第21話 2回目の配信 その2

結局、藍音を約束の時間より二時間遅れの午前6時に迎えに行き、とりあえず俺のアパートで待機することにした。


だって、こんな朝早く、日の出前にダンジョンに潜る馬鹿はいないだろ? それに、そんな早朝から配信を視てくれる熱心なリスナーさんも、さすがに居ないだろう。


​朝食は、ラボ籠りで疲れているはずなのに「朝ごはんは私が作る!」と言い張った藍音の手作りをいただく。


​「モグモグ……で、今日の配信は前回みたいな感じでOKなのか?」


​「モグモグ……ゴックン。うん。あんな感じでOKだよ。でも」


​「モグモグ……でも何だよ?」


​「モグモグ……翔真の出番が少ないのが少し引っ掛かるかなぁ?」


​「モグモグ……ゴックン。仕方ないだろ?スノーが全部やっつけちゃうんだから」


​その瞬間、隣で静かに朝食を食べていたスノーが、手に持っていたパンをゆっくりと置き、真顔で俺たちを睨みつけた。


​「………あの、翔真様、藍音様。 会話しながら食べられるのは控えて戴けませんか? 物凄く御行儀が悪いですし、見た目汚いですので」


​「「すみませんでした」」


俺と藍音は、コボルトであるスノーに人間としてのマナーを指導され、思わず同時に謝罪の言葉を述べた。


ああ、そうだ。このコボルトは、俺たちよりもよっぽど賢くて品行方正なんだった。


朝食も終わり、充分に時間を潰した俺達は、準備をしてダンジョンへと向かう。勿論ギルドに顔を出すのも忘れずに。


​今回、記念すべき(?)二回目の配信なので、ギルドからクエストを請け、そのクエスト攻略の様子を配信しようと考えた。


​クエストボードの前で確認する。


​「Fランクのクエストは……薬草採取とゴブリン討伐か。何々、薬草採取は薬草を10束(10本で1束)か。で、ゴブリン討伐はゴブリン5匹分の耳を獲ってくるか。藍音、スノー。どっちが良い?」


​「私は薬草採取かな?ゴブリン気持ち悪いし」


​「私はゴブリン討伐ですね。少し試したい事がありますので」


「じゃあいっその事、どちらも請けるか」


​そんな俺達の会話を聞いていたギルド職員さんが、目を見開き、そして恐る恐るという体で俺達を凝視してきていた。


​そりゃそうだろうな。だって、コボルトであるスノーが、首に提げたペンダントを通して、人間の言葉を流暢に話しているのだから。 ギルド職員さんだけじゃなく、周りの他の探索者さん達も、驚愕の表情でこちらを見ている。


​「おい、あれ見てみろよ。コボルトが人間の言葉を喋ってるぜ?」


「どうなってるんだよ?見たことも聞いたことも無いぞ?」


「ど、動画に撮って拡散しても良いかな?」


​等の声も聞こえてきた。すみませんが、動画に撮るのは控えて下さい。 配信時のリスナーさんのびっくり具合が減ってしまうので。 配信後なら幾らでもOKですから。


​俺はスノーを動画に撮られる前に、焦りを見せながらも急いでクエストを2つ請けて、職員さんのサインを貰う。 そして、ギルド中の好奇の視線を背中に浴びながら、そそくさとギルドを後にし、ダンジョンへと向かった。


そしてダンジョン入り口に到着。


​「藍音、スノー。準備はOK?」


​「いつでもOKだよ♪」


​「私も準備出来ています翔真様」


​二人がOKしたのを確認して、WebカメラのスイッチをONにした。浮かびあがるWebカメラを前に、俺は前回よりも高いテンションで挨拶する。


​「皆様こんにちわ!シロモフチャンネルの翔真です!」


​「助手の藍音で~す♪」


​コメント欄の熱狂は凄まじかった。前回からの数日間でチャンネルフォロワー数は900を越えていた。収益化まであと少しだ。ちょっと楽しみだ。




" 待ってました♪ "


" 数日ぶり♪楽しみにしてたよ♪ "


" スノーちゃん キタ━(゚∀゚)━! "




​よしよし♪あっという間にコメントが流れ、気付けば同接が300を越えている。前回よりも明らかに多い。


​「で、我がチャンネルのメインを勤めます」


​俺の紹介を受け、スノーは品のあるお辞儀をして挨拶した。


​「……コホン。スノーで御座います。皆様こんにちわです」


​その瞬間、コメント欄は静寂から一転、爆発した。





​" フワッツ!? "


" ス、スノーちゃんが人間の言葉を喋ってる!? "


" これは夢か!?幻か!?おい翔真!?何をした!? 

"

" 切り取りして拡散だ~!! "




​「スノーが人間の言葉を喋っていて驚いたでしょ?何故スノーが人間の言葉を喋っているのか!その理由は、藍音。説明よろ!」


​「え~っ、私が説明するの~?まぁ良いけど。その理由はと言うとですね、私が作成した翻訳機のお陰なのですよ。スノーちゃんちょっと来て」


​スノーは藍音に呼ばれて藍音の近くまで移動する。


「スノーちゃんの首にペンダントが掛かってますよね。これが翻訳機♪このペンダントをスノーちゃんが着けている限り、スノーちゃんの言葉が翻訳されて人間の言葉に変換される……という訳なのだ」




​" スゲー!これでスノーちゃんが何を話してるか分かるな! "


" 俺もそのペンダント欲しい!藍音ちゃん!そのペンダント作って! "


" 幾らや!?幾ら出したら作ってくれる!? "


" 市販はされないの!? "





​一気に翻訳機への問い合わせが殺到する中、藍音は顔色一つ変えず、そしていつもの面倒くさそうな表情で言い放った。


​「え?普通に作るの嫌だけど?市販もしないよ?だって作るの手間だし、人の為に動くの面倒臭いし嫌だから。億積まれても作らないよ。あしからず♪」




​" え~っ 欲しいのに~ "


" 勿体無い 市販したら滅茶苦茶売れるのに "


" 損失がデカイ "


" 流石藍音ちゃんクオリティwww "


" 他人には作らないという確固たる意思www "





​藍音の頑なな天才性に、コメント欄は笑いに包まれた。


​「今回は配信をしながらクエストを請けていきたいと思ってます! 今回請けたクエストはゴブリン討伐と薬草採取です。皆さんどうか最後まで宜しくお願いします」


​「宜しくで~す♪」


「宜しくお願い致します」


​こうして、スノーの流暢な挨拶と、翻訳機という新兵器を携えて、第2回目のシロモフチャンネルの配信が、最高のスタートを切ったのだった。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


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おかしな点があれば指摘をお願いしますね。


今後とも拙作を宜しくお願い致します。

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