第2話 孤高のイケメン陽光くんはコミュ症なだけ
昼休み。 ふと体育館の裏を覗く。
そこには、陽光(ひかる)がいた。
「陽光先輩 付き合ってください」
1年生女子の良く通る声。どうやら、陽光くんは告白をされているようだ。
知らない人同士の告白。
さわにとって陽光くんは特別な人じゃない。
ただ、学校が同じなだけ
ただ、クラスが同じなだけ
ただ、住んでいるマンションが同じなだけ
ただ、隣の部屋に住んでいるだけ
なのに
なぜ、告白の結果にドキドキするのか。
なぜ、結果が気になるのか。
なぜ、不安に駆られるのか。
わからない
自分の気持ちがわからない。
この感情ってなんなんだろう。
とにかく告白の結果が気になる......
さわは、一瞬考えを巡らす。
気になるなら聞くまでだ!
「告白受けたん??」
告白した女子との会話終わりの陽光くんに話しかける。
気になったことは構わず直球で聞く、それがさわのスタイルだ。
「き 聞いてたんですか、、?」
「いやーすまんなーつい なんかおったから」
「断りました。」
「そーなんや 可愛い子やったけどなあー」
「僕なんかと一緒にいても、楽しくないと思うので」
話している陽光くんの顔はいつも以上に暗く見えた。
「そーなんや
私は、ちょっとやけど一緒にいて楽しいよ!」
さわは全く良い淀みのない声で自信を持ってそう話す。
その顔は目の前の男子とは対照的に一点の曇りもない満面の笑みであった。
「てかさー ちょいこれ見てや」
さわが陽光に向けて、手に持っている紙を渡す。
その紙には何かスケジュールのような物が書いてある。
陽光は、渡された紙に書いてある内容を上の行から読んでみた。
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佐藤陽光 一日の行動記録
8:00 登校
〜8:30 クラスメイトの○○と○○と○○と談笑
8:30~8:40 ホームルーム 若干下向をむきながら、担任の話を真剣に聞いている
・
・
・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこには、陽光の今日一日の行動や様子が事細かと書かれてあった。
「そういえば佐藤くん隣の部屋になったけど、全然どんな人か知らんな思って記録つけとったんよ」
何食わぬ顔で自分の渡した”佐藤陽光 一日の行動記録”について説明するさわ。
陽光はドン引きしている様子だ。
「ずっと僕のこと観察し続けて、記録つけてたんですか?」
「そーやで それしかないやろ」
「す ストーカーですか?」
「何ゆうてん そんなわけなわけないやろー!」
陽光くんからストーカー疑惑を着せられた。
咄嗟に否定したが、改めて自分の行動について考えてみる。
「......よく考えると私がやってることストーカーか.....?」
「ストーカーでしかないですよ」
あとから自分の行動の異常さに気付いたさわ。
急に恥ずかしさと申し訳なさが沸き立ってくる。
陽光はそんなさわのことをどう思っただろうか。
当然その行動に引いてはいる。だが、天然な終始の言動と自分に興味を持ってくれたうれしさから、その美しい顔はかすかに微笑んでいる様にもみえた。
「ごめん 超ごめん 嫌ならもうやらんから.....」
「全然怒ってないんで 大丈夫です」
「ありがと ただもう控えるわ記録とるのは」
さわは自分の行動の異常さにちゃんと気付き反省したようだ。
「ただ、記録とってて面白いことに気付いたんよ」
話題を変えるさわ。
「なんですか それ」
「あんた話しかけられた回数は12回やけど、自分から話しかけた回数は0回やった」
その瞬間陽光の表情が青ざめる。
それは、陽光にとって知られたくない事実だった。
『ああ またか...』
陽光はかすかな声で呟く。
しかし、皮肉にもさわには届かない。
陽光には、コミュニケーションに関してトラウマがある。
自分から話しかけられない。話そうとすると緊張する。上手く自分の言いたいことを伝えられない。
会話が下手な陽光を周りは馬鹿にし、何よりそんな自分が嫌いだった。
そのような人生を歩んできたのだ。
きっと、陽光の『ああ またか...』という呟きは、また、話せないことを馬鹿にされる、からかわれるんだという諦めの言葉だったのだ。
そんな心中をさわはまだ知らない
「自分から全然話しかけないなんて...
あんたって人の話聞くのが好きなんやな!
やから、自分から話すんじゃなくて相手の話を待つんや」
さわの言葉は、陽光の予想とは全く異なる反応だった。
何食わぬ顔のさわと動揺する陽光
対象的な2人の姿を春の日差しが照らし出す。
「違うんです。僕は人の話を聞くのが好きとかじゃないんです」
陽光はさわの”人の話が好きな人”という予想に反論した。
いつもの陽光であれば、話を合わせ、相手の予想するキャラとして自分を偽っただろう。
だが、さわ相手にはそうしなかった。なぜだろうか さわには本当の自分を見せたかった。
「僕は、人と話すのが苦手で自分から話しかけられないだけなんです
本当は話したいし、誰かに話しを聞いて欲しい
でも、いざ話そうとすると胸がドキドキして、気持ち悪くなって、頭の中が真っ白になって..... で やめちゃうんです。話すことから逃げてしまう。
でも、本当は誰かと本音で話したい....
….ってあれ 僕なんでこんなこと話してるんだろう
ごめんなさい...」
「そうなんや 教えてくれてありがとな! あんたのこと知りたかったから丁度良かったわ
あんた話せんらしいけど、今めっちゃ話してたやん!
勘違いかもやで、そんなこと」
「そんなことないですよ。 上月さん以外とだと全然話せないです」
恥ずかしげの全く無い陽光の言葉に、照れるさわ。頬が赤くなる。
「なら、私とだけ話せばええやん」
頭が働かず。つい、思いつきで適当にボケるさわ。
「いいですね それ」
さわの冗談に、陽光は真剣な顔で答える。まさしく冗談を真に受けたのだ。
そんな陽光の心には、ポカポカした気持ちがあった。初めて経験する感情。
顔は、散歩を期待する犬の様に晴れやかになる。
“いや 冗談やで”
陽光の真剣で嬉しそうな表情を前に、そんなことはもう言えない。
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