31.黒髪黒眼の秘密
二人で大きなカウチに並んで座ると、リアの指がルーカスのものに絡んで優しく握られた。
予期せぬ恋人繋ぎに鼓動が早まる。
しかし彼女の意図は全く読めない。
「アーデルハイド様の意識が戻らなかった頃、私は魔界で有益な情報を探していたのです。封魔の力から初代魔王に関することまで色々調べているうちに、黒髪黒眼の秘密を知ってしまいましたの」
「秘密……?」
「黒髪と黒い瞳をもつ者は大きな負の感情に呑まれると偉大な黒魔法に目覚める、というものですわ」
落ち着いたトーンで話された内容に、思わずアイザックと目を合わせた。
黒魔法は他人の命を奪うことができるというものだ。
初代魔王はこの力を乱用して、多くの人間を虐殺したらしい。
ルーカスがその黒魔法を使えるかもしれない。
そうなれば魔王があそこまで自分を後継者にしたがる理由も納得できた。
「陛下はアーデルハイド様を魔界から追放することで、黒魔法を覚醒させようとしていたのですわ」
「でも黒魔法には目覚めなかったよ」
「ええ。ですから、陛下たちはあらゆる手を尽くしてアーデルハイド様を傷つけようとするでしょう。……例えば、相思相愛の恋人を殺すとか」
そこで漸くリアの行動に合点がいくと同時に、魔王に対する激しい憤りを覚えた。
「私はアイザックやフリードリヒ様ほど強くありませんから、一刻も早く距離を置くべきだと考えたのです」
「……じゃあ、なんで告白は受けてくれたの?」
あの時断ってくれれば、ショックはそこまで大きくなかったかもしれないのに。
聡明なリアに限って無意味なことはするはずがない。
じいっと彼女の顔を見つめると、みるみるうちに白い肌が赤く染まった。
「それは、私も舞い上がってしまって……。好きな人に告白されれば、断ることなんてできませんもの」
「僕のこと、本当に好きだったの?」
思わず聞き返すと、リアは恥ずかしそうに顔を逸らした。
「好きだったというか、ちゃんと今も好きですわ」
そう言う彼女の耳は真っ赤だった。
あまりの可愛すぎる反応に、片手で顔を覆って下を向く。
「……アイク、五分だけ二人きりにしてくれる?」
「喜んで。もう見てるこちらも耐えられそうにありませんから」
通常運転で余計な一言を残して退出するアイザック。
そっと彼女の頭に手を添えると、紫色の瞳が愛らしく見上げてきた。
淡いピンクに色づいた頬に優しく口付けを落として、柔らかく微笑む。
「好きだよ。……リアを絶対に守れるくらい誰よりも強くなるから、僕の傍にいてほしい」
「…………はい」
魔王を倒して、魔界をぶっ潰すため。
そして、愛しい恋人を守るため。
ルーカスは密かに魔界を出る決心を固めた。
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