気になる蘭子は止まらない
きら
異世界からの留学生
やべー奴との出会い、その名は蘭子
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『笑顔って、どこから生まれるのだろう。
風のように、突然ふわりと訪れるものだろうか。
あなたの世界には、どんな笑顔が咲いていますか?
わたしは知りたい。
あなたの笑顔も、世界の笑顔も、どんな風に生まれてくるのかなって』
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春が来た。
今年は入学シーズンに合わせて桜が満開となり、爽やかな春風に吹かれて桜の花びらがヒラヒラと舞っている。
新しい制服で歩く新しい通学路は、一歩ずつワクワクと不安が交互にやってくる。
そんな複雑な気持ちで桜を眺めながら、三崎葵はポツリと呟いた。
「高校生……か。」
少し寝癖のついたボサっとした髪、眠たげな目。
制服はネクタイが緩んでおり、入学初日からやや着崩している。
彼はやる気がないわけではない。
これがいつもの彼なのだ。
高校生になった以外に何か変わったわけではないが、新しい生活というのは心理的に非日常感を感じずにはいられない。
「まぁ…慣れればきっと、今までと変わらない平凡な日常なんだろうな」
非日常のように感じる日々から平凡な日常に戻る為、まずは高校生活に慣れる事を目標に今日から頑張っていこうと決意したのだった。
その時。
「おはよー!葵!」
いつの間にか左背後に忍び寄って来た幼馴染の風間ヒロシに、バァン!と背中を思いっきり叩かれた。
思わずよろけてしまい、右背後から追い越そうと歩いてきた、同じく幼馴染の三原静香とぶつかりそうになる。
「っぶねーな!人が決意を新たにしてる時に何すんだよ!」
叩いた勢いのまま左から追い越して行くヒロシは、眩しすぎてウザいぐらいの金髪と笑顔で振り返って葵に返す。
「なーんか難しい顔してんじゃん。緊張してんの?ほら!静香ちゃんが一緒だから元気出せって!」
静香はそんな2人を眺めながら通り過ぎようとしたが、静香ちゃん呼ばわりされたことに少しムッとして立ち止まった。
「その呼び方やめてくれない?葵もほら!ボサっとしてないで行くよ」
冷たい視線をヒロシに向け、葵には姉のように声をかける。
高校生になっても幼馴染の2人はいつも通りだった。
お陰様でさっき感じていた不安が少し和らいだ葵は、春風に押されるように2人の少し後ろを歩き始める。
学校に到着すると、案内を見て自分の教室に向かった。
予定ではホームルーム後に入学式といった流れらしい。
静香は校門前で塾の友達とどこかへ行ってしまったので、ヒロシと並んで廊下を歩いている。
「クラス発表見た?葵と同じクラスだったぜ!」
「ああ、今年もよろしくな。とりあえずクラス内でぼっちは回避できそうでよかったよ」
ヒロシとは小学生の頃からずっと同じクラスだった。
そして、高校生でも同じクラスになれるとは思っていなかった葵は、友達を作ることが苦手なこともあり、結構嬉しかった。
クラス名簿には三原静香の名前も見つけ、とりあえず高校生活最初のイベントは無難に過ごせそうだとホッとする。
「俺、席は前の方だったよ。これ、リア充街道まっしぐらじゃね?」
すると、緊張した表情が和らいだ葵に向かって、ヒロシが意味のわからない会話で盛り上げようとする。
「何で前の方の席だとリア充になれるんだよ。相変わらずメチャクチャだなお前の理論は」
葵がいつものようにツッコミを入れながら歩いていると、それは背後から突然やってきた。
風を切る音と共に、誰かが走ってくる音が聞こえる。
\ダダダダダダダッ!!!/
「……ん?」
気になった葵は体ごと振り返る。
そして次の瞬間、視界が金髪で埋まった。
\ドゴォォォォン!!!/
凄まじい謎の風と衝撃を受け、葵は平仮名の「つ」の字のような体勢で吹き飛んだ。
飛距離、およそ5メートル。
「ヤバイ……、星が……星が見える……」
