第3話 白いコボルトに名前を付ける

​リビングに移動した俺と白いコボルト。


​俺はテーブルの上に一枚の紙を広げた。なぜ紙を広げたのか?それは、この純白のコボルトに相応しい名前を、候補から厳選するためだ。


​こんなに特異で美しいコボルトに、安易な名前を付けて後で後悔したくなかった。だが、その白い毛並みを見ているうちに、頭の中に名前の候補が泉のように浮かんできた。


​俺は頭の中に浮かんだ複数の名前を、丁寧に紙に書き記していく。


​シロ、ハク、スノー、ホワイト、ユキ……。


​(……う~ん。どれも捨てがたいな。どの名前も「白」を意味しているが、響きや印象が違う。だが、しっかりとこの一匹だけに向けた名前を付けてやらなければ、後で後悔するだろう)


​「安直な名前ばっかりじゃないか」と思われるかもしれないが、俺ごときが必死で考える名前なんて所詮こんなものだ。これが、初めての相棒へ俺が捧げる、精一杯の「親心」だった。


​テーブルの上の紙を熱心に眺めながら唸っている俺を、スノーは心配そうな表情で見つめてくる。


「キュ~ン?」(大丈夫ですか?)


​そんなコボルトに気付いた俺は、コボルトの頭を撫でながら


​「ん?どうした?もしかして俺のことが心配なのか?」


​「キャン」(はい)


​「ははっ。大丈夫だ。ちょっとお前の名前について考えていただけだから。お前も、いつまでも『コボルト』って言われるのは嫌だろ?」


​「キャン。……キャン……。キャウンキャウン!!」(そうですね。……名前ですか……。素敵な名前が欲しいです!!)


心配そうな表情から一転、パッと顔を輝かせ、期待に満ちた表情に変化したコボルト。その仕草が物凄く可愛い。もしこのコボルトが人間の女の子だったら、さぞ感情豊かな美人さんなんだろう。


​……ん?待てよ?


​このコボルト、俺の言っている言葉が完璧に理解できているみたいだ。なら、もしかすると……。


​俺は試しにコボルトに向かって、テーブルの上の紙を指差し、聞いてみた。


​「もしかしてお前……文字読める?」


​するとコボルトは大きく頷き


「キャン!キャウン!」(はい!少しなら!)


​と、胸を張るように自信ありげな鳴き声を上げた。


​(マジか。やっぱり文字まで読めるのか!)


​理屈はさっぱり分からないが、これは利用する手はない。


​俺はコボルトをそっと持ち上げて膝の上に乗せ、再びテーブルの紙を広げた。


​「今、お前の名前の候補をこの紙に書いているんだが、お前自身で気に入った名前あるか?」


​コボルトは紙をじっと見つめ、小さく頭を傾け、思案するような態度を取った。それから数秒後、小さな前足の指(?)で書いてある名前の一つをトントンと叩いて指差した。


​……『スノー』。


​コボルトが気に入った名前は、これだった。


​確かに、真っ白い毛並みのこいつには、これ以上ないくらいピッタリの名前だ。よし、この名前に決めよう。と、その前に。


​(ここは、テイマーの特権として遊ばせてもらおう)


​俺は悪戯っぽくニヤニヤしながら、コボルトに向かって告げた。


​「よし分かった。お前が選んだ名前も悪くないが、俺が決めた。今日からお前の名前はポチな」


​俺の言葉を聞いた瞬間、スノーは物凄く嫌そうな顔をして、瞳に再び涙を浮かべながら、首を横に何度も振り始めた。


​「キャンキャンキャン!!」(絶っ対に嫌です!!)


​その抗議の激しさといったらなかった。


​「冗談だよ、冗談!ははっ、面白いな、お前!」


​大笑いしながら、俺はスノーの頭を撫でてやる。


​「今日からお前の名前はスノーだ。白い毛に、雪の結晶のように綺麗な瞳。お前にぴったりの名前だ」


​そう改めて告げると、スノーは喜びで全身を震わせ、嬉しそうな顔をして


​「キャン!」(はい!)


と元気よく鳴き声を上げた。


​「スノー、明日、探索者ギルドにお前の登録をしに行くぞ」


​初めての相棒『スノー』を抱きしめながら、俺のテイマーとしての、そして探索者としての第一歩が、ようやく始まったのだ。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


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これからも拙作を宜しくお願い致します。


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