第25話 裏切りの都 4
9
その夜。
イムランは、一人宮殿の屋上にいた。
星空を見上げながら、リュートを抱いていた。
「イムラン」
声がした。
振り返ると、カフィールが立っていた。
「カフィール様……眠らなくていいんですか?」
「お前こそ」
カフィールは、隣に座った。
「明日、早いぞ」
「分かっています……でも」
イムランは、リュートを撫でた。
「なんだか、眠れなくて」
「そうか……」
二人は、しばらく黙って星を見ていた。
「イムラン」
カフィールが、口を開いた。
「お前は、これからどうする?」
「どうする……?」
「盗賊団は、解散する」
カフィールは、イムランを見た。
「お前は、自由だ」
イムランは、少し考えた。
「僕は……旅を続けます」
「旅を?」
「ええ。吟遊詩人として」
イムランは、微笑んだ。
「各地を回って、歌を届けたいんです」
「そうか……」
カフィールは、頷いた。
「ナディアと、一緒に?」
「はい」
イムランの頬が、少し紅くなった。
「彼女も、そう望んでくれています」
「いい女だ、あれは」
カフィールは、笑った。
「大切にしろよ」
「はい」
イムランは、真剣な顔で頷いた。
「カフィール様は……?」
「俺は、砂漠に戻る」
カフィールは、遠くを見た。
「リュシエンヌの墓の側で……小さな家を建てて、静かに暮らす」
「一人で……ですか?」
「ああ」
カフィールは、寂しそうに微笑んだ。
「もう、誰も巻き込みたくない」
イムランは、何も言えなかった。
この男は——まだ、自分を責めているのだ。
「カフィール様」
イムランは、カフィールの手を取った。
「あなたは、悪くありません」
「イムラン……」
「あなたは……誰よりも、強くて、優しい人です」
イムランの目から、涙が溢れた。
「だから……幸せになってください」
カフィールは、イムランの頭を撫でた。
「ありがとう……」
彼の声も、震えていた。
「お前に会えて……本当に、良かった」
「僕も……です」
二人は、抱き合った。
師弟でもなく、友でもなく——
ただ、共に戦った仲間として。
星空の下、二人の影が重なっていた。
10
翌朝。
宮殿の門前には、三頭の馬が用意されていた。
カフィール、イムラン、ナディア——それぞれの馬だった。
ファルークと、多くの宮廷の人々が、見送りに来ていた。
ジハードも、その中にいた。
「では……」
カフィールは、馬に乗った。
「世話になった」
「こちらこそ」
ファルークは、深く頭を下げた。
「お前たちのおかげで……国が救われた」
「大げさだ」
カフィールは、苦笑した。
「では、行くぞ」
イムランとナディアも、馬に乗った。
「ナディア様」
ジハードが、前に出た。
「はい」
「どうか……お元気で」
「ジハードさんも」
ナディアは、微笑んだ。
「あなたの想い……忘れません」
ジハードは、何も言わなかった。
ただ——深く頭を下げた。
三人は、門を出た。
人々が、手を振って見送る。
「元気でな!」
「また、来いよ!」
イムランは、振り返って手を振った。
そして——三人は、砂漠へと消えていった。
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砂漠を数日進んだ後。
三人は、分かれ道に着いた。
「ここで、別れるか」
カフィールは、馬を止めた。
「ええ……」
イムランも、馬を止めた。
三人は、馬から降りた。
「カフィール様」
イムランが、前に出た。
「僕は……あなたのことを、忘れません」
「俺も、だ」
カフィールは、イムランの肩を叩いた。
「お前の歌……素晴らしかった」
「ありがとうございます」
「これからも、歌い続けろ」
カフィールは、微笑んだ。
「お前の歌は……人を救う」
イムランは、涙を堪えて頷いた。
「ナディア」
カフィールは、ナディアに向き直った。
「イムランを、頼む」
「はい」
ナディアは、深く頭を下げた。
「必ず、幸せにします」
「ああ……信じている」
カフィールは、二人を見つめた。
そして——背を向けた。
「じゃあな」
彼は、馬に乗った。
「カフィール様!」
イムランが、叫んだ。
「また……会えますよね!」
カフィールは、振り返った。
そして——笑った。
「ああ。いつか、必ず」
彼は、手を振った。
そして——砂漠の奥へと消えていった。
イムランとナディアは、その背中が見えなくなるまで見送った。
「行きましたね……」
ナディアが、呟いた。
「ええ……」
イムランは、涙を拭った。
「でも……また会えます」
「そうですね」
ナディアは、イムランの手を握った。
「私たちも、行きましょう」
「はい」
二人は、馬に乗った。
そして——別の道を進み始めた。
新しい旅へ——
二人だけの旅へ——
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その夜。
カフィールは、リュシエンヌの墓の前に立っていた。
「ただいま……」
彼は、膝をついた。
「遅くなって、ごめん」
風が、砂を運んでいく。
「終わったよ……復讐」
カフィールの声が、震えた。
「でも……お前は、戻ってこない」
彼の目から、涙が流れた。
「ごめん……お前を、守れなくて……」
月が、砂漠を照らしていた。
カフィールは——一人、妹の墓の前で泣いた。
長い、長い夜だった。
けれど——夜明けは、必ず来る。
そして、カフィールもまた——
いつか、新しい朝を迎えるだろう。
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第7章 了
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