【大人BL】フォンダンショコラとバナナマフィン

泣水恋

先生への欲望、これは欲望ではない!

欲望、これは欲望ではない!


編集者の庄司マコト27歳は邪念と戦っていた。目の前には担当をしている作家である男、修道がそこにいる。

こちらの存在だけを確認して、ひたすらキーボードを打ち、文章を書いている男を庄司は着席し、彼をひたすら眺めていた。


修道は無精髭にグシャグシャの髪にだらしない部屋着を着た30代後半の男。

バツイチの子無しの独身の男。

普通に見たら、どうみてもあやしい男なのだが、その乱れた風貌に覆い隠された美貌を、庄司は見抜いていた。 

  

気品も漂うヨーロッパ風の整った顔立ちだが、どこか可愛らしくもある表情。

切れ長の目から放たれる強い瞳の光、

高い鼻、背が高く体格の大きいモデルのようなスタイル、

高貴さと無邪気さという相反するものを伴わせているように見える 雰囲気。

どうしてもその姿に…惹かれてしまう。


もちろん作家としての修道の魅力もそれ以前から感じていた。

編集担当を希望した際もファンであったから彼を支えたいという気持ちだった。


それでも、この修道の作業部屋兼自宅にて初めて生の姿を見た時に、修道のその魅力に倒れそうになってしまった。

以降もずっと、倒れそうになっている。その魅力に。

修道とこの部屋で過ごす二人きりの時間は、庄司にとって何事にも変えられない尊い時間なのであった。



「やった、終わった!」

修道の大きな声に、庄司は思わず立ち上がった。

「終わりましたか」

と、いう言葉の終わりを待たずに、修道は庄司に駆け寄って強く抱きしめてきた!

まわされたゴツゴツした腕から伝わる熱を少し感じてしまった。

それは庄司の胸の高鳴りを告げるものでもあった。


やばい!

やばい…ああ、どうしよう。

せんせい、しゅうどうせんせい、、

足にちからが入らない・・たおれそうだ・・


度々ある修道からのスキンシップに庄司は喜ぶ間もなく戸惑うだけだった。

「せんせい…ううう」

庄司のうなる声が2人だけの暗い部屋に響き渡る。

「あっ、ごめんね、嬉しくて、つい」

「いえ…」


身体から手を離した修道をフォローをする庄司の声には力がなかった。また倒れそうになっていたからだ。愛しい人の手が自分を包み込んで、その全身をぶつけてきた!…のだから仕方ない。

「大丈夫、です」

大丈夫ではなかったけど、庄司はそう答えた。


修道からの強いハグがあったのは2年4ヶ月ぶりくらいだったと庄司は気がついた。

そんな細かな情報がすぐに頭の中に出てくるほどに、庄司の脳は修道に支配されているのであった。

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