突然吹き飛ばされてピヨりかけている葵は廊下で倒れている。
そして、その上には彼を吹き飛ばした犯人、小柄な金髪ウェーブの女の子が座っていた。
「おわっ!? だいじょうぶ!? ごめんね!? 走るの楽しすぎてつい全力疾走しちゃった!」
状況を理解した彼女はそう言いながら立ち上がると、手で髪型を整えて再び走り去ってしまった。
「……ヤバイやつだ……」
吹き飛ばされた衝撃で体が動かず、一時的に語彙力も衰えてしまった葵は素直な感想を呟く。
その時、大爆笑しながら体を起こそうとしてくれているヒロシ(後で殴ってやる)の他に、もう一人の見知らぬ男子生徒が助けてくれた。
「……大丈夫か?すまない。とんだ無礼を」
濃紺の短髪で藍色の瞳。目つきは鋭く、制服をビシッと着こなす真面目そうな男だ。
だが、なぜか彼は先ほどの女子生徒の代わりに謝罪をした。
「……いや、何で君が謝るの?っていうかあの子の身内?」
生まれたての子鹿のようにプルプルした足で立ち上がりながら問いかける葵。
その真面目そうな男は答える。
「……そのような者だ」
そう無愛想に言うと、彼は彼女の後を追いかけて行ってしまった。
「ヤバイやつだ……。あの二人には関わらない方がいいかもしれない……」
制服の埃を手で叩きながら、吹き飛ばされた時に手放してしまった鞄を拾って教室に向かった。
高校生活最初のイベントは無難に過ごせると思ってたのに、まさか女の子に吹き飛ばされるイベントが最初だなんて……やっぱり高校生活が不安になってきた。
―――1年C組
ここが今日から葵たちの教室だ。
ヒロシと一緒に教室に入ると、黒板に貼られた座席表で自分の席をもう一度確認して席へ向かった。
この学校では、席が出席番号順ではなくランダムで決められる変わった風習がある。
30人クラスなので、教壇側から見ると横に6列、縦に5列の配置になっている。
そして、教室の後ろ側は少しスペースが空いていた。
葵の席は廊下側から3列目で、後ろからは2番目の席だ。
ヒロシは1つ窓側の隣列で、その先頭、教壇前の席へ向かった。
その列の一番後ろには静香が座っていて、葵の席からは左斜め後ろの位置になる。
まだクラスメイトは全員揃っておらず、教室を見渡すとちらほらと空席が目立っていた。
すると、自分の机に荷物を置いたヒロシがこっちにやってきた。
「お前、入学早々に事故ってて草」
思い出し笑いを我慢しているようだが、表情は少しニヤけている。
「笑い事じゃねえ!怪我が無いのが不思議なくらいだ」
葵は全然心配してくれない幼馴染に、少しは心配しろアピールをしておく。
すると、ヒロシが何かに気がついたように、葵の後ろを見ながらニヤリと笑って言う。
「お前も俺と同じでリア充街道まっしぐらかもな」
ヒロシの視線に合わせて振り返りながら、「お前と一緒にするな」と言いかけた瞬間、後ろの席に座った女の子と目が合って思わずギョッとしてしまう。
「あっ、やっぱりさっきの人だ!同じクラスだったんだね!わたし蘭子! よろしくね!」
さっき葵を吹き飛ばした女の子がそこに居た。
マジか……。
関わらないようにしようと思ってたのに……。
「俺の高校生活、終わったかもしれん……」
しかし、項垂れる葵を無視するように、ヒロシは持ち前の明るさ全開で蘭子に挨拶をしている。
「蘭子ちゃんって言うんだ!俺、風間ヒロシ!よろしくね!」
しかし、蘭子の反応は薄く、「あ、うん、よろしく!」と、適当に返事を返すだけだ。
「えっと、さっきはごめんねっ!えーっと……きみの名は……?」
そして葵に向かって話しかけてきた。
初対面の人と話すのは苦手だが、仕方なく応じる。
「あー、俺は葵、三崎葵。とりあえず怪我が無かったから許すけど、あれは危なすぎる。廊下は走るな。小学校で教わっただろ?」
吹き飛ばされた仕返しではないが、少し皮肉を込めた挨拶だ。
「えっ!廊下って走っちゃいけないの!?だめなの!?」
しかし、返ってきたのは常識を疑うような返事だった。大丈夫かこの娘?
