第15話 初めての配信 その3

俺はスノーの圧倒的なフィニッシュブローの余韻から我に返り、慌てて口を開いた。


​「おっと、忘れる所だった。ゴブリンの素材、素材っと」


​俺はスノーが倒したゴブリンの死骸から、素材になる部位を解体し始めた。ゴブリンの素材はあまり使える所はないけれど、無いよりマシだ。ギルドに売ればお金になるし。安いけど。


​俺の手元を覗き込みながら、スノーが首を傾げる。


​『翔真様?何をされているのですか?』


「魔物の素材を集めているんだよ。魔物の素材を使って武器や防具なんかが作れる。そしていらなければ売れば金になる。ゴブリンだったら耳と魔石かな。耳はゴブリンの討伐証明になるし、魔石は安いけど換金出来るからな」


​『へ~っ。そうなんですね?知らなかったです』


​藍音は興味なさそうにDスライサー(高速回転ノコギリ)の回転速度を調整しながら言う。


​「私も魔物の素材は欲しいかな。素材があれば私が色々な物が作れるしね♪ゴブリンの素材はいらないけれど。使えないし」


​スノーが、何かを悟ったように俺に尋ねてきた。


​『じゃあ私達コボルトの素材は何ですか?』


​「コボルトの素材は牙と爪、そして魔石かな?牙と爪は武器を作るのに使えるし、コボルトの魔石はゴブリンの魔石より高く売れるんだ。何でそんな事を聞いたんだ?」


​『……別に意味はありません。何となく興味があったので……』


​スノーの表情が若干固い気がする。いや、スノーからは素材は取らないからな? 俺はそう心の中で呟く。


​その時、スノーがほとんど聞こえない声でボソッと呟いた。


​『……牙と爪が生え替わる時は大事に保管しとかないといけませんね……(ボソッ)』


​一体何を言っているんだこいつは。



素材回収を済ませ、俺たちは探索を再開する。次に出会った魔物はなんとコボルトだった。


​スノーとはやっぱり見た目が違い、どことなくハスキー犬を見ているイメージだ。毛の色は茶色で、明らかに野生的だ。流石に同族なのでスノーはやりづらいだろうな。




​"おっ?スノーちゃんと同じコボルトにエンカウントしたぞ?"


​"どうするのかな?スノーちゃんやりづらいよね?"


​"ここはご主人様の出番だろ?さっき藍音ちゃんから良い武器を貰ってたし"


​"試し切り(?)しておけば? 100万ボルト見せてくれ!"




​リスナーさんからそんなコメントを貰う。


確かにそうだな。よし、俺がいこう。藍音がくれた100万ボルトのスタンガン警棒の威力も試してみたいし。


​俺は皆の前にスッと出て、警棒を構え、戦闘態勢を取った。警棒を握る手に力を込める。 よっしゃ!どっからでもかかってこいや!


​そう思って気合いを入れたが、気合いを入れただけだった。


​何故なら、スノーが音もなく素早く相手コボルトにダッシュで間合いを詰めて、コボルトの顔面目掛けて精密な右ストレートを決めたからだ。


​右ストレートを喰らったコボルトは口から血を吐きながら(鼻も潰れたみたいで鼻血もダラダラ)その場に倒れこんだ。そしてコボルトから素早くバックステップで間合いを取るスノー。


​何とか立ち上がろうとフラつくコボルトに対して、スノーは右手を胸より少し下の辺りに置き、振り子の様に振って迎撃態勢に入っていた。


​あ、あれはまさか!ヒットマンスタイル!?


​そしてスノーはコボルトに右手で鞭がしなる様に殴りかかった。それは拳というより、重い鉄球をぶつけるような重みを感じさせた。殴られたコボルトは拳が当たった顔を左右に激しく揺らされていた。


そしてもう虫の息になったコボルトに、スノーは相手の顔を下から上に打ち上げるフィニッシュブロー「スマッシュ」を決めてコボルトの息の根を止めた。


​『ふぅ。終わりました翔真様』


​あまりにも淡々としたその戦闘とセリフに、コメント欄は再び静寂に包まれる。




​"………え?"


​"………は?"


​"あの白いコボルト、同族を瞬殺したぞ…"




​「……なぁスノー?」


​『はい?どうしました?』


​「お前さ、同じコボルトを殴って倒したけど、コボルトと戦うの嫌じゃないの?」


​『特に。あっ、同じ所属のコボルトなら抵抗はありますが、このコボルトは所属が違いますので戦うのは支障ありませんね』


​……コボルトに所属ってあるんだ。へ~。


​俺の頭の中で、「同じコボルト」という認識が一瞬で「所属の違う敵」という概念に置き換わった。スノーは見た目に反して、プロフェッショナルなのだ。




​"スノーちゃん、自分からコボルトに突っ込んでいったよね今!?"


"同じコボルト殴るの嫌じゃないの?理由が気になる!"


​"スノーちゃん、主になんか言ってたみたいだけど、何て言ったの?"




​俺はコメントを拾って、スノーの発言を通訳した。


​「コメントの中に『スノーが俺に何を言ったのか?』というのがありましたので答えますね。スノーは俺に『特に嫌じゃない。所属が一緒なら抵抗はあるけど、所属が違うから支障はない』だそうです」




​"コボルトに所属なんてあったんだ……ダンジョンってそういう組織的な魔物いるんだな"


​"○○所属 ○○部隊みたいな感じ?"


​"もしかしてスノーちゃんの所属部隊は皆ポメラニアン?ヤバい、見た目最強"


​"色違いがいたりしてwww  赤いポメラニアンとかwww"



​「とりあえず今日は地下1階を攻略してから終わりたいと思います。それまで皆どうぞお付き合い下さい。藍音、スノー。頑張るぞ」


​「うん!『はい!』」


​再度探索を再開してから何度も魔物に出会ったが、すべてスノーがボクシングの技を繰り出して殲滅していく。俺と藍音の出番はなさそうだ。俺と藍音はスノーが戦っている間、スノーの戦いの実況をする事にした。


​そして約1時間後。地下2階に降りる階段を発見した所で、俺たちは初めての配信を終了した。すぐに階段近くにある転移クリスタルに触って地上へと帰った。


​倒した(スノーが)魔物の素材は一部藍音が研究用に持って帰るとの事だったので藍音に渡し、後は全てギルドに買い取って貰った。


​総買い取り金額は ¥10,000。  安っ!でも、まぁ地下1階の魔物の素材なんてそんな物か。だが、一介の大学生にしては、最初の配信と探索で得た良いお小遣いになったと言えよう。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


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今後とも拙作を宜しくお願い致します。





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