最強の魔法使いは無属性しか扱えない(旧名:心を求める魔法使い)
南賀 赤井
第1部:優劣と構造の破壊
プロローグ:第六の「魔帝」
世界は五柱の魔帝によって統べられていた。
火、水、風、土、雷。それぞれが一つの属性の魔法を極限まで研ぎ澄まし、大陸全土にその恐るべき力を知らしめる存在。彼らの前に、敵はいない。そう、誰もが信じていた。
しかし、その絶対的な序列に、突如として異質な存在が割り込んだ。第六の魔帝、アステル・ゼフィール。
彼の極めた魔法は、五大属性のいずれにも属さない、無属性魔法。
「攻撃も、防御も、回復すらも中途半端な魔法。あれを極めて、一体何になる?」
「彼は歴代の魔帝の中で、確実に最弱だ。ただの称号飾りだ」
巷では、アステルへの嘲笑と侮蔑が渦巻いていた。彼の無属性魔法は、確かに直接的な破壊力に欠け、地味だった。だが、アステル自身は、それらの陰口を全く気にする様子がない。ただ自らの魔法が極まったこと、その過程にのみ満足していた。
そんな兄を、誰よりも近くで見つめ、そして誰よりもその言葉に心を痛めている者がいた。アステルの弟、ライル・ゼフィールだ。
ライルは、魔法が存在しない世界から記憶を持って転生した異世界の人間。そしてこの世界で、魔法の適性が完全にゼロという、絶望的な事実を背負っていた。
「アステルの弟は魔法も使えない落ちこぼれだ」
「最弱の魔帝の弟、つまり最弱以下の無能。兄弟揃ってこの国の恥だ」
人々は、アステルに直接手を出せない鬱憤を、魔法が使えないライルに向ける。兄は笑って受け流すが、ライルにとって、自分が原因で兄が馬鹿にされることが、何よりも耐え難い屈辱だった。
「俺さえいなければ、兄さんは…」
だが、アステルは弟のそんな苦悩を知ってか知らずか、ただ静かに微笑むだけだった。
「ライル。無属性魔法はね、私にとっては最高の魔法だよ。特に……君を守るためにはね」
その言葉の真意を、ライルはその時は理解できなかった。地味で、攻撃力のない無属性魔法が、どうやって彼を守れるというのか?
そして、ついにその日は訪れる。アステルが公務で王都を離れた隙を狙い、彼を疎ましく思う権力者の一派が、手駒の刺客を放った。狙いは、「最弱の魔帝の、最弱の弟」の抹殺。
路地裏に追い詰められ、刺客たちが魔力を込めた剣を振り上げる。ライルは魔法抵抗力ゼロの身体に走る衝撃を覚悟し、目を閉じた。
(やはり、無力だ……!)
その瞬間、遠くから一つの声が、静かに、しかし世界を揺るがすほどの重みを持って響き渡った。
「――私の、唯一の、守るべきものに触れるな」
そして、ライルの身体に、これまでに見たこともないほど澄み切った、無色の魔力の光が奔流となって流れ込んだ。それは、単なる防御魔法ではない。それは、誰も知らない第六の魔帝の「本質」。
その一瞬後、魔法を扱えないはずのライルは、魔帝を嘲笑した者たちが一生後悔するであろう、絶対的な力をその身に宿すことになる。
「馬鹿にした魔帝本人よりも、その弟に潰されるとは……」
刺客たちの恐怖の物語が、今、始まる。
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