怪物転生〜よくわからない怪物に転生したけど最強目指す〜

相上おかき

第1話

 人生なんてクソくらえだ。

 よく人は努力と才能を対極に置くけれど、そんなことはない。


 努力だって才能だ。


 …そう。

 …才能なんだ。

 そして、才能とは生まれついてのもの。

 よく人は才能を追い越すためには努力しかないというけれど…


 努力だって、才能…何の意味もない僕の人生における数少ない発見。


 …だったら、

 …だったら、努力できない、努力の才能を持ちえなかった僕はどうすればいい?


 …どうすりゃ…よかったんだ…




 日本、いや、世界中にダンジョンが現れておよそ一世紀。人類はその数を六分の一、減らした。六分の一、即ち約13億人。それより前の世界では年間総死者数は約6800万人。一世紀にすると約6.8億。


 まあ、その中には魔物だ!ダンジョンだ!ひゃっほう!!…と、飛び込んでいったバカ、もとい考えなしが多数いたし、最初期の混乱がその多くを占めていることは間違いない。


 だが、その差、二倍以上。

 経済やインフラは大きく打撃を受け、小国の中には滅びたものも多くいた。また、大国も滅びこそしなかったものの甚大な被害を受け、危うい状況にあった。後に、この時期は『暗黒期』と揶揄されるようになった。


 なぜ、揶揄されるようになったのか?

 答えは簡単だ。

 魔物、モンスターに銃火器が効いたからだ。その上、ダンジョン内では無線こそ使えなかったが有線であれば連絡が取れたのだ。

 端的に言えば、ラノベと違い軍隊が魔物を蹴散らしたのだ。とは言え魔物より一般人のほうが弱い。特に最初期はダンジョンは世界のいたるところに出現したためかなりの一般人が死んだ。


 だが、それだけでは差が二倍以上になったりはしない。

 もちろん、事件や事故―特にダンジョン出現に伴った火事や崩落、そして毎年、冒険者組合ギルドから出るダンジョン内での”冒険者”の総死亡数報告。

 これらも、ある。


 だが、そんなものでは埋まらない差。


 ギルドにより明確に基準が定められ、人材も豊富になってきた現代で尚、一度たりとも死亡が確認されたことのない最強のモンスター。


 その魔物は本来ならF~S⁺で表される中で唯一『天災級カタストロフ』と称され、畏怖される存在。


 名を、『龍』。

 世界にたった四体しか確認されていない不死のモンスター。


 その真っ白な色と鯨のような形から呼ばれる名は『白鯨』。圧倒的な巨躯を誇り、原理は不明ながら、軽やかに天を舞う。天使のような二対の翼と光り輝く輪があることから天の御使いなどと呼ばれていた時期があった。この魔物が殺した人間が天国へ行けたならその呼称は間違っていないのだろう。

 極寒の地、南極に現れ四体いる『龍』の中で唯一居場所が分かっている『樹王』。樹皮のような表皮であれ、その形は樹というより蛙だという。嘘か誠か、顎と思しき場所には白い髭が生えているのだとか。特に深い意味はないが、髪の毛はない。薄毛とかではない。ゼロである。

 深海に潜み、その長い触手を伸ばして海を渡ろうとする者たちを恐怖に落としいれる『海王』。元々はクラーケンと呼ばれていたらしいがその形は蛸というより烏賊である。無人潜水艦で確認されたらしい。二本の触手とエンペラがあったのだとか。後日、呼称が変わった。科学万歳。

 長い首と一対の翼。その体は漆黒の鱗に覆われ、如何なる攻撃も傷一つつけることは叶わなかった。名を『死龍』。四体の龍の中で最小であり、最も人を殺した龍にして最古の龍。その大きさは最小とは言え十分巨体、されど最も神出鬼没。いつ現れ、いつ消えるか、誰も知らない。


 いや、一人だけ知っていたかもしれない。

 最強の人間。

 この百年でたった一人、この龍を一度だけ殺した男。

 彼なら、或いは…


 だが、彼は死んだ。他ならぬ龍の手によって…

 それに俺は違う。

 俺は、俺のランクはE。ルーキーを表すFを除けば最低ランク。

 龍になんて…ましてや、それが二体。


 目の前の死龍。

 大きく口を開け後ろから迫ってくる白鯨。

 勝てるはずもない。

 抵抗はおろか、逃げることすらできない。


 「夢は結局、夢のまんまか…」

 確か、夢は叶えられないから夢と呼ぶんだったか…?

 ふざけんなと思った。

 馬鹿らしくて、幼稚な夢でも叶えたかった。底辺だと嘲笑われても、不可能だと諭されても、それでも…

 「…なりたかったなあ…Sランク…」

 冒険者の、頂点に…


 20XX年4月1日

 日本 東京

 死者 約3000人

 行方不明者 約200人

 負傷者 0人

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