第11話 イベリア歴620年 結末
(悲劇の瞬間・前話続き)
「やめろ! もういい。」
「……なぜ……どうして亡くなったかを聞かなくていいのですか……?」
「ごめん。続きを……」
「その時、すべてを悟ったイレーネは男たちに腕を掴まれ、身動きできないまま必死にヘルマンを呼んだ。だが彼は、絶望の表情を浮かべるイレーネの顔さえ見ようとはせず、出口から暗闇へと姿を消した。彼女には、自分に降りかかる悪夢の現場で『悲嘆』の涙を流すしかなかった。」
「姉……」私は声が震えてしまった。
「逃げるように出口から出たヘルマンは、待ち伏せしていた手下に闇討ちされ、呆気なく殺された。金貨は回収され、その日は監視されながら一夜を過ごし、例の貴族の家に連行された。そしてその日から激しい暴行を受け、性奴隷として過ごし、翌月の五日に亡くなった。」
「ウッ・・・」心臓が潰れるようにいたい
「今後の行動は、イザベルさんが自分で考えてください。家族に話すもよし、自分だけで動くもよし。大国カスティーリャ王国の貴族ですから、下手なことは表立ってできない家ですからね。私も悩みましたが、女神様が『イザベルの考えが最良の答えになる』とおっしゃったので、それに従います。」
数分後――
「・・・教えてくれてありがとう。結果が最悪だけに心から礼は言えないが、知らないよりはよかった。・・・まだモヤモヤして何も決められないが、先が何となく見えてきた。」
「ほう……それは良かった。次回来るときまでの宿題ですな。」
▼△▼△▼△▼△
(管理官の思惑)
なんだか彼女の心に変化があったようだ。言葉遣いもそうだが、芯が通ったように見える。良き信者アントニオ・サンチェスの派遣は良い方向に向かうだろう。しかし、彼は私を女神に見ているらしい。ヤツの心は女神を求めているのだろう。イザベルを女神として支えてもらいたいものだ。
▼△▼△▼△▼△
(イザベルの決意)
あーしは家族に相談しないことにした。二百年以上戦争もない平和でのどかな田舎で、権力に抗う血みどろの抗争に巻き込むわけにはいかない。いずれ時が来たら仕返ししてやる。変態貴族ブタ野郎。
あーしはアン吉を頼って首都パンプローナに行こうと思う。家族はあーしの心の変化に気づいたようで、何も反対せずに送り出してくれた。ダニ吉とブル吉兄弟は泣いていたが、あーしも泣きたかった。もう……あの兄弟をいじれないのが悲しくて。
約60kmを三日かけ、ゆっくり観光しながら進んだ。初めての都会、王様がいる都。おのぼりさん状態で、南部のアントニオの道案内により古い雑貨屋兼住宅で暮らすことになった。当座の資金はアルトゥーロの家の剣を打って余裕がある。料理など作ったことはなかったが、不思議と大概のものは作れた。
初めは作りすぎてアン吉の家で食べてもらい、奥さんや子供たちに「お店の料理みたい!」と評判でよく褒められた。褒められると調子に乗って度々料理を持っていき、家族ぐるみの付き合いをするようになった。
(一年の空白)
そんなある日の午後から一年後の今まで、記憶が曖昧な私はアントニオの家にお世話になっている。一年前の記憶は思い出したが、一年間の記憶が曖昧で、男と生活していたのはうっすら覚えているが名前も顔も思い出せない。身体的には何も変わらない。
▼△▼△▼△▼△
(アントニオの驚き)
一年間行方不明だったイザベルが、ふらっと帰ってきた。驚いた……。
明け方、玄関のドアを叩く音。開店準備中なのに、こんな早く……なんだよ。
「はいはい。まだ開店前なんで……あ、イザベル……母さん……マルタ……」
「何騒がしい……何なの……イザベル。」
マルタからイザベルが妊娠していることを伝えられ、再び驚いた。落ち着いたら事情を聞かなければならない。女神様に祈り、神託を頂きたいのだが、居なくなったときから帰ってきた次の日も神託はなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
外伝 『ブルーノ戦記』 を公開しました! 短編・全2話完結の物語です。
この外伝では――
イザベルから授けられる“チート”
ブルーノの無双劇(!?) が描かれ、物語世界の裏側に迫ります。
現在、本編は 「第40話 マシュー王子助ける」 まで執筆済み。 続く展開もぜひご期待ください。
本編と並行して楽しめる内容となっていますので、ぜひご覧ください!
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