異世界でスキルが居合斬りしか扱えないのでゴリ押しします
南賀 赤井
プロローグ:光の招喚と、剣士の誓い
黄金の喧騒と古びた神話
ゴールドタウン。
世界中の冒険者、商人、そして夢追い人が集うこの街の空気は、金と汗、そして鋼の熱気に満ちていた。街の中心に鎮座するのは、この世界で最も攻略が困難とされる大迷宮――『無限の宝物庫』。その財宝に挑む者たちを相手に、鍛冶ギルドの槌音が響き特訓ギルドの怒号が飛び交う。この街の活気の全てはダンジョンから流れ出る熱量で駆動していた。
そんな喧騒から離れた一角に、古びた大聖堂があった。その地下深くには、もはや誰も信じなくなった古い伝承が眠っている。
「神に選ばれし者が、異世界より訪れる」
大聖堂の地下に描かれた巨大な魔法陣は、数百年の間、ただの模様として埃を被っていた。教会の記録によれば、一度も機能したことはない。聖職者たちは、これは古代の失われた神話であり、もはや希望の対象ではないと諦めていた。
しかし、その日、魔法陣の刻まれた石畳が、突如として激しい光を放った。それは、昼間の太陽をも凌駕するほどの、純粋なエネルギーの奔流。
魔法陣の周囲に溜まっていた埃は一瞬で蒸発し、神官たちの驚愕の叫びが、静寂な地下室に木霊した。
異世界の剣士
光が収まった後、魔法陣の中心に立っていたのは、見慣れない布地の学生服を纏った少年だった。
「……ここ、どこだ?」
朝倉ヒカリは、一瞬前まで、裏庭で祖父から受け継いだ木刀を振っていたはずだ。古流居合の型をひたすら反復する、それが彼の日常の全てだった。
戸惑うヒカリを前に、最高位の聖女が震える声で告げた。
「ああ、神よ……伝説は、真実だったのですか。ようこそ、勇者様」
ヒカリの身体の前に、半透明のボードが浮かび上がる。この世界の者だけが見える、己の能力を示す
『スキルボード』
聖女がその内容を読み上げるや否や、聖堂の地下室は再び、静寂に包まれた。だが、今度は驚きではなく、困惑と戦慄によるものだった。
名前: アサクラ・ヒカリ
ジョブ: 居合の剣士
レベル: 1
スキルツリー:
【居合斬り(Sランク)】
(※このスキルツリーには、これ以上の分岐・進化はありません)
「居合斬り、一つだけ……?Sランクとはいえ、これでは……」
誰もが顔を見合わせる中、ヒカリは静かに自分のスキルボードを凝視した。
『居合斬り(Sランク): 刀を鞘に納めた状態から一瞬で抜き放ち、対象を両断する。チャージタイム(3秒〜5分)に応じて、威力と瞬動距離が変化する。』
彼の世界は、居合斬りしかなかった。それ以外の武器、魔法、技術は与えられなかった。彼がこの世界で頼れるのは、この一撃必殺の力だけ。
聖女が意を決して尋ねた。
「アサクラ様。貴方様は、この力で、世界の危機に……立ち向かえますか?」
ヒカリは腰に帯びた初期装備の刀の柄に、そっと指をかけた。
「立ち向かう、ですか。俺には居合斬りしかありません」
ヒカリは、困惑する聖女や神官たちを見据え、言い放った。
「居合斬り一本で、この世界の全てをゴリ押します」
異世界の常識も、多様なスキルの必要性も、全てを否定する宣言。
最強の一撃と、最弱の防御。その矛盾を抱えた少年は、未踏破のダンジョン『無限の宝物庫』が待ち受ける黄金の街へ、静かに足を踏み入れた。
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