第9話 藍音の驚く一言 その2

今日の講義が全て終了し、俺は藍音のスマホに連絡を入れた。藍音も講義が終わっているはずだ。


​「もしもし藍音?講義全て終わったぞ」


​「お疲れ様翔真。連絡ありがとう」


​「で、約束してた居酒屋だけど、何処に行く?」


​俺がそう聞くと、藍音は電話口で困ったような、申し訳なさそうな声色になった。


​「翔真、それがね……」


​「ん?どうした?もしかして行けなくなったとか?」


​「そうじゃないの。あのね、居酒屋なんだけど、魔物を連れて入れる居酒屋が無かったの。近辺全部の居酒屋に連絡入れてみたんだけどね、全部断られちゃったんだ。ねぇどうしよう……。折角楽しみにしてたのに」


​そっか。全滅だったか。まぁ、魔物を連れて行くのは難しいよな。


例えば衛生面とか、他の客への配慮もある。客商売だから断られても仕方がない部分はある。


​(どうしようか。電話口の藍音の落ち込み様からして、物凄く楽しみにしてたみたいだし)


​……仕方ない。余り気乗りはしないが、一応の提案だ。


「……じゃあ、ウチで宅飲みするか?酒とおつまみ買い込んで」


​と藍音に提案してみた。


すると、電話口の藍音の声色が、一気に弾けるような歓喜に変わった。


​「…本当に!? 良いの!? 翔真!?」


​「俺から提案したんだ。良いに決まってるだろ?まぁ藍音がそれで良かったらだけどな」


​「行きます!絶対に行きます!何が有っても行かせていただきます!」


​滅茶苦茶食い付いてきた。その勢いは、さっきのパリピ男子を撃退した時と同じ、鬼気迫る勢いだ。少し怖いぞ、藍音?


​「お、おう。それじゃ決まりだな。俺のアパートで宅飲みするか」


「うん♡ エヘヘ♡ 翔真のアパートで宅飲みだぁ♡ 居酒屋より100万倍良いよ♡ ねぇ何時からにする?今から行こうか?」


​「か、買い出ししてからだから、そうだな……午後7時頃なんてどうだ?」


​「了解♡」


​「じゃあ俺は買い出ししてからアパートに帰るから、藍音は時間に間に合う位にアパートへ来てくれ」


「買い出し行くなら私も一緒に行くよ。翔真今何処に居るの?」


​「まだ大学の中に居るよ。今講義終わったばかりだからな」


​「そっか。私が今居る場所から大学まで役5分位だから……。翔真、そこで少し待っててくれる?直ぐに行くから」


​「了解だ。今俺が居る場所は大学の〇〇教室だ。分かるか?」


​「大丈夫!その場所は知ってるから!じゃあまた後でね」


​藍音との通話が終わった後、本当に5分後に藍音は俺の元にやってきた。


​「お待たせ翔真♪じゃあ買い出し行こっか♪」


​「おう。それじゃ行くか」


​『お二人共に楽しそうで何よりです。スノーも嬉しいです♪』


​そして俺達2人と1匹は、最寄りのスーパーで酒とおつまみを大量に買い込んでアパートへ帰った。


​アパートに着いてから俺が宅飲みの準備をしていると、藍音が「飲む前に先ずは夕御飯食べなくちゃ」と言い出した。それはもっともだ。


​俺はスマホを取り出して出前を頼もうとする……が、藍音にストップを掛けられる。


​「私が作るよ、翔真!翔真に私の料理を食べてもらいたいから!」


どうやら藍音が夕飯を作ってくれるらしい。IQ200の超天才が作る料理。俺は藍音の提案に有り難く乗っかった。


​キッチンに立った藍音は、ラボにいる時と同じく驚異的な集中力を発揮し、手際よく料理を進めていく。


やがて出てきたのは、ふっくらと美しい黄金色のオムライスだった。


​藍音が作ってくれたオムライスは、信じられないほど美味しかった。


だが、俺がオムライスを食べている間、藍音にじっと、真剣な眼差しで見つめられていたのは何故だろう?まるで、料理の味ではなく、俺のリアクションの一つ一つをデータ分析しているような、あるいは愛する人の食事姿を見逃したくないような、そんな熱い視線だった。


スノーも美味しそうに藍音が作ったオムライスを、慣れた手つきで上手にスプーンを使って食べていた。


……コボルトってオムライス食べれたんだ。しかもスプーンまで使えるとは。知らなかった。


そして、いよいよ宅飲みが始まった。まずはやっぱりビールからだろう!


​2人と1匹は缶ビールのプルタブを開けて


​「「『乾~杯」」ですぅ』

​と缶を合わせた。……って、ちょっと待て待て。スノーは酒が飲めるのか!?


​スノーに聞くと、『人間の飲み物は飲んだ事はありませんが、多分大丈夫だと思います』とのことだった。駄目そうだったら直ぐに止めよう。うん。


​俺はビールを喉に流し込む。


っ!かぁーっ!この苦味とのど越し、最高だね!二十歳になって初めてビールを飲んで以来、滅茶苦茶旨いと思っている。


皆ビールは苦いから苦手と言うけれど、俺にはその感覚が分からない。こんなに旨いのになぁ。


藍音も二十歳になっているから酒は飲める。そして、初めてお酒を口にした彼女の感想は――。


​「う~ん。初めてお酒飲んだけど、結構美味しいね♪私このビールの苦味とのど越し好きだな♪これなら幾らでも飲めちゃいそう」


​と、酒豪の片鱗を見せつけるようなことを言っている。


​一方、スノーはと言うと。


​『……苦いです。美味しくありません。私はやっぱりお昼に戴いたオレンジジュース?の方が良いです。御主人様、オレンジジュース?は有りますか?』


スノーには酒は合わなかったみたいだ。すぐにオレンジジュースを出してやった。


​宅飲みを始めてから約2時間後。ほろ酔いの俺と、酔った形跡の無い藍音と、オレンジジュースをがぶ飲みしているスノーでちょっとした雑談を始めた。


​「お前本当に酒強いな?水みたいに飲んでるけど」


​「そう?少しふわふわしてるけど、まだまだ飲めるよ?」


​『お二人共凄いです。あんな苦い飲み物がそんなに飲めるなんて。尊敬します』


​藍音は顔色一つ変えずにグイグイ飲み続ける。


​「しかし……スノーちゃんは本当に可愛いねぇ♡ ぬいぐるみみたいだよぅ♡」


「確かに可愛いな。とてもコボルトには見えないぜ」


​『あ、ありがとうございます//////何だか誉められるとくすぐったいですね//////』


​酔ってテンションが上がってきた藍音が、スノーの白い毛をわしわしと撫で回す。


​「あ~っ!皆にスノーちゃんの超絶可愛い姿をみて貰いたいなぁ!」


​「確かに確かに!スノーの超絶可愛い姿を皆に見せびらかしたい!」


​その時の俺は、アルコールの力で完全に気分が良くなっており、普通ではなかったと思う。


​すると、俺の酔った言葉を聞いた藍音が、何かを閃いたように瞳を輝かせた。


「……そうだ!ねぇ翔真、配信者にならない?」


……は?



ここまで読んでいただきありがとうございます。


もし宜しければ コメント レビュー ♡ ☆評価を宜しくお願い致します。


今後とも拙作を宜しくお願い致します。




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