自分の頬を少し叩いた。今日も修道の家へ行く予定があるんだ。しっかりしようと。
その頃
修道は自宅書斎にてスケッチをしていた。
スケッチというのは絵ではなく思いついたことをパソコンに文字を叩くように書き殴るという行為で、トレーニングとして修道が行っていることである。
ーーー
君か貴方か俺か僕から 自らか己か自ずと
光の粒がほどけて、影、余白、断片がゆっくり沈み、
呼吸の輪郭だけが薄く立ち上がり、時間という名のひびが静かに広がる。
未定義の値が揺れ、ノイズ、粒子、記憶のかけらが曖昧な軌道を描き、
触れなかった指先の気配が、反転、落下、浮遊を繰り返しながら空気を縫い、
そしてまたひそかに光が戻り、影‥・・
ーーーー
やがて修道は手を止めた。
…庄司と接した時に感じた小説の神様は、まだここには降りきていないと感じた。
もっと彼と仲を深める必要があるなと考えていた。
この後に、庄司はまたここに来る。
今日は二人の関係を整理し、ちゃんと思いを伝えて、そして聞くようにしよう。
引き続き修道はスケッチを続けた。しかし、いつのまにか、しょうじしょうじしょうじしょうじ・・と無意識に打ち込んでしまっていた。
微妙な距離感。
今の修道と庄司にもっとも相応しい言葉だろう。
事務的な短い打ち合わせの後は、長いソファの両端に互いに座り、
目もあわせず沈黙の時間が続いた。
「あっ」
「えっ」
沈黙を破ろうとした2人のタイミングが合ってしまった。変なところでの相性の良さをお互い感じてしまった。
しかしそれはきっかけともなった。修道が話す。
「庄司くん、あの昨日の」
「すみませんでした」
「うん?何をあやまってるの」
「いろいろ、無理なお願いをしてしまって」
すると修道は庄司に座ったまま近づいてきた。
「庄司くん、無理なこと、僕もしちゃったよね」
「いいえ、そんな」
「イヤだった?」
修道はまだ照れているような庄司の顔を見ながら、その髪をなで始めた。優しく重くゆっくりと。動作に愛を込めるように。
「せんせい・・」
庄司は黙ってしまったが、嫌がる様子はない。続いて修道は庄司の髪を指ですくい、つまみ、遊ぶかのように動かした。
(これは髪クシャだ・・BLっぽい・・)
と、内心で庄司は思ってしまったが、もう口にはしないことにした。
すると
「庄司くんの髪ってすごくサラサラしてるね」なんて修道は言い出してしまった。さらに
「だからクシャってしてもすぐ戻るよ」
と笑顔を見せてきた。庄司はたまらず、話すことにした。
「あの、せんせい」
「うん?」
「これは、”髪クシャ”っていってBLのお約束・・」
「そんなのあるのか」
これはなぜか修道のツボに入ったらしく、しばらく声をあげて笑っていた。
「やっぱり先生はBLの才能がありますね」
その庄司の言葉に、修道は苦笑をするしかなかった。
髪クシャ効果なのか、2人は寄り添い、修道の手に導かれて庄司の頭は修道の肩に乗せられていた。そして優しく頭を撫でてくる。庄司は感じた。
これ以上の幸せなことがあるのだろうかと。
感情が昂ると何も話せなくなる自分を恥じていた。
そんな感慨に耽るまもなく、修道は話しを始めた。
「庄司くん、昨日の、あのフォンダンショコラありがとう、それでね」
外を向いていたくるっと回って修道が話を続ける。
「フォンダンショコラとBLって似てると思わない?」
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