第24話 緊急事態!

​そして地下三階に到着。 一階や二階に比べて、空気は湿気を帯びて冷たく、いかにも魔物の巣窟といった雰囲気が漂っている。


​「オークを探すぞ!そしてオークを倒してオーク肉GETだ!そして焼き肉だ!」


​意気揚々と三階を探索していく。 しかし、そこに出会う魔物は、地下三階の主役であるはずのオークではなく、一階でも見たゴブリン、スライム、コボルトばかりだ。 スノーはそれらの雑魚魔物を、無駄のないフリッカージャブのような打撃でバンバン倒していく。


​「ええぃ!!オークは何処だ!!俺の焼き肉は何処にいるんだ!!」


​あまりにもオークが見つからないことに苛立ちを覚え、俺は思わず怒声と共にそんなことを口走っていた。


「翔真様、もうすでに呼び方がオークから焼き肉に変わっていますね。 確かに焼き肉食べたいです。私も今、頭の中は炭火の香りでいっぱいです」


​スノーまでもが、その表情こそ冷静だが、口元には確かな食欲を滲ませていた。


​「やっぱり焼き肉は炭火焼きだよね。 炭火の遠赤外線効果で、外はカリッと、中はジューシーに焼けるんだから! ガスコンロは邪道だよ邪道!」


​「藍音、それは焼き肉屋さんに喧嘩売ってるぞ。 全国の焼き肉屋さんに謝れ。 そして、その持論は配信で言うな」


​俺の忠告に、藍音は悪びれもせず片手で口を覆って笑う。


​「ごめんなさ〜いwww」


「謝る気まるで皆無www。だが、俺も炭火焼きには一票投じる」


​そんなオークにとっては「即刻逃げ出すべき」な脅威の会話をしながら、俺達は強烈な食欲に突き動かされて三階を探索していく。




​” 焼き肉は炭火焼き一択!それ以外は認めない! ”


” ワイは拘り無し!食べれればそれでよし。 ”


” そんな話聞いてたら焼き肉食べたくなったわwww葱塩タン食べたい ”


” 私はカルビ!ハラミも捨てがたい! ”




​コメント欄も、完全に焼き肉パーティの話題で持ちきりだ。


​暫く探索していくと、通路の奥で、特徴的な豚の鳴き声が聞こえた。


​「おっ!やっと肉を見つけたぞ! 狩るぞ皆!」


​俺は興奮を抑えきれず、スタンガンを握りしめた。


​「おーっ!私のDスライサーが火を吹くよ!焼肉奉行は譲らないからね!」


​藍音の目にも、普段の知的な光ではなく、純粋な肉食獣のそれが宿っていた。


​「もうオークじゃ無くて肉になってます……」


​スノーは呆れを通り越し、もはや哲学的な境地に達したような冷静な声で呟いた。


​オークの群れ(五匹ほど)を見つけた俺達は、文字通り目をギラギラさせた状態で武器を構え、群れに突っ込んでいく。


群れに突っ込んだ俺は、迷うことなく警棒型スタンガンをオークの口の中に叩き込む。100万ボルトの電気がオークの中を駆け巡る。 オークは電気の衝撃に耐えられず、肉の塊となって即死した。 よっし!先ずは肉一匹GET!


​藍音の廻りを飛び回るDEATHスライサー(Dスライサー)は、まるで精肉工場の高性能カッターのように、オークの首を的確に跳ねていく。 藍音の頭の中は、今や炭火焼きの焼き肉の風景で一杯みたいだ。


だって、オークを見ながら興奮で涎を垂らしているんだから。 普段の天才博士の知的な姿からは想像もつかない、本能剥き出しの姿だった。


そんなカオスな状況の中、スノーだけは、悲しいほどに冷静にオークに打撃を与えて倒していく。


彼女の横顔には、「なんて主と助手だ」という呆れの色が浮かんでおり、俺と藍音に若干引きながら戦っているのが見て取れた。




​” バーサーカーがおる ”


” 藍音ちゃん、涎!涎!きちゃない! ”


” 美人の涎!ありがとうございます! ”


” スノーちゃんだけ冷静に見えるのは俺だけ? ”


” 主と助手がとち狂っとるwww 肉の魔力ヤバすぎwww ”




オークの群れを殲滅し、通路には美味しそうな肉の匂いが漂っていた。


​さぁ早速解体タイムだ! 一番美味しいハラミの部位を貰っていくぜ! あっ、ちゃんと魔石は回収するよ、勿論。


​部位を回収しようとした時、俺はある事に気付いた。


​あれ? オークの群れ(死骸達)の真ん中に何かが倒れていないか?


​俺は興奮から急激に冷静になりながら、その「何か」に近付いた。


​……コボルトだ。しかも酷い傷だらけの。その毛並みや体格は、まさしくポメラニアンのような愛らしい姿をしている。


​何かヤバい、こいつ。息絶え絶えになってる。今にも死にそうだ。


「あ、貴方は! 翔真様!このコボルトは私の部隊に居たコボルトです! 酷い傷!このままでは死んでしまいます! どうかこのコボルトをお助け下さいませ!」


​スノーが、普段の冷静さを完全に失い、必死になって俺に訴えてきた。


​スノーの知り合いなら助けないといけない。 俺は即座に決断した。


​俺は頷き、傷だらけのコボルトを抱き抱えて転移クリスタルまで全力疾走する。


​その場で傷をポーションで治したら?と思うだろ?それは無理だ。


だってそのポーションが無いんだから仕方がない。


ポーションはギルドでしか購入できない貴重品であり、俺達は今回、回復アイテムを持たずにダンジョンに潜っていたのだ。 だからギルドまで戻ってポーションを購入して治そうと思う。


​藍音とスノーも俺の後を全力で着いてきた。 藍音は両腕にオーク肉の塊(ハラミとカルビ)をしっかりと抱えた状態で。 肉の魔力は、緊急事態をも超えるらしい。


​死ぬなよスノーの知り合いのコボルト!


​必ず助けてやるからな!




​” 緊急事態!緊急事態! ”


” 今すぐギルドに急行せよ! ”


” スノーちゃんの知り合いのコボルトを何としても助けるんだ主! ”


” 主が滅茶苦茶カッケー! ”




コメント欄の熱狂は、今や命の救出劇へと切り替わっていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


もし宜しければ コメント レビュー ♡ ☆評価を宜しくお願い致します。


おかしな点があれば指摘をお願いしますね。


今後とも拙作を宜しくお願い致します。

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