【完結済み】黄昏のレクイエム──狩人(ハンター)長の過去

Ciel

第1話 決断


「今日で一体何日目だっけ…」


ラザール・クレスニクは、ため息を漏らしながらつぶやいた。


まだ、しとしとと降り続く雨の中、彼が立ったまま呟いた言葉には、ただ虚しさがこもっていた。彼の周囲には、散らばる破片の残骸と、舞い上がった埃の山があった。そして、床に深く刻まれた跡が、かつての戦闘激しさを余すところなく伝えていた。


足元に広がる、敵のものか、味方のものか分からない血痕と、鼻先をかすめる血の匂いに、ラザールは思わず顔をしかめた。


ゆっくりと息を吐きながら背中を伸ばすと、固まっていた体が少し柔らかくなったように感じた。


「ラザール」


いつの間に近づいてきた仲間の呼び声に顔を向けると、短い金髪の女性がそこに立っていた。手に握るスラッグハンマーには乾いた血の跡がくっきりと残り、服もあちこち裂けてぼろぼろになっていた。


「残った個体は?」

「私のいた場所は、もうない。」


彼女の言葉にうなづいたラザールは、ひとつ確認するかのように問いかけた。


「他の者たちは?」

「今は連絡が取れない。でも…大丈夫、たぶん。」


そう言いながらもスラッグハンマーを握る手に力がこもっているのを見れば、彼女もまた確信を持っていないのは明らかだった。


「そうだな。」


彼女の言葉に同意はしたものの、ラザールもまた確信は持てなかった。誰もこの戦いがこれほどまでに長引くとは思っておらず、今こうして受けた被害は決して気持ちの良いものではなかった。


「ああ、みんなここにいたのか。」


長いコートの裾をはためかせながら近づいた男は、連絡が途絶えていた仲間の一人だった。


疲れ切った目をしていても、ラザールとテットを見て、表情が少し柔らいだ。


「もう一人戻ったな。」

「他の者たちは?」

「いや、僕もテットも知らない。」

「連絡がついた者の中には、すでに撤退している者もいる。ハンターとしてのプライドもない連中だ。」

「撤退だと?」

「それが本当か?ヘルマン。」

「ああ。俺が直接見た。」


ヘルマンの言葉に、空気が重く沈んだ。


元々戦力が足りなかった。


どれだけ強いハンターでも、能力と体力、精神力においては、吸血鬼(ヴァンパイア)に比べば限界があるのは仕方なかった。だから、一人減るだけでも打撃大きかったのに、ヘルマンの言葉からすると、少なくとも二人以上の戦力が失われたことになる。


疲れ切った心は理解できたが、やはり苦い気持ちがこみ上げてくるのは仕方なかった。


「今、あいつら(ヴァンパイア)の気配は残っているのか?」

「いや、少なくとも、俺が通った道にはなかった。」


ヘルマンの言葉にうなづいたラザールは、巨大な鎌を再びしっかりと握り直した。


テットの言葉に一瞬考え込んだラザールとヘルマンは、すぐにそれがいいだろうと頷いた。


本部へ戻る間、三人はそれぞれの武器を手にしっかりと握り、緊張を緩めることはなかった。


警戒を緩めずに本部へ戻ると、そこは静寂に包まれていた。同時に、奇妙な緊張感が漂い、不思議な感覚さえ覚えた。


すでに撤退したと言うヘルマンの言葉を裏付けるかのように、トゥイードル家の双子やその他数名のハンターたちが、すでに本部に戻っていた。


ハンプティ家とダンプティ家のハンターたちは、腕すらろくに上げられないほど重傷を負っていた。包帯は巻かれていたものの、それが果たして意味をなすのかと思うほど血がにじんでいた。その他にも、差し迫った応急処置のために傷を縫う者たちがおり、彼らより状態がましな者でさえも疲労の色が濃く見えた。


このままではだめだ。


本部をじっくりと見渡したラザールは、手をぎゅっと握りしめた。


もう決断を下す時だった。


だらだらと引きずってきたこの状況に終止符を打つには、確実な一撃が必要だった。


「上層部は?」


ハンプティ家とダンプティ家のハンターたちは、首を横に振った。


他のハンターたちからも連絡があったという話がないところを見ると、そちらもまともに指示を出せる状況ではないようだった。


「これから、どうすればいいでしょうか?」


アリエル・ハンプティの問いは、形こそ問いだったが、実際にはそうではなかた。


いつもきちんとまとめていた赤い髪は乱れにみだれ、淡い茶色の瞳には不安の色が浮かんでいた。


「奴ら、あちこちから現れるから手の打ちようがない。」


アラン・ダンプティの言葉に、ひとつの考えがラザールの脳裏をよぎった。


「なら、奴らの中枢に入り込んで、一気に叩く。」

「何それ?頭おかしいんじゃないの!」

「これが一番確実た。」

「頭おかしいんじゃないか?失敗したら確実に死ぬぞ。」

「だから、ベテランだけ連れて行く。自信のない者は抜けろ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る