第37話 鑑定アイテムが欲しい その1

宝箱の罠を鑑定できるアイテムを購入しようと思い、ギルドの受付にいる受付嬢さんに声を掛けた。


せっかく宝箱を見つけても、開けられなかったら昨日のように金だらいで済む保証はない。 やはり一つは持っておきたい。


​「すみません、罠の鑑定アイテムが欲しいんですが」


​「はい。一つ10000円になります。お幾つ購入なさいますか?」


​……高くね? 1つ10000円って。


​言い忘れていたが、罠の鑑定アイテムは使いきりで、一回使うと壊れて使い物にならなくなる。 だから殆どの探索者はアイテムを購入しない。


じゃあどうするのかって? それは、ギルドで簡易的もしくは長期で他の鑑定スキルを持っている探索者とパーティーを組むのだ。 だから運悪くパーティーが組めなかった探索者は当然宝箱を諦めるしかない。 どうしても諦めきれない探索者だけが、使いきりでも良いからアイテムを購入する。


​「……もう少し検討してからにします」


​「そうですか。 それじゃ必要になったら購入をお願いしますね」


流石にいつ出くわすか分からない宝箱の為だけに10000円を支払うのはキツい。 只でさえ俺は仕送りに頼る大学生でお金が無いのだ。 えっと、今の手持ちの金額はいくらだっけか? 確か……この前のオーク達の素材とクエストの成功報酬を合わせて……50000円弱か。


​やっぱり鑑定アイテムに10000円の出費は痛すぎる。 もし四つ買ったら一日の稼ぎが全て飛んでしまう計算になる。


​俺は諦めてアパートに帰る事にした。


​トホホ……貧乏は辛いぜ。


​消沈した感じでアパートに帰り、ドアに鍵を挿して鍵を回す……あれ? 開いてる? もしかして鍵を掛け忘れたか?


​(いや、最後に鍵を掛けた記憶はある。まさか泥棒か?)


​恐る恐るドアを開けて中に入ると、リビングからテレビの音が聞こえてきた。


​「あっ、翔真。お帰りなさい」


​藍音がリビングでアイスを食べながらテレビを観て寛いでいた。 スノーと幸村も一緒だ。


​「藍音お前、どうやって中に入った?」


​「ん?スノーちゃんに開けてもらった」


​……スノーや……幸村もだ。 勝手にドアを開けてはいけません。 セキュリティーの概念が無さすぎる。


……ん?藍音? お前が食べているアイスはもしかして……


​「ん?ああ、これ? 冷凍庫の中にあったから貰っちゃったよ。 美味しいねハー〇ンダッツ」


​お前!! 後で楽しみに取って置いた俺のハー〇ンダッツ!! 高いんだぞそれ!! 二割引の日を狙って買った、俺の唯一の贅沢だったのに!


​「で翔真。 どうしたの? 今にも溶けそうな賞味期限ギリギリのアイスみたいな顔をして?」


​……どんな顔やねん。 例えが独特すぎるだろ。


​俺はギルドで鑑定アイテムを購入しようとしたが金額が高過ぎて買えなかった事を藍音に伝えた。


「ふ~ん。そうだったんだ。……ねぇ翔真、私がお金出そうか? 翔真がそのアイテムがどうしても欲しいって言うなら私喜んでお金出すよ?」


​藍音はハー〇ンダッツを頬張りながら、軽くそう言った。


​「…………いや、いい。 ここで藍音にお金出して貰ってアイテム買ったら、自分を許せなくなりそうだ」


​……少しだけ「それも有りかも」って考えたのは、インドア派のプライドにかけても内緒だ。


​「真面目だよね翔真は。 まぁ、そんな所も好きなんだけどね(ボソッ)」


​「ん? 何か言ったか? 聞こえなかったんだが?」


「べ~つ~に~。 な~んにも言ってないよ」


「翔真様は鈍感係主人公でしょうか……?」


​「姫、それは言ってはいけないで御座るよ。 メタ発言はNGで御座る」


​スノーと幸村が何か言っていた様な気がしたが気のせいか? 二匹が小声で何を話しているのか、いつも気になる。


​「ちなみに興味があって聞くんだけど、藍音は貯金いくら位有るんだ? 言いたくないなら言わなくて良いぞ?」


​純粋な好奇心から、藍音にそう聞いてみた。


​「貯金? えっとね、ざっとで良い?」


​「ああ」


​「私、特許とか株とかの収入があるから、ざっと見積もって……五桁×万円位かな」


​「…………」


​俺の動きが止まった。 頭の中で五桁×万円という数字を反芻する。 1桁目が10000円だとしても、10の位が動くのは10万円、100の位が動くのは100万円、四桁目が1000万円……そして5桁目が動くのは……


​「それって凄いんですか藍音様?」


スノーが純粋な瞳で尋ねた。


​「そうでも無いと思うよ? まだまだだよ。多分」


藍音はまるで、今日の天気を話すようにあっさり答える。


​「ふ~ん。 そうなんですね? って翔真様? どうなされましたか? 翔真様? 魂が抜けている様に見えますが?」


​スノーが俺の腕を揺さぶりながらそう聞いてきたが、俺の意識はその時、別次元に移動していた。


​………5桁×万円……だと?


それはつまり、最低でも一億円を意味する。 10000円で、貧乏で辛いと嘆いている俺とは住む世界どころか、もはや住む次元が違う。 あのハー〇ンダッツを迷いなく食べられるわけだ。 俺の財布の中身は、彼女の1日の株の変動にも満たないだろう。


​俺は、自分の人生における金銭的な敗北を、はっきりと認識した瞬間だった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


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今後とも拙作を宜しくお願い致します。


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