「走るならグラウンドだ。とにかく廊下で全力疾走するな。その内死人がでる。」
蘭子の全力疾走の怖さを身をもって体験した葵は、この常識知らずの女の子を少し厳しめに叱っておいた。
そんな葵の心からの訴えが届いたのか、蘭子は急にシュンとしてしまう。
「そうだったのか……。それは悪いことをした。わたしは人を殺めたくない。もう廊下は走らない。」
どうやら反省している様子だ。
「分かればよろしい」
葵は思った以上に落ち込んでしまった蘭子を見て気まずくなってしまい、この件はこれにて手打ちとする事にした。
少し気まずくなった空気を変えてくれたのはヒロシだった。
「蘭子ちゃんって外国から来たの?めっちゃ可愛いよね?」
『可愛い』という言葉に気を良くした蘭子は、両手を腰に当てて胸を張った。
「そうだろう!私はこう見えても姫……あ、いや、私は普通の女の子だ!」
えっへん!と再び笑顔になり、2人の顔を交互に見ている。
(……姫って言ったよな?あと『私は普通の女の子』って自分から言うか?)
なにか違和感のある返事だった。
葵は黙って今の台詞を頭の中で繰り返す。
そして、目の前にいる不思議な女の子が何者なのか興味が湧き、改めて彼女をじっくりと観察した。
その姿は、ぱっちりとした大きな目、綺麗なエメラルドグリーンの瞳、小柄で人形のような金髪にウェーブのかかったツーサイドアップの髪型(さっき吹き飛ばされた時は髪を下ろしていたっけ)で、お世辞ではなく誰からもかわいいと言われるような容姿だった。
そんな女の子に話しかけられたのだと認識すると急に恥ずかしくなり、少し顔を伏せて頭をポリポリとかく。
そんな葵の心情も知らず、蘭子は続ける。
「確かにわたしは日本人ではない。留学というやつだ。遠い国から来ている」
なるほど。
ただのヤベー奴だと思っていたけど、どこかの国のお嬢様ってことか。
それなら少し常識外れなところも理解できるかもしれない。
姫って言いかけてたのは……いやいや、まさかそれはないだろう。
私立ではあるが、こんな一般の高校にどこかの国の要人が留学してくるなんてありえない。
多分、『こう見えても姫ではない!』とか言おうとしたんだろう。
なんとなく蘭子の素性がわかったところで、葵は違う質問をしてみた。
「さっき吹き飛ばされた時に助けてくれた男は、お前と一緒に留学してきた仲間か?」
あの男子生徒のことも気になっていた。
「あー、タカヤはなぁ……タカヤはすぐ怒る。あれもダメこれもダメってうるさいんだ」
タカヤって言うらしい。
蘭子の言い方からすると、やっぱり蘭子の世話役として同行してきた身内なのだろう。
大変そうな仕事を受けてしまったものだ。
「さっきもタカヤに怒られたんだ。あおいには謝りなさいって言われて、でもどこのクラスかわからなくて、どうしようって思ってたら、あおいは同じクラスで前の席で、だからすぐに謝れてよかった」
蘭子はシュンとしたり笑顔になったり、表情を忙しく変えながら葵にそう言った。
無邪気すぎる笑顔と、幼馴染以外に呼び捨てで呼ばれて少しドキっとしてしまった葵は慌てて返事をする。
「も、もういいって!とにかく、これからよろしくな!」
そう言って、恥ずかしかったので照れた自分を隠そうと目を逸らす。
「よろしく!あおい!」
しかし、せっかく逸らした目線の先に笑顔の蘭子が割り込んできて赤面してしまう。
そんな2人の様子を見てヒロシが叫んだ。
「葵に春がきた……。俺より先に……。どうしよう静香ああああ?」
突然名前を呼ばれた静香はすぐに反応する。
「ヒロシ、あんたちょっとうるさい。」
冷たい視線をヒロシ向けながら、やかましい幼馴染を叱りつけた。
普段からテンションの高いヒロシがゾンビみたいに自分の席へ戻って行く。
教室はいつの間にか賑やかになっていた。
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