第4話 妹の赤月黒子は分かりやすい【2】
リビングに入るや否や。妹の黒子は「えいっ!!」という掛け声とともに、僕に抱きついたままソファーへとダイブした。もう慣れたけど。だってコイツが小さい頃からずっとこんな感じなんだもん。
「あのさー、黒子? まずは冷たい飲み物でも飲みたいんだけど……。外もめちゃくちゃ暑かったしさ」
「任せてお兄! 私が持ってきてあげる! 外も暑かったかもしれないけど、なんせ桃ちゃんがずっと抱きついてきてたんでしょ? そりゃ喉も渇くよねー。あー、ほんと、お兄が可哀想」
言うが早いか。黒子は素早く冷蔵庫の方へと駆け足で向かった。いや、あのさ。桃もくっついてきてたけど、お前も同じじゃん。冷房のあるなしだけの違いで。
でも、黒子の方がまだマシか。桃と比べてコイツは妹だから全く抵抗ないし。それに、こうやってちゃんと気も遣ってくれるから。割とできた妹なんだよなあ。質屋に恥じらいを入れてきた桃とは大違いだよ。
まあ、お風呂には黒子とたまに一緒に入ったりはするけど。そういう意味で、もしかしたらコイツも恥じらいとか全くなかったりして。もう中学三年生になったんだから別々に入るのが普通だと思うんだけど……。
まあ、僕は全く気にないから別にいいけど。
「はーい、お待たせお兄!」
「あ、ありがと……う?」
何故、僕がちょっと戸惑ったのかというと、麦茶を持ってきたから。ピッチャーで。ビールじゃないんだからさあ。
「えへへー。喉が乾いてるお兄のために超大サービスしちゃいました!」
「お、おう……」
ま、まあいいや。デカすぎるけど、飲みきれなかったら残せばいいだけだし。それに実際、喉が乾いているのは事実だからありがたいと言えばありがたいわけで。
「ちなみに。黒子は何の飲み物を持ってきたの?」
「うん、私はこれ」
「おお! 懐かしい!」
黒子が手に持って見せてくれたそれは、あの二つにポキッと折れるチューチューだった。飲み物じゃなくて凍らせてあるから、正確にはアイスだけど。
「ねえー、懐かしいよねえ。覚えてる? 二人でよく一緒に駄菓子屋さんに行って買ってたの」
「そりゃ覚えてるよ。今じゃもう駄菓子屋さんなんて、ほとんど潰れちゃってるし。尚更に覚えてるかな?」
「あー、確かに。駄菓子屋さん、今じゃほとんど見なくなったもんねえ」
「うん、ほんとそう。あの時はまだ緑と桃とも四人で一緒に行ってたりもしてたし。アイツらさ、最近急に変にな――」
また一瞬。たった一瞬だった。黒子の表情がさっきと同じ様に変わった。でも、今回は目付きだけじゃない。眉間に皺まで作っていた。
見間違えじゃなかったんだ。
理由を考えたんだけど、すぐに気が付いた。さっきも今も、『あの双子姉妹』の名前を出した時だったから。たぶん、それが理由であり、原因なんだろう。
ちょっと話題を変えた方が良さそうだな。
さてと。どんな話題にしようかな。
「なあ黒子? お前のことでちょっと訊きたいことがあるんだけどいいか?」
「おおー。お兄が私に興味を示すなんて珍しい。こりゃきっと、ヤモリでも降ってくるに違いないね」
違う、黒子。ヤモリじゃなくて槍だから。一文字違いではあるけど。それに、なんでだろうか。槍の方が降ってきたら危ないはずなのに、ヤモリの方がずっと嫌なんですけど。ベタベタしてるからかな? アイツら。というか、ヤモリが降ってくるのを想像しただけで怖っ! そしてキモッ!
「で、なになに? お兄が私のことで訊きたいことって?」
「ん? ああ、そうそう。黒子ってさ、好きな人とかいるの?」
僕が質問した刹那。
黒子の顔が、まるで発火したかのようにボッと赤くなった。
「な、ななな、何でそんなこと、き、訊いたりするのかな?」
「いやね、ほら。黒子ってさ。男の子と付き合っても長続きしないじゃん? それって色々理由はあるんだろうけど、その人のことを好きになっちゃったから付き合うわけじゃん? だから惚れやすいのかなあって。それに、飽きやすいのかなあって」
「そ、そそそそ、そんなわけないじゃん! わ、わた、私って超一途だし! 飽きやすくなんか全くないし! お、お兄も変なこと訊いてくるなあー。あー、ほんと誤解されまくりだよー!!」
うん。すごいね。まさかここまで動揺するとは。目が泳ぎまくってるから嘘だって一発ですぐに分かっちゃ――
ん? 黒子が一途? なのにすぐに別れたりする?
それって一体、どういうことだ?
「なあ黒子。お前って今、誰か好な――」
「あーー!! いっけなーい!! 私ったら超重要なアレを思い出しちゃったー!! 急に!! 突然に!! だ、だから、ちょ、ちょっと出かけてきまーす!!」
そんな言葉をリビングに残して、黒子はぴゅーっと走り去っていってしまった。逃げるようにして。なんだアイツ?
というかさ。
超重要な『アレ』って、何さ。
『第4話 妹の赤月黒子は変わりやすい【2】』
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます