第35話 フリークス
「彼らが帰ってくるわよ」
そう聞かされたのは3ヶ月前だ。チケットがS席で予約できたのに浮かれ、勢いで久しぶりにバーに飛び込んだ。夜営業前の閑散としたカウンターで少し老けたマスターが迎えてくれた。
「ずいぶん久しぶりじゃない。元気してた?ちょっと太ったんじゃないの。幸せなんでしょう」
役所勤めの給料は増えた家族の生活費と子どものための貯蓄に保険と、夫婦合わせても自由に使える額なんて雀の涙ほどだ。はじけたバブルの後の冷え込みは公務員にも厳しく響いてきた。情報誌を立ち読みしては東京、大阪、福岡など大都市でのライブなどをうらやましく思っていたが、結婚に子育て、何よりお金の都合がつけられず見送っていた。週末と深夜のラジオ、たまに出演する音楽番組を録音しては楽しんでいた。
地元でライブをする。ラジオで告知として伝えられたその一報に動転した。が、すぐにメモを取り、予約開始日時、電話番号などを書いた。そして、初めて夫にわがままを言った。夫も笑いながら承諾してくれた。夫も「一緒に」と、言うので、子供を夫の実家に預けることにした。
「シークレットでうちで演奏してくれるのよ、それの翌日に。あちらから声をかけてくれてね。義理堅いわよね。もちろんあなたの分はとってあるわ。旦那さんの分も必要なら用意するわよ」
「え、おいくらですか?」
「もう、すっかり主婦になっちゃって。以前は毎週来てたじゃないのよ。まかないまでがっついて。
……驚かないでね。
ワンドリンク付きで、税込み1500円」
「!?」
「洒~落てるわよね、高校時代最後のライブと同じ金額だなんて」
「お、お、おねがいします!!」
「もちろんよ。当時の彼らを知る常連さんに連絡を入れててね。あなたにも電話したんだけど、つながらなかったからあきらめてたのよ。良かったわ。」
夫へのわがままが増えてしまった。母にも電話して子供を預けられるかお願いしなくては。
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