それぞれの放課後

「はい。ちょっと早いけど帰りのホームルーム終わり」


全くやる気が感じられない担任の加賀見が、明日の連絡だけ手短に伝えてホームルームを終わらせた。

相変わらず手にはコーヒーを持っていて、一体1日に何杯飲んでいるのかイマイチ謎な先生だ。

葵は思う。

(この人はなんでこんなにやる気なさそうなんだろう……)

1人首を傾げていた所に、スマホにチャットアプリ『LIME』の通知が入った。

「ん?」

スマホを見ると、メッセージを送ってきたのはタカヤだった。


『このあと時間をくれないか?』


直接言わずにチャットアプリを介して聞いてきた所に疑問を感じた葵は、怪訝な顔で窓際の席に座るタカヤを見た。

タカヤは視線に気付いて一瞬だけ葵の方を見ると、再びスマホに何か文字を打ち込んでいる。

すると、再び通知音が鳴った。


ピコン!

『蘭子に聞かれたくないからこっちで連絡した』


ピコン!

『都合悪かったか?』


葵のスマホには続け様にタカヤからメッセージが届いた。

珍しいタカヤの行動を不思議に思いながら葵は返信する。


『そういうことか』

『別に予定はない。付き合うぞ?』


タカヤからはすぐに返信が来た。


ピコン!

『それじゃ、この前のファミレスで落ち合おう』


葵がこの返信を読んでいると、タカヤは1人素早く教室から出て行ってしまった。

(なんだあいつ……?随分とよそよそしいな……)

気になった葵は、振り返って後ろに座る蘭子を見た。

蘭子は鞄にノートとお菓子を詰めて帰り支度をしている所だ。

そして、葵の視線に気がついた蘭子はきょとんとしている。

「ん?どうしたあおい?」

鞄のファスナーを閉めながら問いかける。

「いや……、お前。タカヤとケンカでもしたか?」

葵はなんとなく思ったことを聞いてみた。

「してないぞ?何でだ?」

しかし、蘭子は不思議そうな顔で聞き返してくるのだった。

そして、蘭子は教室を見渡すと、タカヤが既に居なくなっていることに気がつく。

「あいつ……、まーた先に帰ったのか?……どうせまた、ジムにでも寄ってるんだろ」

入学した頃、いつも帰りはタカヤと一緒だった。

だから、『ケンカをしたから一緒に帰らない』と思われているのかもしれない。

でも、それは葵の誤解だ。

タカヤは最近、ジムに夢中なだけなのだ。

蘭子は葵を安心させようと、これはいつも通りであることをアピールして席を立った。

「なるほどな……」

(ケンカじゃないとすると……何だ?)

蘭子につられて席を立った葵はボソッと呟き、疑問だけが深まっていった。

「ふっ!何もないから心配するな。それに、今日はこの後しずかと約束があるんだ」

葵が納得いかないような表情をしているように見えた蘭子は、余計な心配をさせないように小さく笑って答えた。

どちらにしろ、今日は一緒に帰れないのだ。

「じゃあね!あおい!」

「葵、また明日」

そして、静香と一緒に手を振りながら教室を出ていくのだった。


ポツンと残された葵も、タカヤとの待ち合わせ場所に向かおうと教室を出ようとする。

すると、やたら慌てて教室に戻ってきたヒロシとバッタリ会った。

「おまっ……何だその格好?」

葵はヒロシのトンチキな格好を見て思わずつっこんでしまった。

彼は、上半身がサッカーのユニフォーム、下半身は野球のユニフォームを着ていた。

「今日はキックベースでもやるのか?」

どっちの部活に行くのかわからない格好をしているヒロシに聞く。

「あははは!それ面白い!今日は両方参加するんだ!じゃあな葵!」

そして、ヒロシは自分の鞄からタオルを取り出すと、急いで教室から出ていってしまった。


「なんか、今日はみんな忙しそうだな……」

葵はつまらなそうに独り言を呟くと、教室を出てファミレスへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る