第2話 この姿は‼︎まるで、アレ。

ディセルネを包んだあの眩い光が、細かい粒子となって空に昇る。


少しだけ冷んやりとした空気に、肌を撫でる暖かな日差し。


ディセルネは自身の手や足を触り、掌を太陽にかざすと、ホッと息を吐いた。


「よかった……、妾の手も足も消えていない。


っん⁉︎

ちと、ずんぐりしておらぬか?

いや、モチモチしてるからいいのか……」


ディセルネは右の腕や膝小僧を眺めて、ぽつりと呟く。


「まぁ、良い良い。

さて、これからどうするかのぅ……」


そう言って、隣の大木に寄りかかったディセルネ。

肩の力を抜いて、その身の重さを幹に預けた。


目の前には、太陽の光を反射してキラキラ光る湖。

先には、青々と茂った森。

遠くで鳴く、鳶。

その景色をぼーっと眺めていたら、いつしか瞼が落ちていた。


「おや、まぁ、お嬢ちゃん。

こんなところでお昼寝かい? 風邪ひくよ」


そう言って、ディセルネの肩を軽く揺らす手。


ゆっくりと瞼を持ち上げると、白髪混じりのふくよかな女性が視界に映り込んだ。


ディセルネを心配そうに覗き込んで、女性はさらに続けた。


「いい天気だけど、もうじき雨が降るから、お家へお帰り」


彼女の指の先には、鉛色の分厚い雲。


それから何か思い出したように、持っていた籠の中を漁り出した。

目的のものが見つかったのか、眉を上げてディセルネに笑いかける。


「ほら、お嬢ちゃん、いいものあげるよ」


ディセルネの手をそっと掬うと、掌に包み紙を乗せた。


「おばちゃん特製のクッキーだよ。

そろそろ小腹の空く時間だからね。食べながら、お帰り」


軽くディセルネの頭を撫でると、女性はスタスタと歩き出した。


「はて?

妾に、『お嬢ちゃん』とな……。

まぁ妾は美しいが……、

『お嬢ちゃん』って言われるような外見だったかの?」


腕を組み、首を傾げる彼女に、後ろから声が投げかけられた。


「いや、誰がどう見たって『お嬢ちゃん』だろ」


振り返った先には、声の主は見当たらない。


「っん? 空耳かのぅ」


「おい、下を見ろ! ちゃんと居るぞ!」


少しだけ視線を下げたディセルネの前には、白くモコモコした毛の塊。


「おや、この世界は毛玉がしゃべるのだな」


感心した様子で頷く彼女に、毛玉が突進してきた。


「わざとなのか? わかっていて、わざと知らないふりをするのか?

おい、ディセルネ! 俺は心配して着いてきてやったんだぞ!」


かがみ込んだ彼女は、指で毛玉を突き始めた。


「妾の知り合いに、こんな丸々した毛玉はおらん」


毛玉は小さな口を開けて、ディセルネの手首をパクッと咥える。

決して歯は立てず、真似だけ。


「おぉ、ヤーナか。

相変わらず、変わったコミュニケーションだのぅ。

いつもは妾の頭を咥えておったが……、今日は腕なのかい?

おや、なぜ其方はそんな小さな毛玉サイズになっておるのじゃ?」


「アホか! 俺がいつもの大きさで現れてみろ、魔獣が出たって大騒ぎになる。

人間から見たら、2メートル超えの狼なんて恐怖の対象だからな」


ちょこんとお座りした白い仔犬が、尊大な口調で話す。


「そんなものなのかい?

あれはあれで、モフモフして可愛い存在だと思うのだか」


ディセルネはヤーナの頭を撫でながら、ご機嫌に話を始めたが、

ふと先程の女性とのやり取りが気になって話を戻した。


「ところでヤーナ、ここの人間は美人に向かって『お嬢ちゃん』と呼ぶのが一般的なのかい?」


「あぁ、それね。

ディセルネ、ちょっとあそこの湖を覗き込んできたら?」


鼻先で少し先にある湖を示すと、ディセルネの脚を頭で押しやった。


しぶしぶ向かった湖のほとり。

そっと中を覗き込むディセルネの目に映ったのは、


絶世の美人―――

ではなくて、

3歳くらいの幼児だった。


「なんじゃ、こりゃぁ‼︎」


両手で頬を挟んだディセルネは、空に向かって叫んだ。


*****


場所は変わって、ここは天界。

下界を映す水鏡を覗き込んでいた、創造神デウスの大きなため息が、あたりに響きわたった。


「はぁ、やはり……」


デウスのただならぬ雰囲気に、思わず声をかけたのはアース。


「デウス様、何事ですか?

下界で問題でも?」


彼を見やったデウスは、手招きして水鏡を指した。

「アースもセレナもここへ。

そしてこの水鏡を見てみなさい」


互いに視線を合わせて、首を傾げるアースとセレナ。

呼ばれた意味はわからないものの、急いで水鏡を覗き込んだ。


その瞬間、

二人の視界に飛び込んできたのは―――


「あぁ……ディ、ディセルネが子どもに」


戸惑いの滲むアースの言葉に、デウスが返した。


「神が人間界へ降りる時、その姿は『その者の心の姿』。

つまりは、精神年齢じゃな……。

ディセルネの心は幼児そのもの。

それが証明されたのだよ」


水鏡に映るディセルネに触れるかのように、手を伸ばした創造神デウス。

そして真っ直ぐにアースとセレナを見た。


「二人とも、今回のことは大目に見てはくれぬか……。

まさか、ここまで幼いとは……。


下界で過ごす日々が、ディセルネの成長に繋がればよいのだが」


やや覇気のない声量で語った創造神に、アースが返した。


「幼な子のした事……、そう思えば腹も立ちません。

なぁ? セレナ?」


「はい、私たちの誰もが本当のディセルネを見ずに過ごしていたのですね。

これは、彼女ばかりが責められる事ではありません」


セレナもディセルネの心の成長具合に、動揺が隠せずにいた。


****


天界の重苦しい雰囲気を知る由もない、下界の女神ディセルネ。

見事にぷっくらしたお腹を触りながら、ヤーナに問う。


「なぁ、ヤーナ。

この姿、アレに似てるのではないか?

ほら、アースの守護する世界『地球』とやらのマスコット。

こんなポーズの……」


ディセルネは真っ直ぐに立ち腕を脇にピタっと付けて、手首だけ外に返した。

小首を傾げて、ヤーナに見せつける。


そう、それは某食品メーカーのマスコット。

――― ○○○ちゃん!


ディセルネの体型はまるで、それとそっくりだった。

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