第8話 双子比べ【2】
桃がピッタリとくっついてきたせいで、意識が朦朧としてきた僕である。たぶんお風呂にのぼせ始めているのもあるかもしれないけど。
そして、次の刺客がご登場しやがったわけで。それが誰なのかは言うまでもない。そう。双子の姉である、胸の大きい方。もとい。双葉緑だ。
緑だったらまだ桃よりもずっと常識人だろうとか、桃の破廉恥極まりないこの状況を一喝してくれるに違いないとか、そう思っていた。
けれど、それが真逆だったんだよねえ、これがさあ。
「あ、お姉ちゃん! ちゃんと予定通りクロちゃんのことを弱らせておいたよー! だから倒すなら今の内! きっと経験値たくさんもらえると思うし!」
倒すって、お前さ……。何? 桃の中で僕の存在ってどうなってるの? というか経験値ってなんだよ。有名な某RPGで言ったらはぐれメタなんちゃらみたいな感じなのか僕は。まあ確かに、逃げ足だけは早いけどさ。
「そう……。じゃあ桃、ちょっとそのまま黒也のことを羽交い締めにしておいてちょうだい」
「了解でございますでーす!」
と、ノリノリのテンションのまま、桃は僕を羽交い締めにしてきやがった。さっきもそうだったけど、ケンカしたと思ったら、いきなりこうして結託したりとか。この姉妹、一体何を考えてるんだよ。
「お姉ちゃん! 準備万端だよ! クロちゃんのことを早く倒しちゃって!」
「いや、だからさあ。倒しちゃってって。僕はお前達にとって敵なの? それともモンスターか何かなの?」
「ううん? 違うけど? ただのヘタレだと桃ちゃん様は思ってる。だから安心して!」
「どうしてそれで僕が安心すると思ってるんだよ……。ヘタレって言われてダメージ受けるだけだっつーの」
背を向けてる上にがっしりと羽交い締めにされてしまったせいで緑の様子を窺うことができないけど、は、羽交い締め!? 緑のヤツ、僕に何をする気だよ。桃は単眼思考だし単純だから何をするのかなんとなく分かるからまだいい。
だけど、緑はというと桃とは真逆。元々頭はいいし、多眼的思考の持ち主だから思考回路が複雑すぎて何を考えているのか全く読めない。だからそういう意味では桃よりもずっと厄介なんだよほんと。
「く、黒也。あの……ど、どう? 桃の胸の感触は」
「は? どうって言われても……」
説明するのは至極簡単だ。プニプニとした柔らかな感触がずっと背中に当たってるから、すっごく気持ち良くて幸せでゴホンゴホン。もとい。はた迷惑です、はい。
と、言えばいいんだけど、それを言ったら言ったで、また一悶着起きそうだから口には出さない。なので、とりあえず「早く離れてほしい」とだけ伝えておいた。実際そうだし。
「ふ、ふーん。そ、そうなんだ……。えっと……えーっと……」
なんだ? 緑にしては珍しくやたらと歯切れが悪いぞ? 短いながらも声から緊張しているのが伝わってくるし。それが逆に、僕の不安をより大きく掻き立てた。
「あ、桃。もう羽交い締めしないで大丈夫。やっと覚悟ができたから」
なんの覚悟ですかねえ……。
「了解でーす! それじゃあ攻守交代ということで羽交い締め解除! お姉ちゃん、はいどうぞ!!」
「やっと解放されブフォッ!!」
羽交い締めから解放されたところで桃から離れて緑に目をやったわけだけど、心臓止まるかと思ったよ。
だってさ――
「な、なんでお前、タオルを巻いてきてないんだよ!!」
桃が浴室に入ってきた時は一応タオルを巻いて隠していたけど、この緑、なーんにも巻いてないの。
一応恥じらってはいるのか、両手で胸は隠してる『つもり』みたいだけど、見えてるから! デカすぎてアレが完全に溢れ落ちちゃってるから! 隠しきれてないから! というか、下も隠そうとしろよこのバカ姉が!!
「さっすがお姉ちゃん! バスタオルを巻いたりしないところが男らしい! いやいや、まだまだ桃ちゃん様は甘いですなあ」
甘いとか甘くないとか、そういう問題じゃないと思うんだが。これ、どっちが痴女でどっちが痴女じゃないかって話だと思うんだ。
「あ、あの……どうかしら黒也? わ、私を見て、ど、どんな感じなのかしら……」
どんな感じと問われるならばこう答えようじゃないか。
ぶっちゃけ幸せです、はい。
今にも倒れそうだけどな!!
『第8話 双子比べ【2】』
終わり
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